書籍の出版部数が右肩下がりのなかで、「本」との出会いを広めるために活動しているNPO法人がある。その名もNPO法人本の学校。読書活動ではなく、「読者活動」を意識する。(武蔵大学松本ゼミ支局=山下 晃史・武蔵大学社会学部メディア社会学科3年)
今回話を聞いたのは、NPO法人本の学校理事の井澤尚之さんと顧問の永井伸和さん。NPO法人「本の学校」が設立されたのは1995年。鳥取県米子市に本拠を置く今井書店三代・今井兼文の意思によって施行された、読書推進や図書館づくり運動の一環で立ち上がった。
「本の学校」では実習店舗である今井ブックセンターに加え、本の博物館なども併設され、出版に関わる人を育成する出版人研修や生涯学習の講座公演などが行われている。
なかでも1995年から5年間にわたって「地域から描く21世紀の出版ビジョン」をテーマに米子で行われた「大山緑陰シンポジウム」では、全国から編集者や読者など本に関わる様々な立場の人が集まり、出版文化の現在と未来の課題について意見交換が行われた。
「本の学校」だが、2012年からはNPO法人として活動している。「読書活動ではなく読者活動を意識してきた」と語る永井さん。
本を読むことは個人の活動である。書店などが読者に働きかけるよりも読者一人ひとりがどのような生活を送っていきたいかを考えることが大切だ、という思いが「本の学校」の活動の原点だ。
現在は、今井ブックセンター二階で、印刷機や巨大絵本といった本に関する展示や、会議室を活用したセミナーなどを行なっている。「母親の胎内から老後まで、生涯を通じて読書を楽しんでほしい」という思いのもとに勉強会や実践活動や情報活動など様々なイベントを行い「生涯読書活動」を推進している。
「目新しいことを毎年やるというわけではないということもあり、支援してくれている人々との縁を薄くしないことが大切」と語る井澤さん。
東京で行う講座には米子の人々は来ることはできない。そしてその逆もありうる。本の学校に関心を持ってくれた人とコミュニケーションをとり、縁が薄くならないようにすることが現在の「本の学校」の課題だ。
昨年書店をリニューアルし、カフェが作られたことによって新たな客層が増えたと語る井澤さん。今井書店にしても図書館にしても多くの人が利用してくれていると思っていたが、リニューアルしてことによってまだまだ書店や図書館の客層を増やせると実感したそうだ。
「紙の本と電子書籍を補完し合う。電子書籍はハンデを抱えた人にとっては福音なんです」と語る永井さん。「本の学校」が大切にしている「本」とは紙の本だけでなく電子書籍も含まれている。
「映像は情報量がたくさんあり一瞬で情報を見ることのできるテレビもインターネットも大切。その中でどのように「本」と出会うかということが大切だ」と語る永井さんにインタビューの最後、今後の書店について話を伺ったところ「恐竜は滅びる時代が来たのかもしれませんね」と答えた。
今の時代大きな規模で独立性を持って取り組むのは容易ではない。小さな、声の届くグループでモデルをつくり、小さいグループが一つ一つ手を結んでそれを広めていく方が時間はかかるが、独自性を保ちながら生き残るには必要なことではないかと考えているそうだ。