■ソニーCSR担当常務ロングインタビュー㊤

ソニーがESG経営に大きく舵を切った。「環境」「社会」「企業統治」それぞれの分野において、長期的な視点で社会的価値の創出を目指すとともに、社員や株主の期待にも応える戦略だ。同社ESG戦略の陣頭指揮を執る神戸司郎常務(CSR・法務・広報など担当)に聞いた。(オルタナ編集長・森 摂/オルタナS編集長・池田真隆、写真・飯塚 麻美)

インタビューを受ける、ソニーの神戸司郎常務

——今年9月末に開いたESG説明会では、長期的な視点で社会価値を創出するために「パーパス」(存在意義)という言葉を使いましたね。ソニーがこの言葉を使うのは初めてですか。

そうですね。昨年4月に就任した吉田憲一郎社長が、ソニーのパーパスとバリュー(価値観)を再定義するために、海外を含む社員の意見を聞いて、今年1月に社内外に発表しました。

——「パーパス」「ミッション」「ビジョン」「バリュー」など、様々な言葉がある中で、「パーパス」という言葉を選んで使った理由は何ですか。

これまでも平井一夫前社長がミッション・ビジョン・バリューの「MVV」を掲げていたように、ソニーはできるだけシンプルな言葉で、多様なビジネスを手がけてきました。

そこで、社員が同じベクトルで業務に取り組めるよう考慮し、改めて「パーパス」という言葉が一番フィットすると考え、決めたのです。

ちょうど同じころ、資産運用最大手ブラックロックのラリー・フィンクCEOからレターが発信されました。

毎年、世界の大企業に送付しているようですが、そのレターでも「パーパス」の重要性が強調してありました。

——確かに世界では「パーパス」という言葉を使う大手企業が増えていますね。中学校の英語の授業では「目的」と教わりますが、私たちは「存在意義」と訳しています。

ソニーも、パーパスを存在意義という意味で捉えています。「Sony’s Purpose & Values」を、日本語では「ソニーの存在意義と価値観」と表記しています。

「世界を感動で満たす」というパーパスに込めた思い

インタビューを受ける、ソニーの神戸司郎常務

——「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパスを定めました。このフレーズにはどのような思いを込めましたか。

ソニーが約70年前に創られた時に、創業者の井深大氏が起草した設立趣意書の中で、「愉快なる理想工場の建設」という言葉を使っているのですが、その志は、ソニーに今も生きていて、特に私たちの世代の社員には浸透しています。

その一方で、時代の変化に伴い、ソニーを取り巻く環境も変わってきました。今ではグループ全体で約12万人の社員がいて、事業や人材がかなり多様になったのです。

そこで、全社員にとって分かりやすく、同じゴールに向かうための言葉を改めて考えていました。

ソニーが70年ずっとやってきたことは、技術力とクリエイティビティで世の中に感動を与え、人々の心を明るくすることです。こう考えて、最終的にこの言葉に行きつきました。

社員のエンゲージメントを役員の評価指標に

——長期的な視点で経営していくために、役員報酬の算定基準にESGの要素を入れたのですね。

まだ割合としてはそれほど大きくはないのですが、事業担当役員の業績報酬を決める際は、環境や品質に対する取り組みを考慮しています。

毎年、環境と品質への取り組みを事業別に評価していて、一番貢献したところを社内で表彰しています。それをしっかり報酬にも加味しようということで、環境・品質領域で加点・減点をすることに決めました。

ソニーの中で、特に人材は重要な要素であり、社員がやる気を持って仕事をできているか、会社に対してどう思っているかを調べるために、大規模な調査を年1回グローバル規模で行っています。

ES(従業員満足度)を測ることが目的ではありません。働きやすい職場かどうかだけでなく、トップメッセージはクリアか、上司との関係はどうかということも調べます。この調査の結果を、昨年から役員の業績報酬の評価指標に入れています。

——社員のエンゲージメントの向上は、どの企業にとっても重要ですが、非常に難しいことだと思います。実現のためには、何が必要だと考えますか。

まず、マネジメントから社員に対して、この会社はどこに向かっていて、あなたたち社員には何を期待しているのかを、できるだけ明確に共有することだと思います。

次に、健全な意味での「社員と会社の自立関係」がとても大事です。特に、ソニーは設立趣意書にあるように、歴史的に自由闊達な社風で、「個」を尊重してきました。日本企業に多い「右へならえ」とは違うと思います。

——役員の業績連動報酬の中で、エンゲージメントや環境に関する割合はどれくらいですか。

まだそこまで大きくはないです。ソニーの役員報酬は、ベース給として現金での定額報酬と、業績に応じたボーナス、ストック・オプションなどの株価連動報酬などがあるのですが、ボーナスは短期の業績、株価連動報酬は長期の業績を評価するものになります。

上位の役職の役員ほど、長期の業績に連動した報酬の割合が大きくなる仕組みになっています。

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神戸司郎(かんべしろう)
ソニー株式会社 執行役、常務
1984年 4月 ソニー株式会社 入社
グループ戦略部門長、広報センター長を経て現職。
法務、コンプライアンス、広報、CSR、渉外、品質、環境、情報セキュリティ、プライバシーを担当。




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