殺処分一歩手前で救い出される命がある一方で、今日もどこかで、将来殺処分の対象になるかもしれない新たな命が生まれています。特に猫の繁殖力は強く、一回の出産で平均して5頭の子を産みます。犬猫保護の傍ら、猫の不妊手術専門のクリックを運営、過剰繁殖の問題に取り組むNPOがあります。(JAMMIN=山本 めぐみ)

猫の不妊手術に特化したクリニックを運営

「ねことわたし スペイクリニック」の外観

兵庫県神戸市にある「ねことわたし スペイクリニック」。不幸な犬猫を増やさないために保護の傍ら、過剰繁殖の問題に取り組むNPO法人「KATZOC(カゾック)」が運営する不妊手術専門の動物病院です。不妊手術を専門にした動物病院は、日本でも東京を中心にここ数年で少しずつ増えているといいます。

「スペイクリニックという言葉自体まだまだ馴染みが薄いかもしれませんが、アメリカではメジャーで、人口25万人に対してスペイクリニックが一つあるという状況です。正式名称は『スペイ・アンド・ニューター・クリニック』ですが、略して『スペイクリニック』と呼ばれています」

KATZOCの山田さん(左)と中原さん

そう話すのは、KATZOC理事の山田亜美香(やまだ・あみか)さん(38)。このクリニックでは、1日15頭ほどの猫の避妊・去勢手術を行っており、そのうち6〜7割が野良猫や保護猫だといいます。スペイクリニックの必要性について、KATZOCの宮古島事業部「宮古島SAVE THE ANIMALS」代表の中原絵梨奈(なかはら・えりな)さん(34)は、次のように話します。

「猫は繁殖力が強く、一回の出産で3〜7頭、平均5頭の子猫を生みます。メスの猫は生後4ヶ月で妊娠できるようになり、さらに年に2、3回妊娠できます。そのため、避妊去勢していない猫を放置するとあっという間に数が増えます。そうすると近隣で糞尿や鳴き声などの問題が起きてくるため、保健所などに収容され、そのまま殺処分されてしまうという現実があります」

保健所に収容される猫の7割は、
生まれて間もない小さな子猫

クリニックの看板猫「ひじき」。大阪で保護されたという。「風邪が悪化して目が見えなくなってしまい、餌場をあちこち転々としていたのではないかと思います。突然現れ、私たちのところで引き取ることにしました。目は見えませんが、元気そのものです」(山田さん)

保健所に収容される猫のうち7割は、生まれて間もない小さな子猫だといいます。「数が増え、問題が増えることで、何の罪もない子猫が殺されてしまう。避妊・去勢手術を徹底すれば、地域で起きてくる問題を減らすことも、殺処分の対象になる命を減らすこともできる」と山田さんは指摘します。日本各地で「TNR活動」という、猫を捕獲し、不妊施術をしてから元の場所に戻す活動がボランティアの手によって行われているのはこのためで、過剰繁殖を抑えることで、人と猫とが共に安心して生きられる社会を目指しています。

手術の前に、変わったことはないか、個体の全身をくまなくチェック

しかし、一度に10頭や15頭といった多数の猫を捕獲した場合、動物病院側で、不妊手術を一度に全て受け入れてもらえないという現実があるといいます。不妊手術に特化した動物病院をオープンしたのには、TNR活動に取り組むボランティアさんの負担を少しでも軽減したいという二人の思いがありました。

「猫は各地にいて、猫の数だけボランティアさんがいるといっても過言ではありません。アクティブにTNR活動を行っているボランティアさんからすると、専門のクリニックで一度に不妊手術ができることで、より効率的に活動ができます」

「関西圏に数カ所あるスペイクリニックでは、毎月200〜800頭ほどの頭数を手術されていますが、それだけ手術をしても、終わりがなかなか見えない。まだまだ需要があると感じています。また、経済的な面からもメリットがあります。不妊手術に特化し出費をギリギリまで抑えているため、他よりもローコストでの運営が可能になり、手術料金を他よりも少し安く設定することができます」

根本的な問題解決には、地域の協力が必須

手術の様子。オスメスや体の大きさによっても異なるが、一頭あたり手術にかかる時間はオスで5〜15分、メスで15〜30分ほどだという

兵庫県加古川市や大阪府松原市と協働でTNR活動にも取り組んでいるKATZOC。「専門家が間に入り、地域住民のTNR活動を後押しする仕組みづくりも必要」と山田さん。

「日本は住宅密集地が多く、猫を通じたトラブルも少なくありません。一つの地域でどれだけTNRをがんばっても、たった一箇所でも避妊・去勢をしないで猫がどんどん繁殖する場所があれば、猫の数は増えていきます。また、TNR活動をするにあたり、猫の捕獲には入念な準備も必要です」

取材に訪れた日は、ボランティアさんが連れてきた野良猫たちを15頭ほど手術するとのこと。カゴの中で待機する猫

「そうなった時に、やはり私たちのように外部の人間が取り組むのではなく、地域住民の方たちが協力し合うことで、問題の根本的な解決が実現すると思っています」

また、より効果の高いTNRのやり方について、良い前例を作って全国のボランティアさんたたちに示していきたいと話します。

「同じ費用と手間をかけるのであれば、なるべく早い段階で不妊手術ができれば、未来に殺処分対象となるかもしれない命を一匹でも多く救うことができます。早期不妊手術は、健康上のメリットもあるので推奨しています。また、一つの地域で一気にTNRすることも大切。一気に不妊手術をすれば、その地域ではそれ以上野良猫は増えません。より大きな効果が期待できます」

温暖であるがゆえの宮古島の課題

「宮古島SAVE THE ANIMALS」シェルター外観。「最近ボランティアさんがお花を植えてくれました」(中原さん)

KATZOCのもう一つの活動が、沖縄の宮古島で犬猫の保護・譲渡を行う「宮古島SAVE THE ANIMALS」の活動です。

「宮古島は大阪での活動とはまた別の課題がある」と話すのは「宮古島SAVE THE ANIMALS」代表の中原さん。温暖で穏やかな地域のため、野良犬猫が安心して生きられる環境、さらに一年中繁殖できる環境が整っていることが野良犬猫を増やし、結果として保健所に収容される犬猫を増やしてしまう結果につながっていると指摘します。

「屋外でゴロゴロしている野良犬猫を見ると、自由でいいなあと思う方もいらっしゃるかもしれません。でも実際、野良犬猫の寿命は飼い犬猫の半分以下です。野良犬猫の中には病気になったり十分な食料がなかったりでガリガリにやせ細り、人間の介入が必要なケースもたくさんあります。住民の方と何かトラブルが起きれば、保健所に収容されて殺されてしまいます。野良犬は狂犬病のワクチンも接種していないので、問題は深刻です」

「宮古島の観光地にも野良犬がいますが、なかなか捕獲することができません。また、犬は猫と違って捕獲して手術と狂犬病ワクチンをしたあとも元の場所の戻すことが基本的にできないので保護する数にも限界があり、大きな課題です」(中原さん)

現在、宮古島のシェルターには犬猫それぞれ80頭を超える合計160頭以上が収容されているといいますが、2019年10月で保健所からの犬猫の引き出しを一旦ストップしました。そこにはどのような意図があるのでしょうか。

「団体として今後、過剰繁殖の問題を解決するための方向に大きく舵を切ろうと考えています」と山田さん。

「私も中原も長年ずっと犬猫の保護活動に携わってきました。たくさんの犬猫を保護しながら、どうやったらこの問題を解決できるんだろうと考えた時に、過剰繁殖の問題を乗り越えないことには不幸な命を減らすことはできないと痛感しました」

「犬猫の問題の根底にはすべてにおいて過剰繁殖があると感じていて、シェルター運営や里親さんを探す譲渡会活動から、少しずつ過剰繁殖の問題に注力して活動していきたいと思っています。TNRや不妊手術は本当に地味な活動で、救われる犬猫の姿がすぐに見えるわけでもなく、一見するとわかりづらいところがあるかもしれません。しかし5年後10年後の未来を見据えた時、必ず必要な活動だと思っています」

犬猫の本当の幸せとは

宮古島スタッフの皆さん。シェルターのシンボルになっている壁画の前で

「行政によって殺処分される犬猫のうち、約半数は小さな子猫です。猫の避妊去勢を徹底できれば、殺処分数をずっと減らすことができる。『殺処分“対象”ゼロ』を目指して活動していきたい」と二人。

「犬猫の本当の幸せを考えた時、『殺処分ゼロ』という言葉は私たちだけの満足のようにも思える」と山田さんは話します。

「もちろん、殺処分される命はなくなるべきです。しかし、保健所にいる犬猫を引き取ってただ保護するだけでは根本的な問題は解決しないのではないでしょうか。不妊手術には賛否あります。『手術なんて必要ない』『自然の姿のままが良い』という意見もあります。しかし、だからといって生まれたはいいけれど、年間4万3千を超える小さな命が殺処分されているという現実を目の前にした時、果たしてそれでも数を増やし続けるのが良いのでしょうか」

「保護にも譲渡にも、限界があります。皆さんいっぱいいっぱいの中、命を守りたいと必死で活動しています。だからこそ私たちは、過剰繁殖の問題にコミットしていきたいと思っています」

過剰繁殖の問題に取り組む活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「KATZOC」と2週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×KATZOC」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、宮古島の保護犬猫シェルターに最低限の医療設備を整えるための資金となります。

「2020年から過剰繁殖の問題に注力していきたい一方で、宮古島のシェルターでは犬猫を多数保護しており、医療費や手術費がかさんでいるのが現状です。というのも、100を超える数の犬猫がいながら、私たちのシェルターには医療設備が一切なく、犬猫の診察や手術のたびに島の獣医さんの元を訪れています。シェルターに最低限の医療設備があれば、ここを拠点に島外からも獣医の先生にボランティアで来ていただくこともでき、出費を抑えることができます。チャリティーアイテムで応援いただけたら嬉しいです」

「JAMMIN×KATZOC」12/23~1/5の2週間限定販売のコラボアイテム(写真は猫パーカー(左)、犬パーカー(右)。価格は700円のチャリティー・税込で8400円。アイテムは他にTシャツやスウェット、トートバッグなども

JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、力強く大地を駆ける犬と猫の姿。“Live your life. It is so precious”、「あなたの命を生きて。それはとても特別なもの」というメッセージを添えました。購入することで、KATZOCの活動を応援できます。

チャリティーアイテムの販売期間は、12月23日~1月5日の2週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

不幸な命を一つでも救いたい。犬猫の不妊手術を徹底、「殺処分”対象”の犬猫ゼロ」を目指す〜NPO法人KATZOC/ 宮古島SAVE THE ANIMALS

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2019年11月に創業7年目を迎え、コラボした団体の数は280を超え、チャリティー総額は3,900万円を突破しました。

【JAMMIN】



ホームページはこちら
facebookはこちら

twitterはこちら



Instagramはこちら




[showwhatsnew]

【編集部おすすめの最新ニュースやイベント情報などをLINEでお届け!】
友だち追加