昨年、日本で4月10日が「きょうだいの日」として認定・登録されました。アメリカではメジャーだという「きょうだいの日」。父の日や母の日と同じように兄弟姉妹に向けて日頃の感謝を伝える日ですが、この日が病気や障がいのある子どもをきょうだいに持ち、特殊な環境にある「きょうだい児」の存在を知るきっかけとして広がってほしいと活動するNPOがあります。(JAMMIN=山本 めぐみ)
「きょうだいの日」とは
昨年、病気や障がいのある子どもの「きょうだい」のためのNPO法人「しぶたね」(大阪)が200人以上の制定発起人とともに4月10日を「きょうだいの日(シブリングデー)」と定め、一般社団法人日本記念日協会に認定・登録されました。日本では新しい記念日ですが、アメリカでは、50ある州のうち49の州で4月10日が「Sibling Day(シブリングデー、きょうだいの日)」として認められており、この日には著名人がSNSに写真をアップしたり、企業がこの日にあわせてキャンペーンを展開したりと盛り上がりを見せているといいます。
「アメリカではお祭りのように広がっている『きょうだいの日』は、もともとは自身のきょうだいを亡くした一人のアメリカ人が『亡くなったきょうだいを思う日に』と、ごきょうだいの誕生日だった4月10日を『きょうだいの日』に制定したことから始まりました」と話すのは、NPO法人「しぶたね」代表の清田悠代(きよた・ひさよ)さん(43)。清田さんは、自身の弟が長い間闘病生活を送っていたことから、「きょうだい児」や「きょうだい」と呼ばれる、病気や障がいのある子どものきょうだいを支援したいと、17年前に団体を立ち上げました。
「きょうだい児のことを知ってくださる方もこの2〜3年でずいぶん増えてきました。しかし、医療や福祉など限られた現場の方に知っていただくことはあっても、まだ一般的に広くは知られていません」と清田さん。
「きょうだいの中には、『障がいのあるきょうだいがいることを理由に結婚が破談になった』『ずっと病気の妹の世話をしていたためにやりたいことができなかった』…、そんな複雑な思いを抱えている方もいます。きょうだいが自身の兄弟姉妹に複雑な感情を抱くことを、誰にも否定してほしくないと思っています」
「あなたがしっかり支えてあげて」
きょうだいにのしかかる周囲からの期待
「きょうだいには、知らぬ間にさまざまな責任や、周囲からの『こうあるべき』にさらされているという現実がある」と指摘するのは、清田さんと共に「しぶたね」の専属レンジャーとして活動する「シブレッド」さん。
「病気の弟や妹、お兄さんお姉さんの車椅子を、そのきょうだいが押していたとして、すぐ側にいるにも関わらず大人たちが病気の子にばかり意識を向けて、自分の存在はまるで無いように扱われたり、意識を向けてくれたと思ったら『あなたがしっかりして支えてあげてね』と言われたりといったことがあります」
さらに、家庭の中でもきょうだいの存在は安定しないとシブレッドさんは指摘します。
「特殊な環境にあるきょうだいは、『子どもだから話してもわからないだろう』と家族の蚊帳の外に置かれてしまうことがある一方で、都合の良い時は『あなたはもう大人でしょう』と言われてしまう。周囲の大人たちから矛盾した扱いを受けてしまうことがあります」
そんな環境の中で、「『大事にされている』ということが本人にとって見えづらく、存在価値を感じにくい」と清田さんはきょうだいの抱える問題を指摘します。
「『大人たちの目が自分に向かないのは、それだけの価値が自分にないからだ』と結論づけ、諦めてしまう。自己肯定感が下がり、『自分は愛される価値がない』『要らない子なんだ』と自分の大切さがわからなくなってしまう。きょうだいと接していて特につらい部分です」
「『きょうだいの日』がやがてはキラキラしたお祭りのような記念日として広がっていくことになるかもしれません。でもそのルーツを辿った時に、『病気や障がいのある子どものきょうだいのために始まった日』ということが残っていれば、きょうだいが『この日は僕らの日なんだ』とたくさんの人の思いを感じてくれるのではないかと思っています」
「きょうだいの日」を
きょうだいの存在を知ってもらうきっかけに
「きょうだいの日」の制定にはもう一つ、この日が広く一般の人たちにきょうだいの存在を知ってもらうきっかけとして起爆剤になればという思いがあったと二人は話します。
きょうだいの存在が知られていないために、周囲からの無理解や不用意な発言が、知らぬ間にきょうだいを傷つけていることがあると二人は話します。
2008年に400名ほどの大人のきょうだいを対象に「小学校の頃、兄弟姉妹に障がいがあることで困ったり悩んだりしたことは何か」というアンケートをとったところ、1位は「社会の人の発言や行動への困惑」で、23%を占めていたといいます。
「社会の無理解によって、病気の兄弟姉妹への偏見が幼いきょうだいに向けられたり、大切な兄弟姉妹のことを差別されていると感じ、傷ついたりするきょうだいがいます。きょうだいにとって社会が優しくなることができれば、このしんどさをなくすことができます」
「活動を始めて17年、最近は少しずつ知ってもらうことが増えてきましたが、まだまだ業界の方たちにしかきょうだいの存在が知られていないと感じています。病気や障がいのある子どもだけでなく、そのきょうだいの存在も一般化することで、きょうだいがより安心して過ごせる社会が広がってほしい」
きょうだいが「愛されている」と感じられる土台を
「病気をもつお子さんに医療的なケアが必要な場合は、どうしてもその子に親御さんがかかりきりにならざるを得ず、きょうだいと一緒に遊んだりお話したり、ゆっくり過ごす時間をなかなかとることが難しい」と清田さん。
「医療的ケアが必要な兄弟姉妹のケアのお手伝いを、幼いきょうだいがしていることもあります。お手伝いがすべて悪いわけではないのですが、それが当たり前にならないように、きょうだいさんが無理をしていないか、我慢していないか、支援される方もその声に耳を傾けてほしい」と訴えます。
家族やきょうだいが孤立しないように、家族だけで問題を解決しようとするのではなく、周囲のサポートを得たり相談できる人につながったりして、工夫しながら無理のない方法を見出してほしいと二人。
「私たちもこの仕事でたくさんの専門職の方たちと関わらせていただき、きょうだいのことも一緒に考えたいと思う人がたくさんいることを感じてきました。普段から親御さんが、お子さんの病気や障がいのこと、薬や治療のことなどについてだけでなく、ご家庭のことやきょうだいさんのことを気軽に話せる場所が増えれば、きょうだいさんが安心して暮らせる環境ももっと増えていくのではないかと思います」
「団体としては、家族のことを周りから支える支え手を増やしていきたいと思っています。さまざまな方法で、きょうだいさんが安心して生きていけるよう、最低限『愛されている、大事にされている』と感じることができる、きょうだいさんにそれを伝えることができる土台を作っていきたい。親御さんもきょうだいさんのことを大好きで気にかけているのに、病気のある子どもの方にかかりきりになってしまい、それを伝える余裕がないこともあります。本当は愛しているのに、それが見えづらいというのはもったいないので、親子をつなぐ糸が絡まらないようにしたい」
「きょうだいの日」周知を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「しぶたね」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。
「JAMMIN×しぶたね」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、「きょうだいの日」を広めるため、全国の郵便局に「きょうだいの日」のポスターを掲示するための資金となります。
「きょうだいのことをたくさんの方に知っていただきたく『きょうだいの日』のポスターを全国100箇所の郵便局に掲示する予定です。掲示は1箇所あたり3000円で、2週間の広告掲示ができます。よりたくさんの方の目に留まるように、各地の大きな郵便局を選んでいます。全国100箇所での掲示を目指して、ぜひチャリティーにご協力いただけたら」(清田さん)
JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、さまざまな花や風船を並べた小さな売店。きょうだいのことを思う大人たちの優しい気持ちが、さまざまなかたちできょうだいに届いてほしいという願いをデザインで表現しました。
チャリティーアイテムの販売期間は、3月16日~3月22日の1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。
JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・4月10日は「きょうだいの日」。病気や障がいのある子どもの「きょうだい」の存在を知り、思いを馳せる優しい記念日に〜NPO法人しぶたね
山本 めぐみ(JAMMIN): JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2019年11月に創業7年目を迎え、コラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は4,000万円を突破しました!