トヨタ自動車の豊田章男社長は12日、2020年3月期決算説明会で、新型コロナ危機を踏まえたうえで「SDGsを強化する」と宣言した。新型コロナ危機を、「企業も人間もどう生きるのかを考え直す最後の機会」とし、「世界中で自分以外の誰かの幸せを願い、行動できる人財を育てることが私の使命、すなわちSDGsに本気で取り組むことだ」と強調した。(オルタナ副編集長=吉田 広子、オルタナS編集長=池田 真隆)
トヨタ自動車は2019年6月に「サステナビリティ推進室」を新設して以来、SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)に本格的に取り組む体制づくりを進めてきた。
これまで同社ではサステナビリティの担当領域が部署ごとに分かれていた。環境部は環境対策(E)、社会貢献推進部は社会貢献(S)、経営支援室はガバナンス(G)を担当していた。サステナビリティ推進室をつくったことで、ESGの領域を全社で推進していく方向に切り替えた。
さらに今年2月にはサステナビリティ部門を統括するチーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSO)を新設。早川茂副会長が就任した。
運輸関連のCO2排出量は、世界全体の排出量の約4分の1を占めている。こうしたことから、同社では特に環境分野に力を入れる。
4月には、電気自動車や再生可能エネルギーの普及に向けた2025年までの環境計画を策定し、その一環として、7月にトヨタグリーンエナジー有限責任事業組合(LLP、愛知県名古屋市)を設立すると発表した。同LLPで、再生可能エネルギーを取得し、トヨタ自動車への供給を目指す。
トヨタが環境分野に力を入れる土台に、2015年に発表した温室効果ガスの削減目標「環境チャレンジ2050」がある。これは、2050年までに、「新車1台当たりの平均CO2排出量を90%削減(2010年比)」「材料・部品・モノづくりでのCO2排出ゼロ」「グローバル規模で工場CO2排出ゼロ」を目指すものだ。
豊田社長は5月12日の決算説明会で、コロナ後の経営には、環境や生き物、ステークホルダーとの共存が欠かせないと強調した。骨子は下記の通り。
◆コロナ危機は人類が変わる「ラストチャンス」
コロナ危機では、マスクを国内で調達できない事態に陥った。モノづくりの基本は、より良いモノをより安くつくることだが、安さを追及し過ぎてしまうことで、この状況になった。
モノづくりにはもう一つ大事な基本がある。それは、モノづくりは人づくりであるということ。人はコストではない。人は「改善」の源、モノづくりを発展させる原動力だ。
多くのモノづくり企業が自社のリソースを活用して、医療用フェイスシールドやガウン、マスクの開発に乗り出したように、米国トヨタでも3Dプリンターを使って医療用フェイスシールドをつくり、日本や欧州に展開した。
こうしたことができるのは国内生産300万台体制を守ってきたから。正確には、300万台に固執してきたのではなく、世の中が困ったときに必要なモノをつくることができる人材育成を守ってきた。これは決して簡単なことではない。
今は、やたらとV字回復がもてはやされる時代になってしまった。雇用や国内でのモノづくり体制を犠牲にして業績を回復させることが、批判ではなく、評価されることが多い。
それは違う。企業規模に関係なく、苦しいときこそ技術と技能を守り抜いてきた企業が日本にはたくさんある。そういう企業を応援できる社会が必要だ。
最後に私が最も大切だと考えていることを述べる。
トヨタの企業体質は危機に直面するたびに強くなったと言われる。しかし、社長に就任してから11年間で一度も強くしたいと思ったことはない。トヨタを必要とされる企業にしたいと思ってきた。
いまは、何のために強くなるのか、どのようにして強くなるのかが大切だ。世の中の役に立つため、世界の仲間と強くなることが必要だと考えている。
ゴールデンウィーク中にある方から手紙をいただいた。そこには、人間だけが右往左往している。人間が主人公と思っている地球という劇場を変えるいい機会と記されていた。
今回のコロナ危機で、人間として、企業としてどう生きるのか考えている。地球に生きるすべての生き物、社会、ステークホルダーともに生きる企業活動が必要だ。
そして、感謝の気持ちにも気付かされた。リスクを背負いながら、医療の最前線で働き、我々を守ってくれている人々がいる。
当たりまえに思っていたことが当たりまえではないと気付いた。それは、どこかで誰かががんばっているおかげなのだ。
地球環境を含め、人類がお互いにありがとうと言い合えるようになるために、企業も人間もどう生きるのかを考え直すときだ。これがラストチャンスかもしれない。
私たちの使命は世界中の人が幸せになるモノやサービスを提供すること。幸せの量産である。
そのためには、世界中で自分以外の誰かの幸せを願い、行動できるトヨタパーソンを育てることが私に課せられた使命である。すなわち、SDGsに本気で取り組むことを意味する。ウィズコロナ、アフターコロナの時代に向けて、全身全霊で取り組みたい。
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