――できる範囲で行動を起こしていくことが大事ですね。
理想を掲げても、実現可能な範囲で動いていかなければ「絵に描いた餅」になってしまいます。志さえ持ち続ければ、読者の数や自分たちの影響力に執着しなくなると思います。
逆に、影響力に執着しすぎるとどんどん志が陰っていき、折れてしまう可能性もあります。二次的な要因にこだわり、目標を達成できないのは本末転倒です。とにかくコツコツ努力を積み重ねること。それがプロフェッショナルとして成功するための条件です。
どんな目標も達成するのは大変です。なぜか、そこを簡単に捉えている人が多い気がします。原発の問題でいえば、何十年もかけて作られた巨大な国家プロジェクトをデモに行くだけで中止できると考えるのは現実的ではありません。
そこで落胆するのは甘い。そう簡単に崩れるシステムではありません。だからといって、そのまま自分の影響力のなさに失望していたら、志を失うだけです。
――どうすれば、世代間に横たわる価値観のギャップを埋めることができると思いますか。
頑固な上の世代に抗うよりも、次世代に対し、自分の信じる教育をすることが、世の中を早く変える方法だと思います。
もう一つ大事なことは、自分を表現することです。意思表示をしなければ、世間の反応以前に、自分の現状が変わらないわけです。自分を変えていかなければ、人に意見を伝えることはできません。
■変わるときはガラッと変わる。手のひらを返したように
――社会問題に世間の関心が高まってきている反面、無関心な人々も大勢います。どう関心を喚起すればいいと思われますか。
それは価値観の問題です。僕は、どんな意見も個人の持つ価値観に対抗できないと思います。その価値観を形成するものは、知識や知恵です。それらを自分が吸収し、消化して、価値観まで昇華されるのです。
時間がかかることだし、経験が必要です。その過程で教育の果たす役割はすごく大事な要素です。学校教育と同様に社内教育も大切だと思います。
――震災以降、テレビ離れが叫ばれています。
信用していないのならテレビは消すことをお勧めします。ただ、圧倒的大多数の人間が「お茶の間洗脳マシーン」の前に座っている以上は、世の中は変わらないと思います。
だからといって、テレビ離れを推奨することはしません。見たい人は見ればいい。僕だって、映画やスポーツなどの娯楽番組は見ます。企業という存在を完全に否定する気もありません。ただ、テレビ画面に映し出されるもの以外も選択肢に入れておくことは必要です。
僕の両親も震災直後はテレビからの情報を鵜呑みにしていました。でも、最近は「テレビなんて誰も信用していない」と言います。変わるときはガラッと変わるんです。手のひらを返したように。
――デモでは排除される側にも、排除する側にも一理あります。それは、デモ隊にとっては集会する権利であり、警察にとっての交通規制です。互いの「当たり前」がぶつかり合うってしまう。主張の異なる集団の架け橋となるのがアートや宗教だと思います。
宗教と政治が混ざることには反対です。ただし、ある程度は避けられない部分もあると思います。どんな組織でも、お金が絡むと理念と現実のバランスを崩しがちです。大手メディアの報道がスポンサーのお金の力で歪められているのがいい例です。
そこで問われるのはやはり価値観です。お金に絶対的な権力があるという価値観ならば、お金持ち=権力者です。世界中でそこに異議申し立てをしているのが99%の人たちです。
僕はオルタナティブな精神を保ち、活動を続けていきたいと思っています。少なくとも自分のファンには通り一辺倒ではない音楽を届けたいと思っています。敢えて人がやることを自分がやる必要はないと思っています。
――今後、日本社会が成熟するには何が必要だと思いますか。
甘えないことです。日本という国の体質に甘えが見られます。例えば、教育がいい例です。教育は与えられるものではありません。
自分で獲得するものです。そこを勘違いしている。「与えろ」と要求するばかりで、与えられたものに対しては、学校や教師に対して文句を言う。
正直、「どれだけ甘やかされているんだ」と思います。そういう歪んだ部分もあるけれど、日本の批判に終始したくはありません。これだけ組織力があって、インフラの整備も世界一です。人びとは律儀で、素晴らしい文化や歴史もある。本当に素晴らしい魅力に溢れた国です。
だから、世界に誇れる部分を伸ばして、改善するべき部分はどんどん改善していけばいいんです。いい部分も悪い部分もあるのが世の常です。いい面ばかりを見せ続け、社会の問題に対しては、「臭いものには蓋」といえる姿勢をとる。その好例が、今回の原発事故です。
今まで「安全」、つまりいい面だけを見せられ、それを多くの人が鵜呑みにしてきたのです。悪い面に関しては共有されなかったことがこれほど事態を悪化させた事実も、今回の事故から学ぶべきことだと思います。
――根源的な問題が解決されなければ、革命や代替エネルギーへのシフトが成し遂げられても、人間社会は前進しない気がします。
文明や進化は継ぎ足していく過程です。減らすことも逆戻りもできません。人間の遺伝子や細胞レベルですら、すごく効率のいい部分と悪い部分が残っています。それは進化が巻き戻しできないからです。
その意味で、人間は選択し続け、変化していく存在といえます。悪い物をつくったから壊すという考え方だと否定的になります。
例えば、エネルギー問題なら送電の効率を上げる方法を考えればいいのです。答えはいくらでもあります。星の数ほどある答えを、二択か三択しかないように錯覚させるのがメディアのやり方です。
これだけ皆に情報が行き渡る時代なのだから、これまで以上に皆の意見を聞き入れるような仕組みができればいいと思いますね。