下北沢にある国際協力カフェINSTEP LIGHT(インステップライト)が8月に閉店する。去年の9月にオープンして1年間で国際協力や震災支援をする学生を中心に、350回以上のイベントがここで開催された。社会人・学生・フリーターなどカテゴライズを超えて様々な人同士が交流してきたが、それは店主である小川光一氏の願いでもあった。(聞き手・オルタナS副編集長=池田真隆 オルタナS企画局長=板里彩乃)


小川光一さん。INSTEP LIGHTにて。


■このカフェからはまだ生まれるものがたくさんあったと思う。

――このカフェをオープンしたときに、目標を立てていたと思いますが、その目標は達成できましたか。また、もし達成できていなければ理由を教えてください。

小川:このカフェを開店した背景には、何か活動をしている人たちをサポートする空間を作りたい気持ちがありました。自分自身が震災支援活動や国際協力活動をしていて実感したのが、活動をする人たちの発表をする場が少ないということでした。だから、いつでも使えて、来れば誰かと出会える場所が必要だと思っていました。

実際、1年間で350回以上のイベントがここで実施されました。音響や規模など至らない点もあったと思いますが、単純に回数だけをみれば、スペースとしてのサポートや、人のつながり、団体間の情報交換などもできていたのではないかと思っています。

ただ、完全燃焼して満足しているかと言えばそうではありません。1年間で終わるつもりはなかったし、まだこの場所から生まれるものがいっぱいあったはずだと思っています。

――1年間で350回のイベントが開催されました。その7割が学生によるイベントだったそうですね。光一さんはこの場所で人をつなげていきたいと思っていましたが、なぜつなげたいと思ったのでしょうか。

小川:自分の活動の根本にもありますが、人をカテゴライズ毎に分けるのが嫌いなのです。自分の信条では、ボランティアだろうが、ビジネスだろうが、遊んでいようが、構わないと思っています。ただ、その前提にある人として大切なことを大切にしてほしいのです。

このカフェで、「ぼく、国際協力してます!」って言い回ってる学生が、階段でゴミをポイ捨てして帰ったり、豊富な海外ボランティアの経験がある人が、お札を投げるように渡して「ありがとう」も言わずに帰ったり、そんな光景を目にしてきました。

近くにいる人を大切にするとか、「いただきます」をちゃんと言うとか、そういう人として当たり前のことが抜け落ちて活動している人が多くて、それを見ると非常に残念に思います。

また、例えば、カンボジアを支援している団体が別の団体を批判したり、意地張ってばらばらで活動していることがあります。一緒に活動すればできることも増えていくはずなのに、そういう乱立が残念に思います。

そして、その乱立はボランティア団体間にだけでなく、社会人と学生の間にも感じます。学生は社会人に対して、社会人は学生に対して、お互いが距離を置いていることがあります。だから、このカフェで学生や社会人のカテゴライズを壊し、一緒に交流し合えるイベントを開催してきました。

やはり閉店のことについて話すのは、心が痛むという。


■カフェ激戦区の下北沢で一年営業できたのはこのカフェを愛してくれた人たちがいたから

――光一さんがこのカフェを通じて得たことは何でしょうか。

小川:今まで出会った人達との絆がより深くなったことが大きいですね。今までだと講演をして、そこで挨拶をして関係が途絶えることが多かったが、ここにいることで再会できるようになりました。今では、出会いよりも再会を大事にしようと思っています。

そして、自分の未熟さに気づけたことも得たことです。このカフェを通してたくさんの人たちに支えてもらいました。でも、自分はその恩返しができていません。自分の力の未熟さが分かったので、これからの人生で返していきたいです。

――今まで多くのお客さんが全国から来店してきました。そのお客さんに対してのメッセージをお願いします。

小川:閉店を発表してからものすごく反響があり、400人くらいから連絡がきました。怒りをあらわにする人や目の前で泣きじゃくる人もいました。自分が作った飲食店が、それだけたくさんの人に愛されるお店になっていたのだと実感しました。

カフェ激戦区とされる下北沢で一年間できたのは、間違いなくこの店を愛してくれた人たちのおかげです。本当にありがとうという気持ちを伝えたいです。そして同時に、そういう場所を潰してしまうことで、申し訳ない気持ちもあります。

でも、確かにさびいしいけど、この場所がなくなっても、この場所で生まれた人とのつながりがなくなるわけではないので、ここで生まれたつながりやきっかけをこれからも大事にしてもらえたら幸いです。

――カフェを閉店後、光一さんは何をする予定ですか。

小川:とりあえず、今まで身体に悪い生活を送っていたので、健康のためにもキックボクシングを始めようと思っています。やるからには、プロのライセンス取得を目指します。ただ、キックボクサーとして生活を送っていこうとは考えていません。あくまで健康のためです(笑)。

そして、今までもそうでしたが、差別や偏見をなくすために活動していきます。この想いが自分の大きな軸になっています。映像などを通して、一人でも多くの人に社会の現状を伝えて、この世界から差別や偏見をなくしていきたいです。





小川光一:1987年5月29生 25歳
「ゴミ拾うのも電車で席譲るのも国際協力するのも全部一緒」という想いの上で、ドキュメンタリー映画監督やアフリカの孤児院支援等、国内外に関係なく多岐に活動する25歳。東北地方太平洋沖地震の翌日にはNPOみんつなを結成。岩手県陸前高田市を中心に支援を続けている。また、東京・下北沢にて国際協力カフェを2011年9月1日オープン。日本全国での講演活動も年間30回ペースで行っている。


【所属】
・国際協力カフェ「INSTEP LIGHT」店主
・アフリカ支援NPO法人MUKWANO第三期正会員
報道関連NGO LIVEonWIREクリエイティブディレクター
映像制作NGO LUZ FACTORY共同理事長
『それでも運命にイエスという』監督(小学舘にて文庫化)
・東北支援NPOみんつな共同代表