年間所得3000ドル以下のBOP層と呼ばれる人たちを対象にしたビジネスを、NECがインドで取り組み出した。その詳細を、開発メディアganas記者の依岡意人氏に寄稿してもらった。





NECが、インドでBOP(Base of the Pyramid)ビジネスに乗り出す。西インドのマハーラーシュトラ州やカルナータカ州などの農村部に水耕栽培設備を導入し、女性や障がい者らの手によって無農薬の野菜や果物を生産。富裕層を顧客とする大手スーパーやホテル、外食チェーンに販売していく計画だ。事業化可能性調査(FS)はすでに開始した。

水耕栽培の様子


この事業にはさまざまな企業・団体がかかわっている。水耕栽培の技術を提供するのは、宮城県山元町でイチゴなどの施設園芸に取り組む農業生産法人GRA。NECは、水耕栽培に必要な電力を、エネルギーマネジメントシステム(EMS)を使って安定供給する。

停電が頻発するインドでは系統電力(電力会社から供給される電力)だけでは不十分なため、自家用発電機の電力が不可欠。EMSを用いれば、両方の電力を効率的に管理できる。

人材面ではインド国内のプネ農業大学と提携。大学生を対象にOJTによる水耕栽培技術の実地訓練を実施し、生産管理者として育成していく。またインドの農村コミュニティーとの連携では、NPO法人ICA文化事業協会と協働する。

この事業の特徴は、水耕栽培の次のステップを見据えていることだ。無農薬野菜・果物の販売で農村部の所得が増えた後、余裕ができた資金を活用して、農村を「スマートビレッジ」にするとの構想をNECは描く。

スマートビレッジとは、再生可能エネルギーや蓄電池、EMSなどを駆使して電力が安定供給され、また通信インフラを整備して遠隔医療・教育が受けられる村のこと。NECとしては、BOP層の生活改善を促しながら、ビジネスとしても成立させたい。

インドの農村が貧しい理由としてNECは①農産物市場についての知識や情報がないため、農産物を買い叩かれ、収入が少なくなること②適切な教育を受けておらず、また教育普及活動などの支援がないこと③害虫や病気に対する知識がなく、収穫が安定しないこと④農作業は重労働で、また男性中心の社会であるため、農村部の女性や障がい者に就労機会がないこと――の4点を挙げている。

水耕栽培の作業は室内の機械設備の管理と軽作業が主なことから、女性や障がい者の雇用拡大につながる。

今回のFSでNECは、国際協力機構(JICA)の「協力準備調査(BOPビジネス連携促進)制度」を活用する。このスキームではFS費用の一部(上限は5000万円と2000万円の2種類ある)をJICAが負担する。

2102年4月に採択された案件は、NECのほか、インドネシアの子どもたちへの教育ビジネス(主体は大阪教育研究所)やインドの農村部への生理用品の普及(同ユニ・チャーム)、ネパールでの珪藻土を原料とする耐火断熱レンガ製かまどの製造・販売(同日本テピア)など合計19件。

BOP層は年間所得3000ドル(約24万円)以下の人たちを指し、世界中に約40億人いる。企業にとってみれば、この巨大市場に参入したいが、低所得者を顧客とするため収益性は厳しく、FS予算を捻出するにも社内で合意を得るのは難しい。

そこでJICAは2011年から、企業の技術やノウハウを使って途上国の課題にアプローチできるビジネスのFSを支援し始めた。(依岡意人)


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