ある10代の少女が戦後まもない銀座の街を撮影した写真が脚光を浴びている。その少女とは現在72歳の写真家齋藤利江さんだ。銀座ニコンサロンや大阪ニコンサロン、さらには米国ジョージア州などでも写真展が開催された。
齋藤さんが10代の頃に撮った写真のネガフィルムが見つかったのは、1999年の11月である。齋藤さんの60歳の誕生日で、父親の17回忌が終わり遺品を整理していた日であった。
「遺品の中に、父が東京に出かけると、必ず買ってきてくれたクッキーの缶を発見しました」と齋藤さんは話す。その缶には、昭和30年代に撮影したネガフィルムがびっしりと詰まっていたという。
「写真家になることを夢見ていた青春時代が戻ってきたようでした。当時、女性写真家として生計を立てることは困難であったので、父親に反対され、私が撮った写真は取り上げられてしまいました。破り捨てられたかと思っていましたが、このように大切に保存してくれていたネガを見て、父の愛情を感じました」と、語る。
ネガフィルムを見つけたとき、齋藤さんは泣きながら一本一本を見ていたという。
「このネガフィルムを見つけたときには、痴呆症を抱えた母親の介護疲れ、長女家族の海外移住、信頼していた社員との突然の別れなど、多くの困難を同時に受けていました。いっそ死んでしまおうとも思っていました。でも、そんな矢先にこの缶と出会いました。父から『利江がんばれ!もう夢を追いかけていいんだぞ!自由に生きろ!』と言われている気がしました」と、振り返る。
齋藤さんが写真を撮るきっかけとなったのは、父親から10歳の誕生日にベビーパールのカメラをもらったことである。写真好きであった父親の影響もあり、齋藤さんは、写真を取ることに熱中し出した。
写真の撮影場所を探しに各地を歩いているうちに、銀座に魅せられる。戦後まもない銀座の街並みやそこで暮らす人々から、「魅力的なドラマ」を感じたという。
現在、齋藤さんが撮った銀座の写真は、「失われた懐かしい昭和」として評価され、日本各地で写真展が開かれている。現在は、小学館のビックコミック特選『3丁目の夕日』に、「齋藤利江3丁目写真館」として、齋藤さんが撮った銀座の写真にエッセイが加わった形で連載も持っている。
「私が写真家として再出発したのは60歳からです。この年になり夢は絶対に諦めてはいけないと、父から教わりました。私の写真を通して、戦後から立ち上がっていく人々の姿や、かつての日本に残っていた懐かしい街並みを現代に伝えていきたいです」と、話す。(オルタナS副編集長=池田真隆)
・齋藤利江 写真展 「あの日、あの時、あの笑顔」
日時:2012年11月7日(火)〜11月20日(火)9:30〜18:00(最終日は15:00まで)
場所:ニコンプラザ仙台フォトギャラリー 宮城県仙台市青葉区中央1-3-1 AER(アエル)ビル29F