――このプロジェクトを行うにあたり、従来のシンクタンクとは違う方法を取ったそうですね。

齊藤:一般的にシンクタンクでは、先の時代について考察する際に、数値予測による方法や有識者を委員にした政策提言レポートを作成しがちです。しかし2030年のことを数値予測しても不確実性が高すぎて、信頼できるものは人口指標以外ありません。また、識者の意見を集めた政策提言の作成も面白みに欠けます。今回は従来型の方法には一切頼りませんでした。

既存のやり方に捉われずに、経営者たちや最前線の人たちのインスピレーションが湧くような方法を探りました。そこで、思いついたのが、革新者100人にインタビューをし、そのユニークな視点を統合していくという方法です。これをイノベーションダイアローグと呼んでいます。

「革新者」とは、あたりまえの常識を疑い、新しい切り口を見いだし、事業としてやり切っている人たちのことです。すでに、2030年のビジネスモデルを体現している人はさまざまな領域に存在しています。彼らを横につないでいけるかが、さらなるイノベーションと経済発展の鍵です。

――インタビューを通して気付いたことはありますか。

齊藤:印象的だったのは、革新者たちはneedsを探すのではなく、wantsを創造していることです。これから減っていくものではなく、増えていくものに着眼し、見事に価値転換を成功させていました。

例えば、「東京R不動産」を運営するオープン・エーの馬場正尊代表は、中古賃貸物件の価値を、従来の「駅からの距離」、「広さ」、「設備」などで決めずに、「レトロ」、「改装可能」、「屋上付き」などの新しい切り口で捉え、人々のwantsを引き出しました。

またアニコム損害保険の小森伸昭社長は、従来の保険会社が社会の事故や病気を増やしもしなければ減らしもしない中立的な存在であることに問題意識を持ち、事故や病気を予防し、顧客の「涙を減らす」ことを保険会社のミッションとした新しいビジネスモデルを立ち上げました。

病気や事故のビッグデータを分析し、契約者一人ひとりに合った情報を伝え、リスクを減らしています。

革新者たちが、wantsを創造した背景には、徹底したユーザー発想があります。従来型のビジネスモデルでは、企業はいつのまにか、供給者発想に陥り、事業が自己目的化してしまいます。2030年のビジネスモデルは、送り手発想ではなく、受け手発想から生まれるのです。

■モノから「人と人の間」への付加価値のシフト

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