化粧品メーカーのラッシュジャパンに勤める大楠翔一さん(31)は、来年2月から育児休暇を取得する予定だ。奥さんと一緒になって、生後5カ月の男の子の育児を行う。育児休暇を取得するのは、「奥さんのためでも、子どものためでもない。自分が一緒にいたかったから取った」と話す。(オルタナS副編集長=池田真隆)
大楠さんが結婚したのは2010年5月。高校を卒業してからアルバイトとして働いた飲食店で奥さんと出会い、交際8年の末、恋を実らせた。子どもを授かったのは、太陽がまぶしい季節である今年の7月。
赤ちゃんが夜鳴きすると近所迷惑にもなるし、近隣住民への気遣いも必要となるとのことで、かねてから決めていた一軒家を神奈川は横浜付近に購入した。
育児休暇の期間は3カ月を予定している。希望する少人数制の保育園に入園ができれば、4月から復職する。「18歳から毎日働いていたので、3カ月間もの長期休暇は経験したことがない。これからの時間は一生忘れられない時間になる」と大楠さんは期待する。
大楠さんが働くラッシュジャパンでは、男女比は1対9で、女性社員が育児休暇を取ることは当たり前のこととされていた。男性社員はそもそも少ないこともあるが、同社で取得したのは史上2人目となる。
育児休暇を取得することに、社風的にまったく問題がなく、手続きもスムーズに進んだ。
大楠さんはもともと育児にかんしてモチベーションがあった。共働きの両親から生まれ、13歳年下の妹がいる。両親が仕事で家にいないときは、当事中学生だった少年が、ミルクをつくったり、保育園に迎えに行ったりしていた。
この経験もあり、育児に抵抗感はなく、むしろ「楽しさを見出している」と大楠さん。
■育児休暇を突き返されることも
大楠さんのように育児休暇を取得する男性はまだまだマイノリティーなのが現状だ。徐々にポイントは上がっているが、内閣府の調査では平成23年度の民間企業の男性の育児休暇の取得率は2.63%だ。
男性が育児休暇を取得できない理由は、「職場復帰したときに、自分のポジションがあるか不安」「上司の理解を得られない」「そもそも育児休暇を取っても何をしたら良いのか分からない」といったものだ。
別の会社で働く大楠さんの友人が上司に育児休暇を申し出たら、「おれの若い頃も家には帰れなかった。我慢して働け!」と突き返されたという。
若い頃に日夜バリバリと働いていた中年男性の上司には、30代前半の男性社員が育児休暇を取ることは理解できないのだろうか。
■草食系はどうして生まれたのか
「草食系を生んだのは、『最近の若者は草食系でだらしがない』と嘆く中年男性たち」と指摘するのは、CSRやSRIの識者である大和総研主席研究員の河口真理子さんだ。
高度経済成長期に猛烈に働いたサラリーマンは家にいることが少なく育児は母親にまかせっきり。公園でも、家庭でも、母親原理に偏った子育て環境になった結果、上品な遊びばかりを覚え、ジャングルジムの高いところに登るようなやんちゃなことをしなくなる。そうして、優しい草食形男子が生まれたと分析する。
幼い頃に父親と過ごせなかったことで、大人になって親になると育児にも影響するのだろうか。大楠さんも共働きだったこともあり、特に父親とは遊ぶ機会が限られていた。
大楠さんの幼少時代のアルバムには、父親と写っている写真は少ない。写っていても父親が疲れて寝ているそばに、大楠さんが写っているものだ。そのアルバムを見た父親から衝撃的なことを言われたことがある。それは、「このアルバムを見ても面白くない」だ。
大楠さんは、「ハイハイや寝返りを打つ瞬間を近くで見ていられることは幸せなこと。子どもと写った写真を見て、『面白くない』と言ってしまうのは悲しい。いつか子どもが大きくなったときに、一緒にアルバムを見て笑いたい」と話す。