クリエイター支援施設「クリエイティブネットワークセンター大阪 メビック扇町」(大阪市北区)で毎週開催されている「クリエイティブサロン」の新年1回目が、1月21日に開かれた。ゲストスピーカーは、関西を中心に「庭」や「緑」に関わる仕事をする人「庭や」の集まり「ニワプラス」を主宰するグリーンスペースオオサカの辰己耕造氏(37)、弟の辰己二朗氏(34)、ガーデンデザインオフィス萬葉の北谷知之氏(36)の3人だ。昔ながらの職業である「庭や」はクリエイティブとは無縁のイメージがあるが、グリーンデザイナーとして、年々市場規模が縮小している庭産業を活性化し、庭をより生活に身近な空間にしようと活動する。ニワプラスの取り組みや庭への思いを聞いた。(オルタナS関西支局特派員=服部英美)

少人数制で参加者とゲストの交流が生まれるクリエイティブサロン=大阪市北区のクリエイティブネットワークセンター大阪 メビック扇町

ニワプラスは、庭に関わる仕事に従事する人が多い地域で生まれ育った幼馴染の3人が集まり2010年に始まった。その目的は時代とともに衰退する庭産業に関わる若手が知識の共有を行ったり、ばらばらで活動している人が一つになることで庭の面白さや可能性を多くの人に知ってもらうためだ。

現在は、全国各地で活動する庭師やガーデナー、アーボリスト、樹木医など25人が所属している。「庭や」をより身近に感じてもらい、「庭や」同士が切磋琢磨できるようにと、イベントや情報発信などを行っている。

サロンでは、ニワプラスがこれまでに行った13回のイベントを紹介。全国各地で活動する面白い庭師を泊まりで訪ねて地元の庭や名所を見学したり、尊敬する庭師の講演会を催したりしてきた。例えば2012年5月には、耕造氏が「雲の上の存在」と語る庭師の武部正俊氏(71)を招き講演会を開催。「アウトドアでやると面白いのでは」というアイデアから、庭に植える雑木の市場になっている山の畑の中にマイクを持ち込んで行った。

「このときも60人ぐらい集まり、島根や鳥取、東京などほんまにあちこちから来てくださった。せっかく遠くから足を運んでいただいているので、泊まる場所を借り、武部さんもすごく元気で、朝の3時頃まで続きました」と耕造氏。お茶やお酒を飲みながら庭の話で盛り上がった。

認知度が上がると、他業種にも活動が広がっていった。昨年秋、奈良で活動するクリエイターから「奈良県立図書情報館(奈良市)の庭が荒れているのでなんとかしてほしい」と相談を受け、「ニワ・プラス・トショカン~庭でニワを語る」を同館主催で開いた。

第1回はイギリスの庭を巡る旅を続けている木津川アートプロデューサーの佐藤啓子氏(56)を招き、イングリッシュガーデンの話を聞いた。その後サプライズで、ガラスのカップやローズマリーを使ったイギリス式の本格的なティーパーティーを図書館の庭で開いた。「ちょうど夕方の時間になってきて、3本の木立の影が広がってきた空間ですごく気持ちが良かった」と北谷氏は語る。

クリエイターとともに地域の施設で開催したことで、庭に興味がある人だけでなく、普段から図書情報館のイベントに参加している人や、ゲストに興味を持った人などさまざまな人が集まった。

当初は庭に関わる仕事をする人を招いたイベントが多かったが、木工作家や家具作家をゲストとしたトークショーを開催するなど活動が広がるにつれて、他業種からも参加者が集まるようになった。

ニワプラスの活動を紹介する(左から)辰己二朗氏、辰己耕造氏、北谷知之氏=大阪市北区のクリエイティブネットワークセンター大阪 メビック扇町

ニワプラスは、庭に関わる仕事をするメンバーならではの、庭という空間を生かしたイベントのプロデュースも行う。昨年10月、オープンハウス「木村家本舗」(大阪市生野区)というイベントで晩餐会を企画。(庭にテーブルを持ち出し、晩餐会気分をテーブルクロスや花などで演出。「身近にあるgreenなもの」というドレスコードも設けた。

思い思いの「greenなもの」を身に着けた参加者たちはろうそくの灯のもとでニワプラス的おもてなしを楽しんだ。耕造氏は「蝶ネクタイをするなどおめかしをして給仕役も自分たちでさせてもらいました。普通の庭に人が集まって僕たちが少し手を加えるだけで、一瞬で庭を特別な場所に変えられることが楽しい」と話す。

「庭はもともと、薪を割るなどといった生活に必要な場だった」と北谷氏は言う。だが、生活習慣の変化により、限られた空間の中で車や家具を置く場所が優先され、庭はなくてもよい場所になってしまった。

しかし、機能性から感性へと人々の価値観が見直されている今が、庭産業の分岐点だ。家が完成してから余った空間に庭を造るのではなく、家を設計する段階から住む人がどんな暮らしをしたいかを一緒に考え、それぞれのライフスタイルに合った空間の活用や庭を提案する。

庭を造ることで人が滞在する空間ができ、趣味を楽しんだり、家族の会話が生まれたりと有意義な時間が過ごせる。耕造氏は「庭は建物と違って『生き物』なので造って終わりではなく、年を経るごとに良くなる。

お客さまと一緒に手入れしながら造っていくところが庭の仕事の魅力」と話す。庭が当たり前の生活空間となり、「理想の家」と同じように「理想の庭」を思い浮かべてもらえるように、ニワプラスはメンバー自身の作品や活動を通して、庭とともにある心豊かな暮らしを伝えていく。

最後に庭への思いを聞いた。二朗氏は「植物を元気よく育てるのは意外と難しい。だからこそ、家に帰った時に植物が元気に育っていたらうれしくなる」と話す。

北谷氏は「嫁さんと『あの花、咲いたで』『あの木、元気ないな』って話したり、子どもと一緒に落ち葉を掃除したりと、庭が生活の中の一つの時間になればと思う。人は家の外では自分を演じている部分があるけれど、家に帰って庭と接することで素の自分に戻ってもらえれば」と語った。