島根県津和野町と、岡山県和気町でまちづくりの活動に取り組むFoundingBase(ファウンディングベース)。この取り組みの面白さは、都市部の若者が地方に移住し、その地方のいち住民となり、地元の人々と協力しながら、地道に一歩一歩、取り組みを進めているところだ。この取り組みに参加する若者たちは「ある」もの尽くしの東京から、「ない」ものだらけの津和野町や、和気町に移り住む。彼らは、何故、地方を選んだのだろうか。今回は、2014年7月末より、鎌倉市役所から津和野に移住してきた渡辺みなさんにお話を伺いする。(聞き手・福井 健)

津和野で活動する渡辺さん

津和野で活動する渡辺さん

――みなさんは、東京出身ですよね。なぜ津和野に来て働こうと思ったのですか。

渡辺:端的に言うと、自分が人生の中でやっていきたいことをやるためです。これまでは、神奈川県の鎌倉市役所に勤めていました。鎌倉市役所で、というか公務員として働きたいと考えた基には、就職を意識し始めたころからずっと感じていた「教育の機会均等」という問題意識があります。

私は東京都新宿区出身なんですが、幼なじみや地元の友達の中には、親の都合などで満足に進学ができない子たちがいて、それを問題だと感じていました。高校や大学で得たものというのは私にとってとても大きなものなのですが、その子たちにはその選択肢がなかったという事実にそれでいいのかなと思い始めたんです。

進学するという選択肢が無くて就職するしかなかったり、進学したとしても先生の言われるように就職活動をしていたり、子どもを産んで専業主婦をしていたりと、それぞれの事情でそういった道を選ばざるを得ない状況になっていて、なんていうか全く将来に対してワクワクしているように感じられなかったんです。

彼女たちがもっと他の選択肢も検討できる状況だったら同じ選択をしたとしてももっとワクワクしているんじゃないかと考えたんですよね。それで、家庭環境や居住環境による教育機会の格差を無くすために、公的な立場からアプローチしようと思ったんです。だから鎌倉市役所に入りました。

――実際に働いてみてどうでしたか。

渡辺:まず、私は公務員というのがどのような役割で、どのように動くのが良いのかを知らなかったので、3年くらいしっかり目の前のことに打ち込んで、公務員とは何ができるのかを知ろうとしました。その点では確かに「公務員」というもののイメージは掴めるようになったんですが、実際には仕事に十分満足できませんでした。

――満足しなかったというと。

渡辺:一つが、行政のルール。最初に私が配属されたのは市民課というところで、希望の部署じゃありませんでした。希望の部署じゃなかったことは不満ではないのですが、そこで行われている仕事に違和感を感じました。どの自治体もそうだとは言うつもりはないですが、基礎自治体って、県が言っていること、国が言っていることをかたちにすることに終始していて、自分たちで考えて行動するという文化があまりありません。

このような状況では、たとえ定年まで働いて、希望の部署に行けたとしても、そこで自分がやりたいように、裁量を持ってやれるとは思えませんでした。そもそも、そういうスキルを身に着ける機会が庁内でもほとんどないと思うんですよね。

――なるほど、突出した個が自らの頭で考えて動く組織ではなく、均一なメンバーが同じような仕事を右から左へ、というような雰囲気に馴染めなかったということですね。

渡辺:はい。それに加えて、価値観のズレがありました。私は、自分がしている仕事自体を楽しいと感じながらやりたいし、やりがいを感じながら取り組みたいと考えています。確かに、周りの人から「職場は楽しくないといけないよね」という言葉をよく聞いたのですが、そこで言われているのは、仕事そのものが楽しいかどうか、というよりも、職場の雰囲気が楽しいかどうか、ということ。

確かにそれも大事ですが、今の自分がここに居ても大きく成長できないと感じてしまっていました。そういう風な状況で転職先を探していたんです。

――そこからFoundingBaseに?

渡辺:そうです。というのも、私、学生時代にFoundingBaseの一年目の活動の立ち上げに関わっていて、FoundingBase自体は知っていたのですが、転職先としては考えていませんでした。そんな中、学生時代にお世話になっていたFoundingBaseの共同代表の林さんから連絡があり、FoundingBaseの近況を聞きました。

鎌倉市役所で行っていた仕事は、課の要である経理だったり、法改正のチームリーダーを任されたりと、かなり大きな仕事も任されていたのですが、ゆっくりとだけど成長してるつもりでした。でも、FoundingBaseの話を聞いたとき、知らない間にものすごい勢いで成長している!同じ2年間でも密度が違うと感じました。

それで、今の津和野を見てみたいと思って現地に行ったんですが、そこで働くキーマンのみんなも、林さんも、仕事がものすごく楽しいと言っていて、真剣に打ち込んでいる様子が印象的でした。

これこそ、求めていたものだ!と感じたのに加えて、私が津和野に来てからやっていくことになると言われていたことが、高校生と向き合って、学校の授業以外の部分で彼らの成長をサポートすることだと聞いていたので、自分の問題意識に紐づく、やりがいのある仕事ができる!と感じて、津和野に飛び込みました。

ICU時代の渡辺さん

ICU時代の渡辺さん

――アツいっすね!でも、転職するとき不安とかなかったですか?

渡辺:もちろん不安はありました。FoundingBaseに飛び込むことに対する具体的な不安じゃなくて、いままで築いてたものをやめて、ゼロから新しい環境に行くことに対する不安。でも、その決心をしようとしていたのが、25歳の誕生日付近だったんです。そのとき、ふと、まだ若いんだし、迷ってるんだったら突き進んだ方がいい、と決断しました。

前の職場や仕事もそれなりに満足していました。でもやっぱりそれなりでしかなくて。仕事は楽だし、給料もある程度もらえるし、生活するためだけにやる仕事だったら、十分満たされていたと思うんです。でも、私が仕事に求めていることって、生活するためということ以上に、自己実現のため、自分らしく生きるためということが大きくて、そういう点で物足りなさを感じていました。

多くの同僚たちが、何事に対しても「ああ、まあ、いいんじゃない?」って言って、なんとなく仕事をしていることも好きじゃなかった。

目の前のことにひたむきに向き合っている人たちと、真剣に仕事をしたかった。この想いに尽きます。FoundingBaseに参加する人たちって、本当に真剣に地域のために働こうと思う人たちだから、そういう人たちと働きたいと思いました。

――周りの人たちは何か言ってましたか。

渡辺:母親は元々自分の好きなことをやりなさいという話をしてくれていたので特にはなかったんですけど、父は「鎌倉市役所で働くのが嫌でやめるのは違うけれど、他にやりたいことがあってやるのであればいい」と言って背中を押してくれました。親戚とかは、「ええ!公務員、なんでやめちゃったの!」って言われることが多かったですけどね。(笑)

大学の時の友達に関しては、親戚ほどの反応じゃなくて、みんな応援してくれました。ICUの人にとっては転職って結構普通で。でも、「え?島根?」と言われたことはありました。「たまたま縁があってね」という話をすると、「不思議な縁だね」と納得してもらっています。

――あ、そっか!みなちゃんはふくいの先輩だったんですね!

渡辺:そうそう、ICUだよ。ちゃんと卒業したけどね!でもICUに入ったのはたまたま。高校の時に、「ICUっておもしろい大学だよね」っていう話を友達としていて、でも「わたしたちの学力では入れないよね」って話をしてたんだけど、ダメ元でAO入試を受けたんです。

そうしたら、受かっちゃって。3年生までメジャー決めなくても良い、少人数教育、そういったものに惹かれて入学しましたが、勉強したいものがあったわけではないし、ふらふら勉強していました。

勉強する中で、日本のこと、自分のまわりのことを知らないから、日本研究をメジャーに勉強するようになりました。4年生になって、卒論はもちろんちゃんと書いてたけれど、それだけじゃつまらないなあと感じたんです。そう思っていた時にある学生団体のメンバー募集の記事をを見て、コンタクトをとりました。

その団体が昔FoundingBaseの林さんがいた団体だったんですよ。それまでは本当にぼーっとしてる普通の大学生でした、サークルやって、バイトやってというような。

学生団体で、林さんと出会い、FoundingBaseの立ち上げを手伝って、はじめは「ふーん、そういうことしてるんだ」ってだけ思ってたんです。でも、佐々木さんやもちろん林さんとも話す中で、いままで自分がいた世界とは違うという感覚と、話を聞いているだけでも楽しいし、これをやると本当に日本は変わるなというワクワクを感じました。

この頃はもう就職先が決まっていて、鎌倉市に入るものとして生活してたので自分が津和野に行くという選択肢は無かったんですが、FoundingBaseは強く印象に残っていましたね。

――なるほど!そんな昔からの縁だったんですね。確かにふくいが津和野に行く時にお世話してくれましたもんね。今後はどんなことをしていくのですか?

渡辺:これからやっていきたいと思っているのが、高校生と向き合うこと。来月から公営塾で授業をもつんだけれども、低学力層の子たちと、トップ層の科目を持つ予定になっています。下の子たちは、なんで勉強するの?って思っている子たち、その子たちに対しては学ぶ楽しさを伝えたい、そして少しでも好奇心を刺激してあげたいと考えています。

上の子たちには、英語を使って何かするということを通して、単に科目としての英語ではなく、英語を使う楽しさを提供したいと考えています。

授業の外でやりたいことは、津和野高校では珍しくないのですが、親や先生が言う通りに進路を決める人を減らすこと。生徒とは「なんでそれがしたいんだっけ?」というような対話をしながら、自分で自分の人生を決める人が増えればいいと思っています。そして、それを精一杯応援していきたいですね!

――最後に、これからFoundingBaseに参加しようと思っている人や、キーマンに興味がある人に対して何か言葉を頂戴したいのですが。

渡辺:とにかく進むべきだ!やらないで後悔するより、やって失敗したほうがいいと思う。

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