タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう

なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)

◆3月12日 The day after

前回はこちら

原爆ドームは原爆のすさまじさのシンボルではない。
全ての建物が倒壊したその中でも唯一立ち続けた日本復興のシンボルなのだ。

窓から薄明かりが差している。テレビがついたままだ。
一面が火の海だ。画面の上に気仙沼と書いてある。陸地に大きな船が置かれている。由美子からメールが入っていた。電話をした。「なんだよ」キンキンした声が返ってきた。

「なんだよじゃないでしょ。今どこにいるのよ」
「会社の近くだ」
「連絡しなさいよ」
「うん」
「会社に来るのね?」
「ああ」

いびきが聞こえてきた。末広がかいているのだ。
部屋の隅に寝袋が転がっていた。末広の大きな体で寝袋はゾウアザラシのシルエットの様に見えた。
電話がキンキン喋り続けている。
「今何時だよ」
「6時よ」
「一眠りしてから会社に行くよ」
「そう」と言って電話が切れた。

夢の中では二頭のイルカのように裸でじゃれ合おうとしていた女の電話との会話ってこんなもんかな?
と啓介は思った。どうでもいい仲なのかな?それとも
夫婦みたいに近しいのだろうか? 
携帯電話を見つめながら考えていると母の恵子からのメールが目に留まった。ニュージャージーからだった。ケイちゃん大丈夫?と数回入っていた。啓介が返信しようとしたとき、電話が鳴った。母からだ。

「大丈夫ケイちゃん」
「何ともないよ」
「ロバートも心配して早めに帰って来てくれているのよ」
「東京は大丈夫だよ」
「そう、何ともないのね?」
電話の向こうで英語が聞こえた。
「He said no problem」
「OK Good」
電話が低く深い声に変った。
「Kei are you alright?」
「Yes,Rob…Ah dad」
啓介は2年前ニュージャージーで実の父啓一を亡くしている。突然死だった。朝ドミトリーに電話が来た。
母からだ。
「パパが息しない」
「誰が?」
「パパよ」泣きながら叫んでいる。

そんなことを思い出して義理に父と話している。
ロバートと言うと母はきつい声でダッドと言いなさいと言った。ロバートは首を振りながら「It’s OK 」と言ったことを啓介は思い出した。
電話の向こうで「Good to know you are alright」

それで電話は母に代わった。「よかったわ~」母はまだ何か喋りたそうだったが、啓介は「心配ないよ」とそっけなくいって電話を切った。

母だろうとガールフレンドだろうと女との長話が啓介は嫌だった。女はよくしゃべる。相手が喋り終えるのを待たずに喋り出す。口が大きく耳が小さい。ゾウはいいな、耳が大きいから優しいんだ。薄明かりのなかでゾウアザラシが動く音がした。大きな放屁の音もした。
「何時だ?」低くかすれた声がした。
「6時くらいじゃないですか」
「腹空いたな」
「そうですね」
「ビールしかないぜ」
「朝から飲めません」
「そうだな」

文・吉田愛一郎:私は69歳の現役の学生です。この小説は私が人生をやり直すとすればこうしただろうと言う生き方を書いたものです。半世紀若い読者の皆様がこんな生き方に興味を持たれるのであれば、オルタナSの編集スタッフにご連絡ください 皆様のご相談相手になれれば幸せです。

◆続きはこちら

[showwhatsnew]