J3に位置するサッカークラブ「Y.S.C.C.横浜」は「SDGs(持続可能な開発目標)マッチ」を開くなどサッカーを通して社会課題の解決に力を入れる。地元横浜のドヤ街「寿町」住民への就労支援などを軸に、国連が定めたSDGsの17目標に合わせた取り組みを行う。「社会や地域への貢献は当たり前。ブランドの源泉」とクラブの代表は言い切る。(オルタナS編集長=池田 真隆)
「ぼくらはグラウンドを持っている学校などに許可を得て、活動ができている。だからぼくらからも何かを還元したい。街の課題を考えたときに、寿地区住民の健康課題を知った。ベイスターズもマリノスも入り込まない寿地区が、ぼくらを呼んでくれるのであれば倍にしてお返ししたい」――そう話すのは、Y.S.C.C.横浜を運営するNPO法人Y.S.C.C.理事長の吉野次郎さん。
サッカー好きが集まり「街クラブ」として活動を始めた同クラブは今年で設立33年。Jリーグには2014年に参戦した。「地域はファミリー!」を標語としており、活動はサッカークラブの運営だけに留まらない。
テニスにバスケ、フットサル、バドミントンなどの教室を開いており、カテゴリーは幼稚園から小中高、女の子、母親向け、50歳以上と幅広い。
同クラブが開く一大行事として、横浜開港記念サッカー大会がある。6月2日の開港記念日に合わせて毎年開いていて、今年で13回目を迎えた。60チームが参加して、1000人の子どもと1000人の大人が集まった。
今年はSDGsをテーマにこの大会を企画した。大会は終日かけて行われるが、エキシビジョンとして、午前は「貧困」をテーマにしたミニゲームを開催。
参加したのは、アフリカやガーナ、ナイジェリア、中国、韓国など外国籍を持って日本に滞在している人と同クラブに所属する外国籍選手たち。言語も文化も異なる人どうしが、ボール1個で、笑顔で交流した。
午後のテーマは「平和」。日本の三大ドヤ街として知られる寿町の交流センターで働くスタッフと沖縄で不登校児向けの支援活動を行う職員らが参加した。
大会に参加した選手たちは、その様子を周りで見ていたが、ミニゲーム後には、さっそく効果があったという。「アフリカ系の青年とうちのジュニアユースチームに所属する中学生が勝手にミニゲームを始めた。これがスポーツ。言葉なんていらない。言葉を越えて、文化を越えるものがスポーツ」。
横浜には米軍基地があり寄宿舎もあるため、外国人をよく目にする。「外国人を怖いと思うのではなく、交流することで彼らへの偏見を払拭したい」(吉野さん)。
地域貢献を「当たり前の活動」ととらえる同クラブでは、SDGsの17目標(貧困や気候変動、衛生、教育問題など)すべてに対応した取り組みをしている。なかでも、特徴的なのが、2012年から始めた寿地区での活動だ。
Jリーグクラブでは、ホームタウン活動として、地域の小学校や高齢者施設などを訪れることがよくある。選手やスタッフとの交流を経て、サポーターとしてスタジアムに足を運んでもらうことが期待できるが、寿地区の場合は話が別だ。
日本の3大ドヤ街としても知られる同地区で暮らす住民たちの多くが日雇い労働に従事していたり、アルコール依存症になっていたりする。そのため、活動による「サポーター増」を期待することは難しい。
しかし、それでも積極的に活動を行うのはなぜか。そのワケを明かす前に、同クラブと寿地区がつながったきっかけから説明したい。
きっかけは、「サッカー」
つながった経緯は、寿地区の交流センターで働くスタッフのなかに、過去に対戦したサッカー仲間がいたことだ。そこから、寿地区との関係ができ、まず始めに保育園児向けのサッカー教室を始めた。
住民の健康課題に対応するために、2015年からはアルコール依存症を持つ人向けにゴムチューブやタオルを使った体操教室を、2017年からは、歯科医師を呼んでの口腔衛生講座や管理栄養士の料理教室を実施した。
2018年からは2カ月に一度のペースで開いてきたが、2020年からは月に1回のペースに増やす。継続的に参加してもらうように、複数回来た参加者には修了証書や記念グッズを渡す予定だ。
吉野さんは就労支援も行う考えだ。「ホームゲームでチケットをもぎってもらったり、チラシを配布したりしてもらったりして、社会復帰を後押ししたい」と話す。
来シーズンはさらに活動を強化していく。ホームゲームの試合数は17、SDGsの目標数と同じなので、「ホームゲームでは毎試合SDGsに絡めた取り組みをしたい」と述べる。
なぜここまで社会的な活動に力を入れるのか。吉野さんはこう説明する。「ぼくらの活動の原点には、人や地域からの承認があって活動ができているという思いがある。この町で生まれ、育てられたから、地域の人と力を尽くすことは当然のこと」。
一方で、利益を上げるための活動に専念しようという意見も出ないことはないという。事実、これらの活動による経済的な影響はまだ出ていないという。しかし、取材が増えたり、地域の人からの見られ方は大きく変わってきた。
外からの見られ方が変わったことで、「スタッフたちの背筋が伸び、心が凛々しくなってきている。それが、クラブのブランドの源泉になっている」と社会的な評価を受けるメリットを語った。