タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう
なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)
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◆シーズンに突入
「それは有りがたい。でも条件があるんだろう?」
「条件と言うほどの物ではない。選手たちの体の変化を記録する。これはお互いのためだ」
「ではついでにクロコダイルドリンクとアスレチックテープをこちらが欲しいだけ提供してくれないか?」
「分かった。明日からドリンクとテープを持ったトレーナーが来る。NASAが開発した面白いトレーニング器具も運び込まれるよ。選手たちにはその器具の宣伝にも一役買ってもらう」
少し鷲鼻の端正な顔のマックは人懐っこい笑顔を残して体育館を後にした。出入り口からイタリア製のスポーツカーの乾いた爆音が遠のいていった。
次の日から4人のトレーナーがやって来た。リレー競走のバトンの両端から白いナイロンの細いロープが二本ずつ出ているトレーニング器具が何本も運び込まれた。スペーストレーナーと言って、重力のない宇宙船のクルーの筋力トレーニングのための器具だと説明された。重力の無い宇宙ではウエートトレーニングができないからだとの説明があった。ダンもトレーナーのインストラクションに従ってトレーニングをしてみた。なかなかいいトレーニングメソッドだった。これなら体幹が鍛えられる。吉田もなまった体が引き締まった思いがした。
8月の盆も終わる頃になると走るポジションの者は体が大きくなり、ぶつかる者は体が引き締まってきた。グラントは真っ黒に日焼けした選手たちがフットボールの真似事をしていた。
キッカーの中島とパンターの木村も黙々とボールを蹴っていたが、吉田がグランドに下りると二人して駆け寄ってきた。黒い顔に笑顔の歯が白かった。
「関東フットボール協会に入会できました。秋のシーズンはテストシーズンだそうですが、4部のビリからのスタートです」木村が言った。
「そうかじゃあ、フットボールを教えなければならないな」
「初戦は帝都大学です」中島が言った。
「ラグビーは超一流だけどフットボールはどうかな?」吉田が言った。「何人かで練習を見に行こうか」
帝都大学のグランドは八王子の山の中にある素晴らしい施設だった。装備に身を固めた40人以上の部員がすでに実戦さながらの激しい練習をしていた。ぶつかり合う音やホイッスルや怒鳴り合う声がはじけている。
「なんか強そうですね」木村が言った。
15分ばかりそれを見ていた吉田が言った。
「大丈夫だよ勝てるよ」
「だって俺たちまだフットボールの練習もちゃんとしていないんですよ」
「だから今から2週間やるんじゃないか」吉田が笑って言った。
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