「任期1年目の1カ月で会社を立ち上げろ」「まちづくりは道楽」――。こう話すのは、千葉県館山市の地域おこし協力隊として3年間働いた岸田一輝さん。破天荒に聞こえるが、同市からの評価は高い。話を聞いた。(武蔵大学松本ゼミ支局=内田 夏帆・武蔵大学社会学部メディア社会学科4年)

地域活性への考えを話す岸田一輝さん

岸田さんが活動した千葉県南端にある館山市は、かつて文化や経済の中心地として栄え、活気あふれる都市だった。しかし時代とともに衰退し、現在は商店街をはじめとする街の活性化に悩まされている。

岸田さんは2013年に千葉大学とともに館山市の活性化を目指す「まちなか再生事業」を行い、空き家の活用や地域住民を巻き込んだイベントを企画した。

市の担当者は、「彼がやっているんだから、自分たちもやらなきゃいけないとまで口に出すようになった」とその成果を評価する。いったいどのような取り組みを、どんな考えで行ったのか。

岸田さんは千葉大学大学院を卒業後、都内で都市コンサルとして働いた。その後、助教授として院に戻り、同大学が館山市の活性化を目指す「まちなか再生事業」に携わることになった。

その際、住民とも深い付き合いになり、いくつかの方策を作ってもらったのなら実現したいという思いから、市から岸田さんへ「地域おこし協力隊」の制度を提案したという。

岸田さんは、「いわゆる田舎の良いコミュニティーに身を投じられるので、良い機会になると思った」と話す。、産業観察的にも「地域」を見る機会を得たいとの思いで応募を決めた。

岸田さんの活動内容は、主にコンセプトづくり(館山ではどういうことができるかなど)に始まり、3年間、少しずつ住民の信頼を得ながら、空き家の活用や地域イベントなどを行ってきた。

岸田さんは、館山市での「まちづくり」において、「自分のためのまちづくり」を意識する。「未来の子どもたちのため」というよくある「誰かのため」ではないという。

「参考にしているのが、夏目漱石の仕事。2種類あって、一つは職業、もう一つは道楽。前者は他人のための仕事で、後者は自分のための仕事。そこでこの言葉を借りて『道楽のまちづくり』をやろうと思った」

岸田さんを受け入れた担当の亀井徹さん。現在は、館山市経済観光部商工観光課において商工係長人取扱・雇用定住担当課長として働いている

岸田さんの活躍に対して市の職員である亀井さんは、「岸田さんが3年間活動してくれたおかげで地域の住民たちに腰を上げようという気運が出てきている」と評価する。

「まちなか再生事業として、街の見た目が大きく変わったわけではないが、皆が手伝いに来たり、できた空間を見に来たり、、そういう動きが自然と出てきた。彼がやっているのなら自分たちも何かやらなきゃいけないとまで、口にするようになった。そういう点において成功だと言えるのではないか」

地域おこし協力隊の任期が終了した今、「まずは引き続き館山にいることが目標」と岸田さん。

縁もゆかりもなかった館山の地で仕事をしていくには、「努力」をしていかないと、強制送還(地元に帰るしかない)になりかねない。

そのために仕事を自分でつくっていかなければいけない。その点、地域おこし協力隊で得たネットワークや住民からの信頼は非常に役立つのではないだろうか。

今回取材を行った「渚の駅 たてやま」周辺での夕景

最後に、岸田さんに地域おこし協力隊の応募を考えている人へのアドバイスを聞いた。

一つは、自身の専門性(前職や大学での専攻)と各自治体が求めていることがうまく合致するかどうか。ミスマッチにより任期満了が難しくなり、満了後の定住につながらないい課題もある。

もう一つは、地域おこし協力隊1年目の1カ月目に起業すべきというものだ。その真意としては、自分で会社を持つとお金の使い方、儲け方を常に考えざるを得なくなる。

隊員としての任期を終えた後、自身で生計を立てて、その地に住むということを、任期中から真剣に考えることができるメリットがあるという。

3年間の任期に終わらず、その後、その地域に定住し、関わり続けていくにはどうしたらいいか。隊員と行政の向かう方向が同じであることが、この制度の「成功」を左右するものだと気付かされた。

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