タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう

なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)

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◆歌舞伎町からアフリカへ

心は罪悪感で一杯なのに、毎日の苦しい訓練から解き放たれた末広は、その堕落した罪悪感に優しく包まれた。下り坂は楽だった、下れば下るほど帰りが大変になるとは思ったが、それでも「今日の所はまあいいや」と思いながら、あっと言う間に半年が経ってしまった。時間に追われていた彼は暇をもてあまし、時間を追うようになった。

時間が少しも進まない。しかし周りはとても優しかった。人に優しく自分にはもっと優しかった。そこには競争も目標もなかった。あるものはぼんやりとした灯りとたばこの煙、そして酒と食べ物のすえた臭いだった。柔道や大学の事など考えずに、心地よい敗北に浸っていたが、やがて柔道も大学も思い出せなくなってしまった。身体も鈍り、新宿駅から歌舞伎町の酒場まで歩くこともおっくうになってしまった。店の女の子と明け方安ホテルに泊まり、昼過ぎに出勤することも増えて行った。

心地よい敗北が、完全な堕落となってしまった。このまま堕落しながら年を経て行くのか、あるいは、なにかの切っ掛けで地上の光を目にする事があるのか、そんな思いを持ち続けながら地下の酒場をはい回っていた時、「君、いい体格だね」いきなり便所から出て来た中年の客にそう問われた。
「スポーツでもやっていたの」
「ええ、まあ」
「その耳の潰れ方はラグビーとか相撲?」
「柔道をちょっと」
中年の男は一緒に飲みに来ていた同じような男と目で相槌を打つと、いきなり「海外に行きたくない?」と切り出した。
「行って見たいです」
「実はね」男は名刺を出した。青年海外協力隊と書いてあった。
「ケニアが柔道の先生を探しているんだ」
「何するんですか」
「友好親善・平和構築
 健全な青少年の育成
 健康維持増進への寄与
 社会的弱者の社会活動支援
 障害者スポーツの普及・発展
 スポーツ普及・発展に寄与
 スポーツによる国威発揚」
「俺そんな立派な事できません」
「大丈夫だよ。みんな大した奴なんかいないし、武道系の応募が少ないから事務所は喜ぶ。ところで高校は出ているよね」
「出ています。大学生です」
「何年生?」
「来年は3年生だけど、上がれないと思います」
「そう。では大学は休学ってことで、2年ほど経験したらいい」
日本を脱出したら、今までの事が清算できるかもしれない。

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