相手の話を聞いて、真意を理解することはビジネスをする上で非常に重要なスキルである。では、有名企業の社長はどのような「聞き方」をしているのか。(オルタナS編集長=池田 真隆)
■「お客さんは詳細には語らない」
愛媛県今治市のタオルメーカーIKEUCHI ORGANICの池内計司代表は、「マーケティングとはエンドユーザーの声を聞くこと」と言い切る。池内代表は商品に関しては、従業員の意見よりもエンドユーザーの声を重視するという。
ここでいうエンドユーザーとは、「店に来るお客さん」ではなく、「店に来て、購入したお客さん」を指す。では、一体、どのようにして顧客の声を聞いているのか。
「こちらから話をしたときのお客さんの目の輝きや反応を注意深く見るしかない。お客さんに聞けば、求めていた答えが返ってくるはずだと思い込むのは危険。お客さんはタオルを作ることが仕事ではないから詳細に要望を伝えてはくれない」
池内代表はこう続ける。「私はいまでも365日24時間タオルのことを考えている。お客さんの何気ない言葉から、想像力を働かせて商品づくりに生かしてきた」。
同社は、「最大限の安全と最小限の環境負荷」を掲げ、事業に使用する電力は100%風力発電に切り替えた。厳しい基準をクリアしたオーガニックコットン100%で商品をつくっている。モデルチェンジをしないメーカーとして、ファンの支持を得てきた。
■質問することを義務化
2005年に離職率28%だったサイボウズは2012年から5%以下を更新し続け、売上も伸ばしている。2017年版「働きがいのある会社」女性ランキング(Great Place to Work® Institute Japan調べ)では、同社は中小企業部門(従業員数100-999人)で1位に輝いた。同社の青野慶久社長は経営者の仕事は「聞くこと」と強調した。では、青野社長はどのようにして社員の話を聞いているのか。
ポイントとなるのは、10年ほど前から同社が社員に求めている「質問責任」という考えだ。これは、「説明責任」を補完するもので、不満があるのに言わないのは卑怯とし、質問があれば発言することを義務とした考え方である。
同社では、組織制度について出てきた不満は人事部に集約される。その後、テーマごとに有志を募り社内にある「仕事Bar」でディスカッションする仕組みになっている。議論は全社に共有し、参加できなかった人でも意見を言えるようにしている。
青野社長は、「このルールができてから、制度ができた後にグチグチ言う人は減った」と話す。同社では全社員のボーナスを決める仕組みは入社3年目の若手社員の意見で変わった。
そのため、社内には、「この会社は言えば変わる」という雰囲気が自然と生まれて、積極的に発言するようになっているという。
■投資のプロ、「相手の化粧を剥がすこと」
最後に紹介するのは、投資信託「結い2101」を立ち上げ、社会性のある企業への投資を行ってきた鎌倉投信取締役資産運用部長の新井和宏氏。新井氏は社長ではないが、投資のプロとして、多くの経営者と話し、企業を見極めてきた。
新井氏は、投資先を見極めるには、「相手の化粧を剥がすことが重要」と言う。就職活動も同様で、「少なくとも面接やOB訪問だけにはしない。そういうものを用意している企業は、戦略的にピカイチの人ばかりを紹介してくる。そうすると、社員全員がそのような人だと思い込んでしまう。化粧した顔ばかり見ても意味がない」と説明する。
化粧を剥がすには、「一般の社員にも会うことが一番」と話す。新井氏は投資先を理解するために、その会社のトイレに隠れたこともあるという。「偶然トイレに入ってきた人に話しかけて、世間話をしていると社内の雰囲気が分かってくる」。
学生たちには会社を見極めるために、「必ず考えてほしいことがある」とする。それは、「人としてどうかということ。経営者や人事担当者と話して、人として違和感を持ったら絶対にいかないほうがいい。逆に、社会のことが分からないなかでも、この人はすごくよいと感じられる人が多くいる会社に入ったら、失敗する可能性は低くなるはず。まとめると、いい会社を見つける一番の方法は人間力の高い人に会うこと」とした。