タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう

なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)

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◆組織とは

「代表!」桃山が呼びかけた。
原は黙々と椅子を運んでいる。
「代表!」桃山がもう一度、折りたたみ椅子を運ぶ原を追って呼びかけた。原が振り向く。
椅子を部屋の隅まで運びながら原が喋った。
「私は代表ではないですが・・・」
片桐が言った。「今、代表だと発表したんじゃないですか?」
「ああそうか」原が笑った。
「信用金庫の代表は引退したので・・・私は自覚がないなあ」
「ちょっとお話を伺っていいですか?農民新聞ですが」
「私はフリーの片桐と申します」
二人は名刺を差し出した。
原は両手に持った折りたたみ椅子を置きながら、両手をこすり合わせてから名刺入れから名刺を出した。信用金庫の顧問の名刺だった。
「Non Gon 党の名刺はまだありません」
長身痩躯の原が眼鏡の奥の目を細めた。
片桐が切り出した。
「私は福島の事故発生から車に泊まり込んで原発の取材をしております。お話を聞かせていただいたらすぐまた福島に戻ります」
桃山が言った。
「私はずっと耕作放棄地の問題を取材し続けてきました。そして先ほどのお話を聞いて、太陽光パネルを耕作放棄地に設置することが日本にとって最善策だと思っています」
原は怪訝そうな顔をして答えた。
「同感です。だから推進すればいいのではないですか」
すかさず片桐が答えた。
「だけどそれをさせない力が潜在しているのです」
「あるでしょうね」原がさらっと答えた。「それこそ農民新聞の方の方がそれをご存知なのではないですか?」
桃山が答えた「分かっています。それは農家です」
片桐が答えた「分かっています。それは電力関係者です」
原が二人を見て言った。
「ご存知なら私に何を聞きたいのですか」
「人の心です」片桐は答えてみてから、しまったと思った。
インタビュイーになって事を聞いているんだ。
「金融畑の私に人の心を聞くのですか?」
「すみません。私は原さんの書かれた『金融と心』を読ませていただいたので敢て聞くのです」
「読んでくれたのですか」という原の言葉を聞いて片桐はほっとした。職員の一人が近づいてきて「他には?」と言った。
原は手を上に跳ねるようにして、もう引き上げてくれという仕草をした。三人は椅子一つない大広間の隅に腰を下ろして語り合い始めた。
「金融の組織にも、嫉妬や意地悪や敵意があると書かれていましたよね?意外とそういう力が組織を停滞させるのはないでしょうか?」
「よい事でも邪魔をする?」原が言った。
「でなけれ良いことは直ぐにでも実行できるのではないですか?」

◆この続きは6月25日(月)に掲載予定です