現在、虐待や経済的な事情などで親と一緒に暮らすことができない子どもたちは、全国に4万5000人いるとされています。こういった子どもたちの約8割は児童養護施設などで暮らします。そのため、親の愛情を受けながら育つ子どもとは違い、「大人との十分な関わり」を受けずに育つといいます。「社会的養護下にある子どもたちに、愛の連鎖を届けたい」。先天的な病気のため、幼い頃から手術を繰り返し、死を幾度も目の当たりにしてきた一人の女性が「里親支援」啓発のために立ち上がりました。(JAMMIN=山本 めぐみ)
死が身近だった幼少期
「NPO法人日本こども支援協会」(奈良)の代表の岩朝(いわさ)しのぶさん(45)は、里親として小学生の女の子を育てるママでもあります。
岩朝さんは幼少期から先天性の病気のために入院を繰り返し、これまでに16回にも及ぶ手術をしてきました。そんな中で、亡くなっていく小さな命や、悲しむ家族の存在を目の当たりにしてきたといいます。
「同じ病棟には、重い病の子どもたちばかりが集まっていた。周りの子どもたちの死を目の当たりにしながら、自分には何もできないはがゆさや、どうやっても助けられない無常さを感じていたし、我が子が亡くなって、狂いそうなぐらいに泣き叫ぶ親の姿を見て、胸が張り裂けそうな思いだった」と当時を振り返ります。
親に愛され、短いけれども愛に満ちた命がある一方で、大人になってから、親が手を加えて子どもを殺したり、虐待などに耐えられず自死したりする子どもがいるということを知った岩朝さん。
「病気から生き残り、両極端な二つの命を見ることになった。病気で亡くなっていく命には何もできなかったけれど、虐待で亡くなっていく命には何かできるのではないかと思ったことが、私が里親制度の啓発を行う原動力」と語ります。
毎年、「里親の日」に合わせてキャンペーンを実施
「日本こども支援協会」では、里子を育てる里親への支援を行うほか、里親制度啓発のための活動を行っています。なかでも、毎年国が定めた「里親の日(10月4日)に実施している「One Loveキャンペーン」は、国内でも最大規模の里親啓発キャンペーンです。
「各地で、それぞれの地域の社会的養護下にある子どもの数だけチラシを配布している。たとえば、大阪府の社会的養護下にある子どもの数はおよそ3,000人。なので大阪には3,000枚配布する、といったかたち。現在、日本国内で社会的養護下にある子どもの数は約4万5,000人なので、今年は計4万5,000枚のチラシの配布を予定している」
「『日本にもこういう問題があるんだ』ということを、まず知ってほしい。『かわいそうな子どもたち』とひとくくりに片付けるのではなく、本来であれば希望に満ち輝かしい未来のある子どもたちであり、チラシを受け取った私たち大人一人ひとりに、子どもたちの未来が託されているというメッセージを伝えたい」
命だけでなく、人生も救いたい
そもそも子どもが親と離れ、児童養護施設などに預けられる背景にはどういったことがあるのか、岩朝さんに尋ねてみました。
「親の虐待からの保護が約7割を占める。ほかには親の病気や経済的な理由などで、実は死別などはほとんどない。保護されたということは、このままでは危ないという判断があったということ。なかには心身ともに恐怖を体験し、瀕死の状態の子どももいる」と話す岩朝さん。彼らが人生を取り戻すためには、誰かが重点的にケアをしなければならない、と指摘します。
「日替わりでいろんな大人たちがボランティアする事でケアできるかといったら、それは現実的に難しい。子どもには、ずっと側にいてあたたかく見守り、存在を受け入れてくれる、親の愛情が必要」
「日本の里親事情は先進国の中でも最も遅れていて、現在里親のもとで生活している子どもは、全体の18%ほどしかいない。残り82%の子どもは、施設で暮らしているが、他の先進国では、全く逆で、約8割の子どもが家庭的な環境で養育されている。『保護したからハイ終わり』ではダメ。社会をまだ知らない子どもたちは無力。自分たちで声をあげることはできないし、誰かに注目されることもない。だからこそ、大人たちが声をあげて救う必要がある」
負の連鎖を断ち切るためには、深い愛情が必要
ある施設を訪問した時、衝撃的な光景を目にしたという岩朝さん。「心を閉ざし、話しかけても会話が成り立たない子ども。目を合わせることもなく、近づくと逃げる子ども。日常の会話がないために、いつまでたっても言葉を発することができない子ども…。虐待によって後天的な障がいを抱える子どももいる。施設を出た後、悔しくてやりきれなくて、号泣するしかなかった」。
「命は助けられているのに、人生は助けられていない。あの子達はもう社会に戻れないかもしれない。私たちに何ができるだろうか?無責任に人生を救うだけではなく、まずは、そもそも子どもが心に傷を負わない状況を作っていくことをしていかなければならないと強く感じた」
「子どもだけでなく、子どもと一緒に生活することができない親たちもまた、虐待や貧困、精神的な障害やドラッグや服役などで人生の豊かさを感じて生きられていないことが多いと感じている」
「親子を分離して終わり、子どもを保護して終わり、ではなく、お母さんと子どもが分離しなくていい体勢を整えたり、親子が一緒に生きていけるよう親の社会とのつながりをケアしたりといった親と子を一緒にサポートできる体勢も今後必要になってくる。負のチェーンを断ち切るためには、周囲からの深い愛情が必要」
「やらないという選択肢は、私にはない」
「保護されることで子どもたちの命は助かるけれど、人生は助かっていない。『生きていてよかった』と思える、人生の喜びを感じてほしい。そうやって生きていく権利が、誰しもにある」と岩朝さん。
そのためには、周りがサポートできる社会であってほしいと話します。
「課題を自分ごととして感じてもらえる気づきやきっかけを作ることで、子どもの人生が変わるかしれない。そう思っている。虐待する親を批判し、責任をなすりつけるのは簡単。けれど、見て知っているのに救わないのは、加害者と同罪ではないだろうか」
「里親と聞くと『人さまの子どもを育てる責任は持てない』や『そんな自信はない』という声もある。けれど、『責任』ということでいえば、やらないほうがずっと無責任なのではないか。社会的養護下にある子どもたちの人生を自分たちが背負わなければ、誰が背負うのか。だから、私にはやらないという選択肢はない。社会の一員として、自分ができる範囲で、できるサポートをしながら、みんなで面倒を見られる社会になってほしいと願っている」
里親啓発キャンペーンを応援できるチャリティーアイテム
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「日本こども支援協会」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。
「JAMMIN×日本こども支援協会」コラボアイテムを1アイテム買うごとに700円がチャリティーされ、10月4日の「里親の日」にあわせて開催される里親制度啓発イベント「One Loveキャンペーン」で各地に配布するハート形チラシを印刷するための資金になります。
JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、さんさんと輝く太陽と、小さなテント。太陽の光は、親から子へと注がれる普遍の愛を、そしてテントは、親子が安心して穏やかに過ごすことができる空間を表現しました。
チャリティーアイテムの販売期間は、10月1日〜10月7日までの1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。
JAMMINの特集ページでは、里親制度について、そして「日本こども支援協会」の活動について、岩朝さんへのより詳しいインタビューを掲載中!こちらもチェックしてくださいね!
・里親制度──社会的養護下にある子どもたちに「愛情の連鎖」を〜NPO法人日本こども支援協会
山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。2018年9月で、チャリティー累計額が2,500万円を突破しました!
【JAMMIN】
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