「グーグルにまだない記事はたくさんある。社会のズレを意識するような記事を出していきたい」――。若者向けにニュートラルな視点で社会派な情報を発信するウェブメディア「NEUT Magazine(ニュートマガジン)」の編集長である平山潤さん(26)はそう話す。編集方針として、「エシカル」や「サステナブル」、「ミレニアルズ」などのマーケティング用語を「なるべく使わないこと」を掲げる。マーケティング化された言葉は分かりやすいが、バイアスがかかっているとし、人のストーリーを通して、「問い」を投げかけたいと言う。(オルタナS編集長=池田 真隆)

平山さんを取材した場所は「本」の街・神保町、普段立ち寄る本屋の前で

「サステナビリティ」という言葉への違和感

「サステナビリティという言葉は、高度経済成長期を生きてきた世代にとっては、無駄遣いをやめようという自戒の意味も込めて刺さると思うが、ぼくらの世代は生まれたときから経済は低成長を続けてきて、消費を謳歌してこなかった。サステナビリティの概念は程度の差はあれど当然持っており、声高に伝えても若者には響かない」

筆者が始めて平山さんに会ったのは、今から3年ほど前。若者に社会問題を伝える上で、普段から意識していることは何かあるかと聞くと、そう答えた。

続けて、「ぼくら世代にサステナビリティという概念を訴求するときには、むしろ、そういう言葉を使わないほうがしっくりくる」と言い切った。ターゲットのバックグラウンドを考慮して、コンセプトをデザインをしていくための最適なキーワードを選ぶ思考は、学生時代にプロダクトデザインの巨匠・坂井直樹氏に師事したことで培ったという。

言葉を取捨選択するセンスもさることながら、専門用語を使わないという方針も、読者と社会問題の距離を縮めた要因の一つだ。記事で最も強調するのは「人の活動や思想」。活動に込めた思いや始めた経緯について深堀する。そうすることで、その人の「ヒューマンストーリー」を見出す。

バイアスのないニュートラルな視点を

NEUT(ニュート)――。平山さんが編集長を務めるウェブメディアの名称だ。「Be inspired!」(ビーインスパイアード)というウェブメディアを2014年にオープンしたが、今年10月にリニューアルし、名称を変えた。

ニュートは、ニュートラルから取った造語だ。読者に様々な視点からの情報を届けることで、バイアスのないニュートラルな見方を伝えたいという意味が込められている。

「マジョリティ側にいる人がマイノリティの立場に立つことで、自然と多様性が生まれる。ボーダーをなくしていきたい」

「少数派」意識がズレを可視化

都市でもできるなアーバンな社会貢献の形を伝えていきたいと話す

ニュートでは重点取材分野に、宗教やセックスなど日常会話で話すことをタブー視されている領域もある。例えば、日本に住んでいるムスリム(イスラム教徒)の若者に「ぶっちゃけ話」を聞く特集も行っている。

インタビュアーは、「日本で差別を受けたことはあるか」「女性差別は今も残っていると思うか」などと質問する。ムスリムとして生きる一若者の忌憚のない意見を拾っており、「グーグルにはない記事」ができあがる。

ほかにも、「わき毛を処理しない」日本人女性へのインタビュー記事日本で「コリアンの若者」として生きることについての記事日本の若者にタトゥーを入れる理由を聞いた記事などの企画もある。

これらの特集の目的は「アイデンティティの確立」だ。平山さんは「アイデンティティを確立した人ほど、社会のズレを認識しやすくなる」と言う。こう考える背景には、自身が米国留学で味わった差別がある。

米国で、(拙い)英語を話してたときに、「英語を話せよ」とネイティブスピーカーにからかわれたり、卵を投げつけられたり水をかけられたこともあった。

日本で暮らしていると、人口の97.9%(2015年、総務省統計局調べ)が日本国籍のため、「日本人男性」の平山さんは、国籍でマイノリティを意識することはなかなかったという。しかし、アジア人という枠組みで差別を受けた彼は、以来、自分自身はマイノリティなのだと意識するようになる。

筆者もそうだが、平山さんを含む1980年以降の生まれミレニアル世代は、911や311などのテロや大災害を体感して育ったジェネレーションだ。社会問題をことさら意識することなく、自然体で社会問題を発信する新世代の編集者が営む「NEUT Magazine」の今後に期待したい。


平山 潤 / Jun Hirayama
肩書き:
NEUT Magazine創刊編集長
プロフィール文:
1992年神奈川県相模原市生まれ。成蹊大学経済学部在学中、米カリフォルニア州で一年間を過ごし日米の若者の「社会への関心の差」に気づかされる。大学卒業後、新卒でHEAPS.株式会社に入社、同社が運営する社会派ウェブマガジン『Be inspired!』の編集部員となる。2015年4月に副編集長、翌年8月には同誌編集長に就任。現在は2018年10月に『Be inspired!』からリニューアル創刊した『NEUT Magazine(ニュートマガジン)』で創刊編集長を務める。「既存の価値観に縛られずに生きるための選択肢」をコンセプトとする同誌で、消費の仕方や働き方、ジェンダー·セクシュアリティ·人種などのアイデンティティのあり方、環境問題などについて発信している。世の中の「当たり前」や「偏見」に挑戦する人々から日々刺激をもらい、少しでも多くの人に“ニュートラルな視点”を届けられるよう活動中。


【編集部おすすめの最新ニュースやイベント情報などをLINEでお届け!】
友だち追加