――勝つための道具ということですね。
その道具を大事にする、手入れをする、道具を作っていくことは大切です。お金というのは使い方で決まるのです。


■「何かを得たら何かを失う」――成功は怖かった

――今までで一番挫折した経験は何ですか。
一般的に見ると挫折しまくりなのです。大学受験は2度失敗しているし、会社を2つ潰しているし、一般論から見ると「なんでこの人は懲りないのだろう」と思われるでしょうね。

ですが、大学に2度目に落ちたときに、家に帰って母親に何を言おうか考えていると、「待てよ。これで高卒というコンプレックスを人生で初めて得たのではないか。コンプレックスって人生の中で大事なのではないか。このコンプレックスを神は俺に与えるために大学を落とさせたのだな」と思った瞬間にすっきりしました。それまで、僕にはコンプレックスがなかったのです。

何かを失ったら何かを得るという考え方を持っていました。逆にいうと何かを得たときに何かを失わなくちゃいけないという恐怖感を持っていました。

ソフトオンデマンドで増収増益の時期が5年間続いたのですが、もう怖くて怖くて仕方なかった。「上手くいき過ぎだ。何かを失わなくちゃいけない」と思い、無駄に5億円かけて映画を作ったりしていました。上手くいっていない時のほうが上を向いていられます。

得るものと失うものとは絶対同じだと思っているのですよ。例えばお金を持ったら「いいですね」と言われますが、お金を持つと何を買っても何を食べても喜びがなくなりました。本当は夜風にあたって寝たいのに、どんなに暑くてもシャッターを閉め、セキュリティをかけ、体に悪いのに冷房をつけて寝ています。貧乏だったころは鍵をかけなくても平気だったのに、こういう自由を失いましたね。

何かを得ると必ず失うものがあります。得たものと失うものは同じ、得たものは大きいけど失ったものも大きい。僕は世捨て人になりたい。世捨て人として楽しく生きていく方法は何かと考えた時に、農業をやりたいと思ったのです。

テレビ番組「マネーの虎」に出始めたころ、街を歩いていると「あ、がなりだ」と言われるのが嫌で仕方がなかった。自由が失われ、いつでも「がなり」を演じなくていけない。それで、世を捨てて、農家になりたいと思いました。

それから、人を教育するというのは勝ち組の義務です。自分のためだけに生きてはいけない。これも辛くてしょうがないです。ろくな苗木が来ないのでちょっとやると枯れるし、でも水をいっぱい与えたらろくな植物(人間)にならない。

その点、野菜を育てる仕事は3-6カ月で結果が出ます。手間暇かけるといいものができます。全部、自分の責任です。

ソフトオンデマンドを辞めたときに、15億円が手に入って、「そんなに使いきれない」と思いました。自分自身は、全然贅沢するのは好きではないし、高いものを食べるのも好きではないです。「このお金を持っていて『善良な百姓です』と言うのはズルいよな」と思いました。

だから、農業界に入るのなら「このお金を使って業界のためになることをやって名誉農民にでもしてもらおうか」と思い、まずは流通を変えるためにこの会社を作りました。



■「20代は自分を徹底的に痛めつけよう」

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