【連載】コロナ後の持続可能性、気候変動と再エネへ⑦
新型コロナウイルスが起きた背景を、再生可能エネルギーを軸に考察していく連載企画第7弾。今回のテーマは、「エシカルなバッテリー」。スマフォやPCなど私たちの生活に欠かせないIT機器を稼働させるバッテリーの裏側に児童労働が潜んでいる。企業・NGO・大学が連携して、バッテリーのトレーサビリティを追求する取り組みが起きている。(寄稿・平井 有太=ENECT編集長)
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実は、その原料をたどるとアフリカの鉱山に行き着き、過酷な労働搾取や児童労働、時には鉱物に関わる紛争が起きているとしたらどうだろう?
バッテリーに使われる希少金属「コバルト」は、世界の生産量の約7割がコンゴ民主共和国で採掘されている。電気自動車の生産拡大はコバルトの需要拡大にも影響を与え、「環境にやさしい」車が普及する陰で、鉱山では人権侵害が起きている。そのことを意識して、今もあなたの利き手が握るスマホに目をやれば、見え方が変わってくるのではなかろうか。
まだ、バッテリーの原料を考える習慣は、私たちにはない。しかしこのコロナ禍、鉱物産出国で暮らす子どもたちへの影響は大きい。国連は、貧困にあえぐ子どもが世界で4200万~6600万人増加する懸念を表明した。
原因は親の収入減、借金の増加だ。背景には安い労働力を求めるグローバル経済があり、さらに追求すれば、企業による価格の抑制、コスト削減、そして「安いものを買いたい」という消費者意識にたどり着く。
去る6月17日、これから始まる、ある「取り組み」に向けた配信トーク企画があった。
参加一組目は「子ども、若者が自らの意志で人生や社会を築くことができる世界をつくるために、子ども、若者の権利を奪う社会課題を解決する」ことを標榜し、インドとガーナでプロジェクトを運営。
これまで2,360人の子どもを児童労働から解放し、約13,500人の教育を支援してきた認定NPO法人「ACE」。ACEにはカカオ生産者、チョコレートビジネスと消費者をつなぎ、児童労働のない原料を供給する「しあわせへのチョコレート」プロジェクトの実績もある。
次に、コンゴの紛争資源問題と消費者の責任について研究し、著書に『資源問題の正義―コンゴの紛争資源問題と消費者の責任』(東信堂、2016年)がある東京大学未来ビジョン研究センター講師/NPO法人RITA-Congo共同代表の華井和代氏。
最後に、2016年に発電者と生活者をつなぐ電力小売りサービス「顔の見える電力」を開始し、「納得感を持って選択する」体験の提供、再生可能エネルギーを国内トップの比率(東京都調べ、2018年)で供給するみんな電力から、大石英司代表も参加した。
同社が今年6月に開始した「取り組み」こそが、「みんなでフェアチャージ!プロジェクト」。その趣旨は、特許も取得したブロックチェーン技術を活用し、コバルトのトレーサビリティプラットフォームを構築すること。メーカーとの連携を通じ、児童労働に関与しない「フェアでエシカルなバッテリー」の開発と普及が目標という。
トークの中で華井氏は、消費者による製品の選択や、投資家によるESG投資の観点からの判断が企業の具体的な行動変化を促すことを、過去の実例を用いながら説明した。鉱物のサプライチェーンの透明性において肝となる採掘鉱山の認証システムが、現地では結局のところ手書きであるという話に、ACEが「そここそをブロックチェーンで」と、労働環境の可視化を訴える場面もあった。
昨年末にアメリカでは、コンゴのコバルト鉱山で死傷した子を持つ14人の親の代理人としてインターナショナル・ライツ・アドボケイツが、アップル、デル、テスラ、グーグル、マイクロソフトを提訴したことも話題となった。
国内の蓄電池市場は6.5兆円。市場全体のバッテリーのせめて2割でもトレーサブルにし、売り上げの一部を労働の環境改善につなげていくイメージで、人を不幸にしないバッテリーの普及は可能だ。
コロナ禍、消費者はより本質的な安全性を求め、製品やサービスを選ぶ上で「透明性」を意識し始めた。むしろ今まで、その観点からバッテリーに関心がいっていなかったのが不思議でもある。
フェアなバッテリーが私たちの選択肢に加わる日に向けて、記念すべき一歩が踏み出された。
この続きはこちら⇒【初回】ACE × 華井和代|エシカルでフェアなバッテリーをつくる