子どもや障がいのある子ども、子育てや子育てする親への視点や支援はあっても、「障がいのある子どもを育てる親」に対しては、その存在に目を向けられることが少なく、孤独を抱え、疲弊している親も少なくないといいます。障がいのある子を持つ親に寄り添い、心の内を話せる居場所を作りたいと、岡山県倉敷市で活動するNPOがあります。(JAMMIN=山本 めぐみ)

障がいのある子を育てる親が気軽に集えるカフェを運営

「うさぎカフェ」の特製フレンチ・トースト。「ふんわり甘いトーストの上に、自家製あんこ、ホイップクリーム、バニラアイスをトッピングすることができます。がんばっている自分へのご褒美として注文する人もいるくらい大人気のメニューです」(安藤さん)

岡山県倉敷市で、障がい児の保護者のためのカフェ「うさぎカフェ」を運営する認定NPO法人「ペアレント・サポートすてっぷ」。代表の安藤希代子(あんどう・きよこ)さん(50)は、自らも自閉症の子を持つ母親として、障がいのある子を持つ親たちの苦悩を目の当たりにしてきました。

「社会から『障がい児の親』とまるっとひとくくりにされ、本当の気持ちを知ろうとしてもらえないことがあります。さらに障がいのある子どもを持つ親は、子どものことでどうしても謝ることが多かったり、周囲からダメ出しをされたりしがちです。頑張っても頑張っても、その頑張りが認められない中で、しんどさを抱えている親御さんがたくさんいます」

お話をお伺いした安藤希代子さん

安藤さんは2012年に団体を立ち上げ、2016年には「ゆるやかにつながることができる場」として、保護者の居場所「うさぎカフェ」をオープンしました。

「訪れてくださるのは、障がい児のお母さんたち。同じような状況にある家族と子どものことや自分自身のことを相談できたり、新たな仲間に出会えたりする場所です。カフェという形態をとっているのは、いつ来ても帰ってもいいし、何を話してもいいし、話したくなければ話さなくても良い、お母さんたちそれぞれのペースを大事にしたいから。食もこだわっているので、『美味しいものが食べたい』ということで来られるのも大歓迎です」

自家製ケチャップを使用したミネストローネと手作り鶏ハム、バゲットのランチ。「うさぎカフェではケチャップ、ジャム、マヨネーズ、カスタードクリーム、あんこを手作りしています。食べてホッとして、身体も心も喜ぶような料理を意識しています」(安藤さん)

「おいしいものを食べると心がほぐれるし、同じ空間にいる人たちと同じ食事をとることである種の連帯感が生まれ、そこから関係が広がることもあります。相談や座になって話し合うという目的だけだと少しハードルが高く感じられることもありますが、ただおいしいものを食べる、ゆっくりする、誰かと話す…、いろんな目的で気楽に集えるのがこのカフェの良さです」

外に出られない親御さんのためにハンドブックの制作も

冊子『ひとりじゃないよ』。障がいのある子どもの成長の過程に応じ、必要な情報が集約されている

「一方で、障がいのある子どもを育てる親御さんの中には、なかなか外に出るのが難しい方も多くいます」と安藤さん。そういった人たちが、家にいながらにして情報を入手でき、「ひとりじゃない」ということを感じてもらいたいという思いから、障がいのある子どもの成長の過程に応じて必要な情報を集約した全5冊のハンドブック 『ひとりじゃないよ』を発行しています(現在3冊目までを発行)。

「障がいのある子どもを育ててきた中で、親御さんによって情報の格差があると感じてきました。私は比較的動くことができたので、いろんなところに出向き、調べて情報を得ては子育てにもそれを生かすことができました。しかし一方で、情報がなく、手探りの中で子育てをしている親御さん、困っている親御さんも少なくありませんでした」

「必要な情報が得られていないのは、親御さんの努力不足のせいなのでしょうか。そうではないと気づきました。情報が必要なのに、子どものケアのために外に出たくても出られない、動きたくても動けない親御さんがたくさんいます」

カフェに来ることが難しい人たちのために、出張で「茶話会」も開催。「放課後等デイサービスの事業所に出張して、利用者の保護者のための茶話会の場を提供することもあります」(安藤さん)

「本来であればそういった方たちにこそ必要な情報や支援が届くべきなのに、動ける人たちのもとにしか届かない。『動いた者勝ち』のような風潮があって、それは違うのではないか、なんとかしたいと思い、冊子の発行に至りました」

「障がい児を育てるお母さんからしても、子育ては初めてのことばかり。暗中模索でも少しでも先を照らすものがあれば、多少なりとも安心して子育てできる。この冊子は『不安だし孤独に思うかもしれないけれど、案外大丈夫だよ。そしてあなたは一人じゃないよ』という親御さんへのメッセージでもあるし、このような冊子があるということ自体が、親御さんにとっては『自分たちの存在に目を向けている人がいるんだ』という励みとしてもらえるのではないかと思っています」

社会の目が障がいのある子どもには向いても、その親には向けられていない現実

子育てに奮闘していた頃の安藤さん。「娘が8歳のころ、障がい児の親の会の調理実習に参加した時の様子です。下の子もまだ小さく姉弟の両方それぞれに手がかかりましたが、娘にとって何か良さそうなことがあれば何でも参加していました」(安藤さん)

「子どもの障がいは親のせいではない」という認識がひと昔前に比べて広がってきてはいますが、「もうちょっと子どもに愛情をかけてあげられないのか」「子どもは悪くないのだから、あなたがもっとがんばりなさい」といった周囲からのダメ出しに、疲弊しているお母さんが少なくないと安藤さんは指摘します。

「ただでさえ子育ては楽なものではありませんが、障がい児の場合、より難しい子育てになる傾向があります。たとえば自分が小さい時にしてもらって嬉しかったことを我が子も喜ぶのではないかと同じようにしたとしても、障がいによっては予想外の反応や、親からしても理解不能の行動もあったりして、努力のわりには報われにくいというところがあります。親としての失敗体験が積み重なっていくと、次第に『私はダメなんじゃないか』と自信を喪失してしまいます」

「お母さんたちは子どものことで悩んでいるけれど、それ以上に、自分の気持ちについて語れる場がなくて困っているのです。だからこそ、私たちはあえて『あなたはどういう気持ち?』という声がけをするようにしています。子どもの障がいや悩みごとについては他でも相談できる窓口がありますが、お母さん自身のことは誰も理解してくれないし、聞いてさえくれない。だからこそ、私たちはお母さんにスポットを当てたいのです」

「母さんがあまりにつらいと、今度はそれが『この子のせい』『この子さえいなければ』というふうになり、ここが煮詰まっていくと虐待や無理心中につながっていく可能性もあります。虐待にはつながらなかったとしても、『この子のせいで』と思いながら我が子との関係を築くことは、精神的な意味で子どもを殺してしまいます。お母さんが抱え過ぎると、すべてのしわ寄せは弱い立場にある子どもに行ってしまう。その意味でも、親御さんのメンタルのケアは本当に放置してはいけないことだと考えています」

お母さんたちの特技を生かしたイベントを企画、「彼女たちの存在や悩みも一緒に発信できたら」

2020年11月8日、うさぎカフェを会場として行われた「ハンドメイド・マーケット」。普段はクローズドの場であるうさぎカフェを一般公開したところ様々な人が訪れ、作品を手に買い物を楽しむ姿が見られた

かねてより、カフェを訪れるお母さんたちの手先の器用さに着目していた安藤さん。これを生かして何かできないかとハントメイドマーケットを企画、一般の方たちに向けて開催しました。

「悩み相談ではない、得意なことでイキイキと輝く彼女たちの姿が見たい、そして後輩のお母さんたちにも元気をあげられたらいいな、という軽い気持ちで企画しました。そうすると開催時間中ずっと切れ目なく、本当にいろんな方が訪れてくだって。作品を手に取り、どれにしようかといろいろ迷いながら買ってくださって、それがお母さんたちにはすごく嬉しかったようです」

「あるお母さんが、かぎ針編みの小さなバッグのストラップを販売されていました。『こんなに小さいバッグを編むの、大変じゃない?』と尋ねたら、『子どものリハビリの待ち時間に、編むのにちょうど良いサイズなんです』という答えが返ってきました。そのセリフ、障がい児のお母さんならでは、と思って。リハビリや療育、通院に伴う待ち時間は、他の人や他のお母さんたちからは見えない時間、でも障がい児のお母さんたちにとっては『あるある』の、生活の中で数限りなく積み上がる時間です」

かぎ針で編んだ、小さなバッグのストラップ。「作ったお母さんは『リハビリの待ち時間に編むのにちょうどいいんです』と。小さくても丁寧な仕事がされています」(安藤さん)

「彼女たちは生活の中の多くの時間をそこに割かざるを得ない。でも、その時間を利用してその可愛らしい作品ができたのだと思うと、それはモノ以上の価値がありますよね」

そして今、こういった作品を販売するオンラインショップのオープンに向けて動いているといいます。

「カフェでの販売だけでなく、オンラインショップを通じて、モノと一緒にこういったストーリーや障がいある子を持つお母さんたちの存在を、全国に向けて発信していきたい」と安藤さんは話します。

「一人ひとりに人生がある。苦しみや悲しみだけでなく、喜びや楽しさを追求しても良い」

「ハンドメイド・マーケット」での一枚。「子どもの学校の校長先生が、保護者の方が出店されると聞いて作品を買いに来てくれました。子どものこと以外で学校の先生とお話できて、出店者さんも嬉しそうでした」(安藤さん)

「どんな人にとっても人生は二度とないもの」と安藤さん。

「だからこそ、悲しみや苦しみがある中にも喜びや楽しさを見つけて、一人ひとり幸せになってもらいたい。私自身が本当にたくさんのお母さんと関わらせてもらってきた中で、一人ひとりへの愛おしさから強くそう感じてきました」

「『障がいのある子を産んだら、残りの人生はその子のケアのために費やさなければならない』という暗い、マイナスな展望が抱かれがちでした。しかし、それだけではないと思います。本当にしんどい子育てを重ね、老いて亡くなるまで自分の幸せは何もない、みたいな人生を送る必要はないのだと声を大にして言いたい」

「うさぎカフェ」スタッフの皆さん。「私たちは、子どもに障がいがあっても安心して子育てでき、お母さんたちが一人の女性としての人生を生き生きと自分らしく送ることができる社会をつくるために、これからも多くの方と手をつないでがんばっていきます」(安藤さん)

「決して子どもをないがしろにするという意味ではなく、母である前に、母であると同時に、一人の人間として人生をイキイキと生きることもできるんだ、生きても良いんだということを、社会に対しても、後輩のお母さんたちに向けても伝えたいです」

「親御さんがどれだけがんばって良い環境を作っても願った通りにいかないこともあります。子育てがうまくいったかいかなかったかなんて、そう簡単に判断できるものではありません。我が子がどんな道に進むにせよ、それとは別に親御さんの人生があるし、うまくいかなかったからといって親御さんのこれまでのがんばりがすべて帳消しされるわけではありません。『あなたはあなたで幸せになる道が必ずある、だからそこを目指しても良いし、罪悪感を持たなくても良いんだよ』と伝えたいですね」

ハンドメイドマーケットのオンライン化を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「ペアレント・サポートすてっぷ」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

1/18〜1/24の1週間、JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が「ペアレント・サポートすてっぷ」へとチャリティーされ、オンラインショップ立ち上げに必要な資金として使われます。

「JAMMIN×ペアレント・サポートすてっぷ」1/18〜1/24の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はスウェット(カラー:ベージュ、価格は700円のチャリティー・税込で7600円)。他にもTシャツやパーカー、トートバッグやキッズTシャツなど販売中

コラボデザインには、肩を並べて星空を見上げるウサギたちの姿を描きました。同じ空間で楽しいこと、つらいことやしんどいことも共有しながら、それぞれの人生の希望の光を見つめて前に進んでいく様子を表現しています。

チャリティーアイテムの販売期間は、1/18〜1/24の1週間。JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

障がい児の「親」を支援、「親である前に、一人の人として悩みながらも一生懸命生きていることを知って」〜NPO法人ペアレント・サポートすてっぷ

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は5,000万円を突破しました。

【JAMMIN】
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