「どんな子どもでも子どもらしく、かわいらしく過ごすことができるように」。息子が小児がんで闘病したことをきっかけに、病気の治療で外見が変化した子どもが自分らしく、元気でいられるよう、「子どもの外見ケア」に取り組む団体があります。(JAMMIN=小林 泰輔)

病気の子どもと、子どもに付き添う保護者が
前向きに今を生きられるように

百貨店で開催した「チャーミングケアモール」のポップアップの様子。色とりどりのアイテムが並ぶ

「どんな子どもでも、子どもらしく過ごすことができるように」。一般社団法人「チャーミングケア」は、病気や障がいのある子どもと家族のQOL向上のためのさまざまなケアを行っています。

病気や障がいのある子どもたちや、その家族のためのオンラインのマーケット「チャーミングケアモール」では、「病気でもおしゃれを楽しんでほしい」「前向きに治療に取り組むきっかけになれば」との想いから、柄にこだわったカテーテルのカバーやケアキャップ、かわいい食器や小物などを販売しています。

塞ぎがちだった我が子の瞳が輝くのを見て
アピアランスケアの重要性に気づいた

石嶋さん(写真右)と息子の壮真さん

団体を立ち上げたのは、代表の石嶋瑞穂(いしじま・みずほ)さん(45)。2016年、当時小学2年生だった長男の壮真(そうま)さん(14)が小児がんを患い、入院したことをきっかけにこの活動をスタートしました。

「入院中、つきっきりで看病していたのですが、抗がん剤治療が始まるタイミングで、病院から『カテーテルカバーを作ってきてください』と言われたんです」と当時を振り返る石嶋さん。

「子どもの元から離れられないので、布を買う時間も裁縫する時間もありません。ネットでも探してみましたが、サイトなどでも売っていませんでした。結局、友人が手助けして作ってくれたのですが、そのカバーが、有名ブランドの柄だったんです。それを手にした息子が、それまで元気がなかったのに、目を輝かせながら、カバーを嬉しそうに看護師さんに見せていました」

入院したばかりの頃の壮真さん。「自分の病気のことをしっかり理解していなかったので、入院することに納得がいかず、毎日がイヤイヤで大変でした」

「その姿を見て、入院中であってもかっこいいものやかわいいものを身に付けたいという子どもの気持ち、そこをフォローすることで闘病する本人が前向きになれるということに初めて気づかされました」

「自分と同じ境遇で困っている保護者もいるのでは」とも考えるようになった石嶋さん。その後、ワンコインで買えるカテーテルカバーキットを作って販売すると、あっという間に売り切れてしまったといいます。

「やっぱり困っている方が多いんだ」と思い、カテーテルカバーだけでなく、ケアキャップなど、子ども用の医療ケアグッズを制作。困っている親御さんたちのニーズに応えたいと、オンラインのモールを立ち上げて販売するようになりました。

ケアグッズの販売を通して
いろんな課題が見えてきた

チャーミングケア研修特設サイト。医療・教育・理美容・子どもアドボカシーなどのジャンルの各専門家に、子ども講師も入り、月に一度のオンラインの研修を開催。オンデマンドで学ぶことが可能

オンラインのモールを立ち上げてから、子どものアピアランスケアの重要性がまだまだ知られていないと痛感した石嶋さん。まずはアピアランスケアを知ってもらう必要があると考えるようになり、研修事業もスタートします。

特に、医療従事者や教育・理美容業界で働く人たちにより広く知ってもらいたいと、専門家や病気を経験した子どもを招き「病気や障がいのある子どもや家族に対する適切な配慮」について考える研修を実施しています。

また、子どもが入院すると、付き添いのために親が働くことが難しくなり、経済的な負担が大きくなるという課題を感じた石嶋さんは、子どもに病気や障がいがある親が、看病しながらでも働ける環境を作りたいと就労支援もスタートします。

そして今、息子の壮真さんが取り組んでいるのが、病気を経験した子どもや闘病中の子どもが集まって話せるメタバース(インターネット上にある仮想世界。アバターを使って自由に移動でき、メタバース内で社会生活を送ることができる)の開発です。

「同じ境遇の人が悩みを共有できる場所を作りたい」

現在、開発中のメタバースの世界(イメージ)。「7月には本格的に始動します」
 

メタバース開発に取り組む壮真さんは、その理由を「小さい時からプログラミングが得意なことと、退院してから病気を経験した人や闘病している人と悩みを共有できる場所を作りたいと感じたから」と話します。

小学2年生の時に急性リンパ性小児白血病を発症し、1年間入院。3年生で小学校に戻った時、「わからないことばかりだった」と当時を振り返ります。

「入院中は治療がほとんどで、学校の皆のように九九を毎日やるみたいな生活したことがありません。学校に戻ってから、自分なりに頑張ってるねんけど、皆が当たり前みたいにわかっていることがわかりませんでした」

「退院したら終わりじゃなくて、退院してしばらくは、抗がん剤治療で髪が生え揃っていないとか、顔が浮腫んで太っていると思われるといった見た目の不安もありました。退院した後も抗がん剤の薬を飲むんですが、飲むとしんどくなったりだるくなったりして、ほかのことは何もできなくなってしまうこともありました」

入院中はさまざまな食事制限があり、食べられるものも限られていた。「退院してようやく食事制限がなくなってきた頃、家族で外食した時の一枚です」

「でも、周りにはそれをなかなか理解してもらえなかった。退院したすぐの時は『入院してたんやから、できへんのは仕方ない』という反応やったのが、時間が経って見た目が普通になっていくと『なんでできへんの』という見方に変わっていく。やりたくないわけでもやる気がないわけでもないのに、毎日担任の先生に呼び出されて『お前を変えてやる』と言われて、つらい思いをしました」

さらに、自分がしんどいということを、「本人の中でも言語化できていなかった」と母親の石嶋さん。

「計算ができへん、リコーダーが吹けへん…、皆が当たり前のようにできていることができないということがどんどん蓄積されて腹が立ってきて、授業を妨害したり、教室から脱走したり、気付いた時には問題児になっていました」

「何が原因なんやろう?と思って。ある時、『もしかしたら、勉強についていけへんって思ってるんちゃうん?』と彼に尋ねると、涙をポロポロ流して、『そうや』と言ったんです。

『病気はもう治ってるのに、何でできへんのやといわれる。それが、もうしんどい』と」

「うすうす自分がそう感じていると思ってはいたけど、勉強もわからんし運動もできへん、いっぱいいっぱいだった」と振り返る壮真さん。自分の言葉で学校に思いを伝えたことで、少しずつ状況は改善されていったといいます。

特技がプログラミングだという壮真さん。メタバースのチームでは、子どもリーダーとして制作に関わっている

「この経験を通じて、伝えないと自分が損するなと身に染みてわかったので、『こういうことを思っている』とか『こういうことに遭ってる』ということを、何らかの方法で伝えたり、手を挙げる場所があることが大事やと思って。それで、メタバースを開発したいと思いました」

「メタバース空間で雑談力を磨くことができれば、それはきっと必ず、その後の人生でも活きていくのでは」と石嶋さんも期待を寄せます。

「息子が入院していた時、投薬や治療の説明を、多くの医療従事者の方は、保護者にしていました。抗がん剤治療は薬が多く、副反応もさまざまです。吐いたり、過食になったり、髪の毛が抜けたり…。子どもはなぜそうなっているのか、それが薬のせいであるということさえ、親の説明がないかぎり知ることができません」

「息子の場合は、質問すると丁寧に教えてくれました。でも中には、知りたくても聞けない子もいると思います。あるいは親御さんが『うちの子は大丈夫』『子どものことは親が知っていれば大丈夫』と思っていることもあります。子どもが自分の気持ちを大切にして、声を上げられるようになるためには、本音で語れる場所があることが大事なのではないでしょうか」

「より多くの方の心の拠り所になりたい」。
リアル店舗をオープン予定

「子どもの社会は学校です。学校でご機嫌に過ごすために、身だしなみは大切なこと。子どもにも外見ケアは必要です」と壮真さん

7月には、メタバースの事業が本格的にスタートします。「保護者の方に理解してもらえるよう、説明会なども行っていく予定です」と石嶋さん。さらには、チャーミングケアのオンラインモールで販売している商品を実際に手に取ってみることができたり、メタバース空間を体験できたり、ミシンを設置して就労支援にもつながるリアル店舗もオープン予定だといいます。

「wi-fi環境も整っているので、入院や闘病で学習がストップしたお子さんが自分のペースでオンラインで学べたりとか、親御さんが来てここで働けるようなコワーキングスペースも行う予定です。多くの方の拠り所になれるような場所にしたい」と石嶋さん。

チャーミングケアモールを開始した頃、購入者の方から送られてきた手紙。医療的ケアが必要なお子さんと写った写真と共に、3枚の便箋にびっしりと、お礼と思いが綴られていた。3年経った今、彼女もアンバサダーとして活動に参加、共にチャーミングケアを広めている

「大人は大人であって、子どもは子ども。たとえ親子でも、親には親の、子には子の人生があります。親も子も、自分の人生を生きていかなければならない。親には親の意見、子どもには子どもの意見があるので、それぞれ適切な場所に、その声を届けていきたい」と今後の活動への思いを語ります。

「メタバースを完成させて、いっぱい人を呼びたい」と壮真さん。

「出会いの場になって、大人だけではなく、自分たちのリアルな声が集まる場所になったらと思います。僕は、声を上げたら、周りの人がサポートしてくれました。だから、『一緒に声を上げていこう』と伝えたいです」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、6/5〜11の1週間限定でチャーミングケアとコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円がチャーミングケアへとチャリティーされ、大阪府池田市にオープン予定の店舗の改装のために活用されます。

1週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、楽しい雰囲気で、どんぐりの中から飛び出す、いろいろな格好をした動物たちを描きました。
病気や育つ環境に左右されず、子どもたちがなりたい自分の姿や夢に向かって、自分らしさや自信を失うことなく進んでほしいという思いを表現しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

・「病気や障がいのある子どもと保護者の拠り所になりたい」。ケアグッズ販売や就労サポートを通して、家族のQOLの向上を目指す〜一般社団法人チャーミングケア

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は8,000万円を突破しました。

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