1995年1月に起きた阪神・淡路大震災をきっかけに、災害救助犬の育成・派遣を始めた民間団体があります。「犬とともに社会に貢献する」という理念のもと、現在は災害救助犬だけでなく、セラピードッグの育成・派遣、動物福祉の3本の柱で活動しています。(JAMMIN=山本 めぐみ)

阪神淡路大震災をきっかけに
災害救助犬を育成・派遣

災害救助犬の「陸(りく)」の訓練の様子。「隠れた人をにおいで探し、吠えて知らせます」

兵庫県伊丹市・佐賀県大町町を拠点に、緊急災害時に現地へ災害救助犬を派遣し、救助活動を行っているほか、セラピードッグの育成・派遣、動物福祉活動を行う認定NPO法人「日本レスキュー協会」。「犬だけでも人間だけでもない、どちらも幸せになれる”共存”を目指していけたら」と話すのは、スタッフの辻本郁美(つじもと・いくみ)さん。

災害救助犬とは、地震や土砂災害などの現場で、がれきに埋もれてしまった人や、山で行方不明になった人を探す犬のこと。1995年に起きた阪神・淡路大震災をきっかけに、災害救助犬に特化した民間のレスキュー団体として活動をスタート。その後、被災した子どもたちを招いたクリスマス会で、犬と触れ合うことで明るい表情を浮かべる子どもたちを見て、セラピードッグの育成もスタートしました。

さらに、「犬をパートナーとして活動をしている以上、殺処分の問題も解決に導いていかなければ」という思いから、保護犬の里親探しや、子どもたちに向けて、命の大切さを伝える授業なども行っています。

災害救助犬について、ハンドラーの高木美佑希(たかき・みゆき)さんに聞きました。

「犬の嗅覚は人の100万倍とも1000万倍と言われていますが、がれきの隙間から浮遊する人の呼気を感じ取り、それを地表でキャッチし、たどっていきます。においが出る隙間があればキャッチできますが、たとえば土砂が深い場合は隙間がないため、そのような場所での捜索は難しいです」

適性のある犬が、訓練を経て
「災害救助犬」に

令和3年に起きた熱海市伊豆山土石流災害の現場で活動する、災害救助犬「太陽(たいよう)」とハンドラー

災害救助犬は、3〜4年をかけて育成するといいます。

「子犬の時は、さまざまな環境に適応する能力を養うため、一般的な社会化のトレーニングを行います」と高木さん。

「人混みの中や工事現場など大きな音がするところや、大人から子どもまでいるさまざまな環境に身を置きながら、そのような中でも平然とした精神状態を保つ訓練を行います。同時に、いろんな人と遊んだり、おやつをもらったりして人を好きになってもらい、人とともに作業する楽しさを覚えていきます」

「さらにそこから、災害救助犬として、現場を想定してがれきを登ったり、暗い場所で作業したりといった訓練に入っていきます。災害救助犬として必要な能力が、遊びながら自然と養えるようなトレーニングを心がけています」

訓練犬の「湊」。「小さいころから、がれきでお散歩したり遊んだりして慣らしていきます」

「犬の適性はかなり重視します。というのは、どれだけトレーニングを積んでも、たとえば人が怖い、物音が怖いという感情を持っていると、その犬にとってストレスになってしまうからです。救助犬になれなかったらダメというわけではありません。セラピードッグや家庭犬として力を発揮する犬もいるので、その犬に合った道を選んであげることが大切です」

日本レスキュー協会には現在、現場で活動する2頭の災害救助犬、トレーニング中の犬が6頭います。

「犬種は問いませんが、災害救助の現場では万が一の場合、犬を抱えて移動できなければいけません。そうなると、50キロ以上ある大きな犬は難しいです。小さな犬の場合は、足が細く、がれきの中や高低差のある現場で骨折などのリスクが高くなってしまいます」

「初めての現場で、無力さを感じた」

2014年に起きた広島土砂災害の現場にて。ここでの経験が、高木さんの災害救助犬への思いを強くした

2014年、入職して4ヶ月経った頃に、広島で起きた土砂災害の現場に初めて出動した高木さん。

「入職したてで犬は連れていませんでしたが、サポート役として出動しました。ニュースなどで被災地の映像はこれまでも見たことがありましたが、その光景はあまりにも衝撃でした。たった一日でこれまでの生活が残酷に失われていく。その時に感じた恐ろしさを、今でもよく覚えています」

「犬を連れて現場に行く私たちに対して、被災者の方々は『ありがとうございます』と頭を下げられ、捜索現場では土砂まみれになった家屋の中に、災害前の生活を感じさせる、子どもの教科書や家族の思い出の写真などが落ちていました。行方不明者を捜索中、ご家族が祈りながら見守り、その姿に胸が締め付けられる思いでした」

神戸市消防局との合同訓練後のミーティングの様子。「災害救助犬の能力を理解していただくために、隊の皆さんとのコミュニケーションは欠かせません」

「救助犬たちにも体力の限界があります。暑い夏の時期は、それほど長くは活動できません。犬たちの体調を考慮して現場を撤退すると決めた時、車内に戻ると、この災害でまだ幼い我が子を亡くした母親が、葬儀で悲痛に泣き叫ぶ様子が報道されていました」

「私たちが現場に入るためには、自治体からの要請がないと難しい。救助隊との連携がないと活動できない。深い土砂に阻まれて捜索が難航する…。一人の力ではどうにもならない現実に、『私は被災地のために何ができたのだろうか』と、自分の無力さを思い知らされました」

「自然の猛威は恐ろしい。だからこそ一人ひとりが災害のことを平時から考え、備え、連携し、行動すること。それが私たちにできることなのだと、この時、本当の意味で理解しました。日本の被災地でも、当たり前のように救助犬が活動できるように、これからも訓練と活動に励んでいきたいと思っています」

被災地などを訪問する「セラピードッグ」も育成

「セラピードッグたちはどんな人の心の壁も、いとも簡単に飛び越えてしまいます」

災害があった地域の復興住宅、福祉施設や小児病院などに定期的に訪問しているセラピードッグもまた、災害救助犬同様に適性があります。

「攻撃性がないこと、環境適応能力があることが条件で、ずば抜けて人が好きでないと難しい」と話すのは、スタッフの赤木亜規子(あかぎ・あきこ)さん。

「動物福祉活動も行っているので、殺処分一歩手前だった犬を保護して育成し、セラピードッグとして役割を持たせてあげられたら理想ですが、保護された犬たちの多くが人慣れしていないなど何かしらの事情を抱えていることや、すでに成犬の子も少なくないので、そこで一から人好きに育てるというのは、正直難しいです。とはいえ、過去には保護犬から、トレーニングを経てセラピードッグになった子もいました」

「訪問している施設のスタッフさんから、『普段はあまり話さない人がたくさん話してくれてびっくりした』といった声を聞きます。会った人と距離を縮め、心を開いてもらう。犬たちは、人間ができないことをいとも簡単にやってのけてしまいます。いつもすごいなと感心します」

被災したペットと飼い主への支援も

日本レスキュー協会の災害救助犬・訓練犬たち。左から「陸(りく/災害救助犬)」「太陽(たいよう/災害救助犬)」「湊(そう/訓練犬)」「結道(ゆいと/訓練犬)」「楽(たの/訓練犬)」

「災害救助犬の育成・派遣、セラピードッグの育成・派遣、どちらも被災地と深く関わりのある活動です」と辻本さん。

「災害があった現場へ行くと、ペットと離れ離れで避難生活を送っていたり、被災して手放さなければならないといったケースを目の当たりにすることが少なくなく、普段からしっかり備えておくことによって最大限防げることもあるのではないかという思いから、ペットの防災についても発信しています」

「避難所での生活を想定し、普段からケージの中で過ごすことに慣れさせておく、何かあった時にすぐ持ち出せるように必要なペット用品を準備しておく、何かあった時の預け先を決めておくといったことです。『ペットを迎えた以上は、終生飼い続ける』という、すべての飼い主が持っている責任を果たすために何が必要かを、講座などでお伝えしています」

ペットと避難する際に必要な物品。数日分のフードや水、ケージ、ペットシーツやウンチ袋、ウェットティッシュなど。「自分とペットに合ったものを準備しましょう」

さらに、被災したペットと飼い主への支援も行っているといいます。

「災害が起きた後、その地域にはがれきや土砂を撤去する重機、家屋の復旧、医療や避難所支援など、各地からさまざまな専門の技術を持った支援団体が集まりますが、ペットに特化した支援団体はほとんどありません。『家のことをここまで支援してもらっているのに、ペットに関することまでは言いづらい』という飼い主さんの思いもあるようです」

「とはいえ、家族同然であるペットと一緒に過ごせないことや、混沌とした状況の中で十分にかまってあげられないことが積み重なって、大きなストレスを抱える飼い主さんが少なくないと感じています」

「私たちのような団体が直接伺って、ペットの話を聞くだけでも『ペットのことを聞いてくれて嬉しかった』『話せてよかった』とおっしゃっていただくことがあります。他団体さんとの連携も増えてきたので、『あそこのお宅にはペットがいたよ』と教えてもらい、伺うこともあります」

犬だけでも人だけでもない、
どちらも幸せになれる「共存」を

「犬たちは私たちにとって、かけがえのない最高のパートナーです」

「災害現場は危険もあって、過酷な現場が少なくありません。それでも普段通りに捜索活動をしてくれる姿を見ると、本当に感謝しかありません」と高木さん。

「犬にとっても、知らない環境で何かしら感じているはずなのに、仕事となればそれを感じさせず、期待に応えようとしてくれる。頼もしく活動する強さは、大きな励みになっています」

「犬はただかわいいだけの存在ではなく、人とコミュケーションを取り、信頼関係を築く生き物。今後、もっともっと社会の一員になっていくのではないかと思います」と赤木さん。

「犬は、こちらの愛情をフルパワーで返してくれる、すごい動物です」と辻本さん。

「災害の備えにもつながりますが、災害、病気、何が起きても、ペットを迎え入れた限りは、そのいのちを最期まで面倒を見る責任があるのだということを、今後も発信していきたい。飼い主さんの意識や備えが大切ですが、一方で社会として、災害があった際に飼い主さんとペットが安全に避難できるしくみがまだまだ整っていません。飼い主さんと行政、その両方にアプローチをかけながら、課題を改善していけたらと思っています」

活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、8/28〜9/3の1週間限定で日本レスキュー協会とコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円がチャリティーされ、災害救助犬やセラピードッグの育成・訓練、保護した犬たちのケアやトレーニングにかかる費用として活用されます。

1週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、肩を組む2頭の犬を描きました。

それぞれの犬が、それぞれの役割を果たしながら一生を豊かに全うし、人とともに生きていくという思いを込めたデザインです。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

・災害救助犬やセラピードッグを育成、「犬とともに、社会に貢献する」〜 NPO法人日本レスキュー協会

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は8,000万円を突破しました。

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