紛争や貧困、災害、難民キャンプといった困難な状況にある子どもたちに、絵本を届けてきた団体があります。「目の前にたとえつらい現実があっても、本の中では安心して子どもの世界に没頭し、願わくは、未来に夢を描いてほしい」。2021年に国軍によるクーデターが起きたミャンマーでも、絵本を届け続けています。(JAMMIN=山本めぐみ)

困難な状況にある子どもたちへ、
本を通じた教育支援を行う

絵本の中のかぶを、皆で抜く子どもたち。絵本は『おおきなかぶ』(福音館書店、A・トルストイ・再話/内田莉莎子・訳/佐藤忠良・絵)。写真:川畑嘉文

「シャンティ国際ボランティア会(SVA、以下『シャンティ』)」は、「共に生き、共に学ぶ」ことのできる平和な社会を目指し、1981年より、紛争や貧困、災害などによって困難な状況にある子どもたちに、本を通した学びと生きる力を届けてきました。

活動地はアジア7カ国8地域(ミャンマー、ミャンマー(ビルマ)難民キャンプ、タイ、カンボジア、ラオス、ネパール、アフガニスタン、日本)に及びます。

2014年より活動をスタートしたミャンマーでは、順調に活動してきた中で、2021年に軍によるクーデターが発生。危険な状況下にありながら、「目の前のできることを」と活動を継続してきました。

お話をお伺いした松本さん

「支援を止めてしまうと、クーデターには関係のないミャンマーの子どもたちの未来はどうなるのか。私たちには、まだできることがある。それが活動継続の決め手でした」と話すのは、ミャンマー事業を担当する松本侑子(まつもと・ゆうこ)さん(29)。

「絵本を届ける活動は、どの活動地でも、私たちが非常に大切にしてきたもの。40年以上に及ぶ活動の中で、国や時を超え、本の持つ力は変わらないことを確信してきた」と話します。

2021年に国軍によるクーデターが発生。
ミャンマーの現状

日本から、ミャンマーには毎年約3,000冊の絵本を届け、シャンティがこれまで支援した学校図書館へ配架されている。写真:川畑嘉文

1948年に植民地だったイギリスから独立後、軍と民主化を求める人々の間で衝突がたびたび起きていましたが、2016年からはアウンサンスーチー氏のもとで民主化が進んでいたミャンマー。

しかし2021年2月の国軍によるクーデターによって、アウンサンスーチー氏をはじめとする与党幹部が拘束され、再び軍事政権下になり、国民はさまざまな困難を強いられているといいます。

「現地では市民による抗議デモやストライキが続いており、2万人を超える市民が拘束され、4千人の犠牲者が出ています。国軍による空爆から逃れるため、住み慣れた地域を逃れてジャングルなどで暮らす国内の難民が159万人、国外に退去した難民が9万人いると言われています」

シャンティは緊急人道支援も行っている。写真は国内避難民に配布した米や豆

「戦闘が少ない地域でも市民の暮らしは苦しく、クーデターによる外資企業の撤退やウクライナ危機の影響もあって物価が高騰し、4人に1人が飢餓状態だと言われています。そのような中で子どもたちの状況はというと、今回のクーデターが起きてから、拘束された子どもの数は651人、犠牲になった子どもの数は446人と発表(※Assistance Association for Political Prisoners、2023年8月23日時点)されています」

「クーデター前よりコロナの影響で学校は休校していましたが、クーデターが起きたことで、休校期間は約2年に及びました。2022年6月以降、軍の働きかけもあって学校は少しずつ開校していますが、経済的に学校に行けなくなったり、学校には来ても授業に集中できない、学びへの意欲が持てない子が少なくないと聞いています」

「長期の休校によって読み書きに遅れが出ていますし、クーデターが起き、なぜ学ぶのか、楽しみや夢を持てない子どもが少なくないのです」

「子どもたちの未来のために、今、できることを」

移動図書館バイクで学校へ絵本を届けた時の様子。目を輝かせ、絵本の世界に没頭する子どもたち。「皆、食い入るように絵本の世界に没頭しています」。写真:川畑嘉文

ようやく通常の授業に戻ってきている中で、「学校の先生たちが期待しているのが絵本」と松本さん。イラストがたくさんあり、子どもたちの関心を惹きながら学習できるツールとして「授業でも使えないか」というリクエストが多くあるといいます。

「実はクーデター直前の2020年は、2014年からの私たちの地道な活動の甲斐もあってか、国の教育方針に学校図書館に関する記述が盛り込まれるのではないかという話が出ており、機運が高まっているタイミングでした。しかしクーデターが起き、それまでの7年間の活動がすべてゼロに戻ってしまったような喪失感は、正直団体の中でも大きかったです」

「現在の軍事政権が、この先どれくらい続くのかはわかりません。今回のクーデターを受け、撤退を決めたNGO団体は少なくありませんでした。シャンティとしても、現地での活動続行を決定するのは決して容易なことではありませんでした」

「クーデター以降、家計が苦しくなり、小学2年の時に学校をやめて、空き瓶やペットボトルを集める仕事をしている男の子です。学校に通うためのお金はおろか、毎日の食事もままならないと言っていました」

そんな中でなぜ、支援の継続を決めたのでしょうか。

「私たちが今、ここでミャンマーの支援をやめてしまったら、子どもたちはどうなってしまうのか。さらにロシア・ウクライナ危機が起きて、国際支援はほとんどそっちに流れてしまう状況です」

「クーデターには関係のないミャンマーの子どもたちの未来、それを担う教育支援を、本当に止めていいのか。私たちとして、ここでまだできることがあるのではないかというのが、今もミャンマーで活動を続ける理由です。草の根で図書館や読書の機会を広げ、一人でも多くの子どもたちに絵本を届けたい。そう思っています」

本や図書館という「選択肢」があることが大切

現地の言葉に翻訳したシールを貼った絵本。絵本は『ねずみくん おおきくなったら なにになる?』(ポプラ社/なかえよしを・作/上野紀子・絵)
 

日本語の絵本に、現地の言葉に翻訳したシールを貼って送るほか、あるいは現地の作家やイラストレーター、編集者とともに「児童図書出版委員会」を結成し、絵本の制作・出版も行ってきたシャンティ。

「日本の絵本ももちろん素晴らしいのですが、たとえばイラストに出てくる人の服装だったり食べ物だったり、絵本には、その国ならではの文化が出ますよね。現地の文化に合った、現地の子どもたちにより喜んでもらえるような絵本があるといいなと思っていて、クーデター前は年間3〜5タイトルを出版していました」

「活動はクーデター後も継続しており、メンバーが今、子どもたちにとってどのような絵本が必要かを考え、コロナ禍では手洗いの絵本だったり、民話だったり、そういったものを一から考えて作っています」「子どもならではの感受性や共感力、コミュニケーション能力を育むツールとして、絵本は素晴らしいものだと思います。子どもの時に絵本に触れていることが、その後の発達において、重要な感覚を養えると考えています」と松本さん。

これまでにシャンティがミャンマーで出版した絵本や紙芝居。26タイトルの絵本、5タイトルの紙芝居を出版した

「目に見えるものではないので、絵本が子どもたちにどれだけの効果があるということを学術的に示すことは難しいですし、すべての子どもが絵本を読みたいというわけではないかもしれません。それでも、絵本を読む・読まない、図書館を使う・使わないという『選択肢があるかどうか』が大事なのではないでしょうか」

「クーデターが起き、見たくもない暴力が横行している中で、現実としては子どもらしい経験や遊びが十分にできずにいる子どもたちが、せめて絵本の中で、想像の世界や楽しい世界に触れ、本来の子どもらしさを取り戻して、ほっと安心できる場所を作れたら。絵本から得た知識や刺激、そこにある夢や愛を糧に、希望を持ち、生きる力としていってほしいと願っています」

「図書館や絵本は、子どもたちを保護する役割も果たしている」

アフガニスタンの子どもたちにも、本を届けてきた。「混乱が続くアフガニスタンで、大人に混ざって働かざるを得ない子どもたちが子どもらしくある時間を取り戻してもらうために、図書館活動を行ってきました」

40年以上に渡って紛争地や難民キャンプ活動を続けてきた中で、「私たちのこの活動が『子どもたちを保護する』役割も果たしていることを実感しています」と松本さん。

「つらい現実があっても、図書館に来る時間は、誰にも奪われない安心安全な場所として、『自分は子どもだ』という感覚に戻ることができる。そのような空間があるということは、とても大切なことなのではないでしょうか」と話します。

「ある子は、『食べ物は食べるとすぐに消えてしまうけれど、絵本は何度も読み返せるから、食べ物ではなく、絵本がほしい』と言いました。読んで終わりではない、絵本が育むもの、守ってくれるもの、子どもたちに見せる世界というものは、とても大きいと思います」

「ミャンマーはまだ活動期間が浅いのですが、過去に活動していたタイの最貧困地区のスラム街では、シャンティの作った図書館に通っていたある一人の女の子が、家や外ではなかなか勉強できる環境になかったけれど、図書館があったことで、そこで勉強を続けることができ、結果として外交官になったという話を寄せてくれました」

「ミャンマー(ビルマ)難民キャンプで図書館に通っていたある男の子は、シャンティが出版する絵本のイラストに自分の絵が採用され、そのことがすごく嬉しくて、それをずっとモチベーションにがんばって、その後、アメリカに第三国定住後、アニメーションを専攻してプロのアーティストになり、『シャンティのおかげだよ』と連絡をくれました」

「日々たたかう彼らを、一人にしない」

絵本の読み聞かせのクライマックスで、笑顔が弾ける子どもたち。「先生が最初に読み聞かせをして、子どもたちに絵本の楽しさを知ってもらった上で自由読書の時間を設けると、子どもたちがより興味を持って絵本を手に取ってくれます」。写真:川畑嘉文

「今、ミャンマーへの世間の関心は薄れてきています。ぜひ関心を持ち続けてほしい」と松本さん。

「『今、自分たちは鎖国状態なんだ。海外の関心はすでになくて、自分たちだけでたたかう以外に道はないんだ』と、現地の人が言ったことがあります。私たちが一市民としてできることは、毎日を一生懸命たたかっている彼らを、一人にさせないことだと思うんです」

「一生懸命、大変な日々と向き合っている彼らが、そこと向き合い続けられるように、孤立を感じさせず、日本から関心があることを伝え続けていくこと。それが、おそらく改善に向かっていく一歩なのではないでしょうか。ミャンマーに思いを馳せ、関心を持ってもらえたら嬉しいです」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、9/4〜10の1週間限定でシャンティとコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円がシャンティへとチャリティーされ、ミャンマーの子どもたちに絵本と、絵本を安心して楽しめる空間を届けるために活用されます。

1週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、開かれた本の中に広がるキラキラした世界。どんな困難の中にあっても、子どもたちが絵本を開くたびに心の扉が開かれて、明るい夢と未来を描いてほしいという願いを込めました。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!
こちらもあわせてチェックしてくださいね。

・「本の力を、生きる力に」。軍事政権下にあるミャンマーの子どもたちに絵本と共に、希望を届ける〜公益社団法人シャンティ国際ボランティア会

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は8,000万円を突破しました。

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