篠山アークの広大な敷地には床暖房を完備した2棟の犬舎があり、現在32頭の犬たちが暮らしている。「まだまだ敷地は空いている。猫舎も建設したい」とオリバーさん

建設中の「篠山アーク」の別名は「安全・神聖な場所」を表す「サンクチュアリ」。「篠山アーク完成は、私の人生をかけたプロジェクト」と話すオリバーさんに、なぜこのシェルターの建設に至ったのかを尋ねました。

「アークで過ごす動物たちが年老いてからも、たとえここで一生を終えることになったとしても、安心し、ゆったりと落ち着いて過ごせる場所をつくりたいと思ったからです。

犬や猫にとって、ストレスがかからない環境というのは非常に大切です。そのことを考えると、彼らにとっては、『家庭』で飼い主からたくさん愛情をもらうのがいちばん。どれだけがんばっても、シェルターは家庭にかないません。家庭で得られる愛情に代わるものはないのです」

「だからペットを飼う人は、ちゃんと先々のことを考えてから受け入れる必要があります。今年は新型コロナウイルスの流行により、ヨーロッパやアメリカでは街がロックダウンし、それによってペットを飼いたいと思う人が増えたという話を聞きました。

しかしどうでしょうか。ロックダウンによってそれまでの生活様式が一変した一方で、もし再び通常の生活に戻った時、それまではステイホームでリモートワークしていた方たちが、また再び働きに出ることになりますよね」

2018年4月に譲渡した犬「ライアン」と里親さん家族。お二人はこの後しばらく日本を旅行した後、母国フランスへ、ライアンと共に帰って行った

「そうすると、家に残されたペットはどうでしょうか。それまで毎日ずっと一緒にいた大好きな飼い主と一緒にいられなくなることによる不安は相当なものです。そのストレスから、物を噛んだり吠えたり、いたずらが増えていくでしょう。そうしたら飼い主は、その仔を『もう飼えない』『要らない』と手放してしまうのです」

「ペットのいのちは、ロックダウン中の人の心を満たすためのものでも、クリスマスのギフトとして人の心を満たすためのものでもありません。ちゃんと将来のことを考え、責任を持って最期まで面倒を見てあげなければいけません」

日本ではまだまだ知られていない、動物への「虐待」

シェルターで亡くなるいのちもある。篠山アークで亡くなった「オツル」。オツルは2004年7月12日、当時協力関係にあった動物レスキューグループの依頼でアークが保護。亡くなる前に過ごしていた部屋には遺影が置かれ、花やおやつ、線香が添えられており、スタッフの皆さんの犬への深い愛情を感じた

アークは、オリバーさんの出身であるイギリスの最大の犬の保護団体「Dogs Trust」から認定を受けて支援を受けるなど、動物愛護の分野において世界水準での活動が一つの特徴です。

「動物福祉の大きな国際会議に毎回参加してきました」とオリバーさん。

「この会議には、50以上の国からものすごくたくさんの方が訪れて、シェルターのこと、動物の行動学や病気のことなど、世界中から集まる登壇者から最新の情報を得ることができます。同時に、各国で活動する人とコンタクトを取り、それぞれの国の動物福祉のレベルや状況について情報交換する良い機会になっています」

2015年にポルトガルで開催された国際会議(ICAWC)

では、世界のレベルから見た時、日本の動物福祉のレベルはどうなのでしょうか。

「低いと思いますね。それは動物を保護したり飼育する施設のことだけを言っているのではなくて、法律の問題もあります。たとえば、先ほどお話した島根の162頭の多頭飼育崩壊の件では、実は行政は7年前にこのお宅を訪問しているんです。その時は飼い主の方に断られてしまい、何の手を打つこともできないまま、ここまで大きな問題になってしまいました」

「以前、悪質な繁殖業者に対する告発が滋賀県でありました。とにかく自分たちの利益を上げるために、糞尿を垂れ流したまま掃除もしない狭いケージにずっと閉じ込めっ放し、散歩や適切な給餌など日常のごく一般的な世話もせず、病気になろうと飢えで亡くなろうとお構いなしという劣悪な環境でした。しかし、業者に命じられたのは、20万円の罰金だけでした」

「動物を守る法律があったとしても、そこで誰かが動かないと、彼らのいのちや権限は守られません。わかりやすい虐待は別として、日本ではまだまだ動物への虐待というものが獣医さんなど医療と関わる人たちにも知られていない現実があります。イギリスでは、飼っている動物の太り過ぎも虐待とみなされます。太りすぎると、後々に心臓病などの疾患にかかりやすくなるからです」

「家族に愛され、幸せそうにしている姿を見るのが本当に嬉しい」

2019年5月、篠山アークで開催された同窓会にて、参加した皆さんの集合写真。アークを卒業した動物たち、その里親さんご家族、スタッフの皆さんが笑顔で集う

これまでに6200頭を超える動物たちを譲渡してきたアーク。譲渡の際に大切にしているのは、「飼い主さんとの相性」だといいます。

「譲渡は本当に結婚と同じで、うまくマッチングするかどうか、飼い主を希望される方と面接しながら進めます。たとえば、お父さんとお母さん、お子さんの3人で『犬を引き取りたい』と来られることがあります。日中、お父さんとお母さんは仕事、子どもは学校で家にいない。では誰が犬のお世話をするのかと尋ねると『おばあちゃん』と。そうすると私がいちばん会いたいのは、そのおばあちゃんなんです。ご家庭によってそれぞれ雰囲気がありますから、その辺を見極めながら、動物の性質や性格とうまくマッチングすることが大切だと思っています」

「まずはここにいる動物たちが、そして譲渡先で彼らが幸せに生きられていること。それが何よりも大切です。毎年同窓会を開催してきましたが、その時に飼い主さんにたくさん愛情を注いでもらって幸せそうな仔たちの姿を見るのは、本当にすごく嬉しいですね」

母から教えられた「責任」

ARKを立ち上げる前、大阪・能勢の田んぼ道を馬で走るオリバーさん

25歳で英語教師として来日し、最初は一人で野良犬や猫の保護していたことから始まって、多い時は30頭と一緒に暮らしていたというオリバーさん。給料は、動物たちの飼育や医療費に消えたといいます。

1990年、50歳でアークを立ち上げ、1995年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災では被災して飼い主と離れ離れになった動物を多く受け入れました。「30年の中でも大きな出来事だった」と当時を振り返るオリバーさん。80歳になろうとしている今、活動を続けてこられたその「原動力」を尋ねました。

「私は幼い頃、動物を飼う『責任』を母から教えられました。3歳半で初めて馬に乗ってから、『自分の馬が欲しい』とずっと言っていたそうです。母親は『”責任”がわかるようになれば、馬を飼っても良い』と言ってくれて、7歳で初めてポニーを飼いました。

そこから、私のお小遣いはすべて馬の餌代になったし、学校から帰ってきて、どんなにお腹が減っていても友達と遊びたくても、まずはその仔に餌をあげることが優先になりました。今でも、自分よりも先にペットにご飯をあげる習慣は体に染みついています」

能勢の自宅にて、愛犬「バジャー」と「モモトゥ」と

「馬のお腹にガスが溜まって調子が悪かった時は、夜、ガスが抜けて元気になるまで一緒に何キロも歩きました。いろんなことがあったけれど、本当に良い勉強になりましたし、『責任とは何か』を、身をもって学ぶことができました。

そうやって学んできたことを、日本に来てからもずっと実践してきただけです。アークを始めた時はまさか30年もやるとは思っていなかったけれど、本当に年月が経つのは早いですね」

「動ける限りは、この活動を続けたいと思っています。『サンクチュアリ』と名付けた篠山アークも、まだ完成には至っていません。規模を大きくして、ここを通じて幸せになれるいのち、年老いても安心し、落ち着いて過ごすことができる場を増やしていきたいと思っています。また、思いを継ぐ若い人たちが育っていってくれたら嬉しいですね」

アークの活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、アークと1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

12/7〜12/13の1週間、JAMMINのホームページからアイテムをご購入いただくと、1アイテム購入につき700円がアークへとチャリティーされ、「篠山アーク」に猫舎を建設するための資金や、保護した動物たちの医療費として活用されます。

「JAMMIN×アーク」12/7~12/13の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はスウェット(カラー:ブラック、価格は700円のチャリティー・税込で7600円)。他にもTシャツやパーカー、トートバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、丹波篠山の豊かな自然をバックに、星空を見つめる犬猫の姿を描きました。空に描かれた星の数はちょうど30。アークの30年のあゆみを表現しています。動物のそばに停車している車は、オリバーさんが団体立ち上げから30年間乗り続けているランドクルーザー。保護した動物たちともに歩んできたやさしい視点を描きました。

チャリティーアイテムの販売期間は、12月7日~12月13日の1週間。JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

行き場のない動物を保護して30年。犬や猫が安心して過ごせるシェルターの完成を目指して〜NPO法人アニマルレフュージ関西

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は5,000万円を突破しました。

【JAMMIN】
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