ここ10数年でメジャーなペットとなったうさぎ。犬や猫に比べて一見飼いやすそうに見えますが実際はそうではなく、飼う際の知識が乏しいがゆえに「懐かない」「思ったのと違った」といった身勝手な理由から捨てられるうさぎが後を絶ちません。捨てうさぎの保護・譲渡の傍ら、適正飼育を発信する団体に話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

知られていない、ペットのうさぎに関する問題

保護された「ほっぺ」。「顔が腫れているにも関わらず、小学校の飼育小屋で治療してもらえないまま放置されていました。歯根膿瘍が悪化し、治療が困難な状況でした」

お話を聞いたのは、うさぎの保護・啓発活動を行う一般社団法人「LIBERTY(リバティ)」代表の藤田敦子(ふじた・あつこ)さん(54)と、一般社団法人「WILL&LOUIS(ウィルアンドルイ)」代表の熊谷彩(くまがや・あや)さん(40)。「うさぎの生態や正しい飼い方を知った上で迎え入れ、最期まで面倒を見てほしい」と、協働で「WELFARE OF RABBIT(ウェルフェア・オブ・ラビット)」というプロジェクトを立ち上げました。

「犬や猫に関しては正しい知識や飼い方も少しずつ広まり、また殺処分の問題も大きく取り上げられるようになって、法律の改定なども少しずつですが進んでいます。しかしうさぎについては、同じ命でありながらなかなか正しい知識が広まっておらず、『飼いやすそう』『かわいい』といったイメージだけで迎え入れ、『やっぱり飼えない』『懐かない』といった理由で捨てられたり飼育放棄されたりするケースが後を絶ちません」と二人。

ケージごと捨てられていた「メイ」。「糞尿まみれでケージから出したことがないかのような状態だったのではないかと推測します」

メジャーなペットになりつつある一方で、生態を知らないがゆえの不適切な飼育も深刻な問題だと指摘します。

「子どもの情操教育の一環として、うさぎ等の動物飼育をしている幼稚園や小学校が皆さんのお近くにもあるのではないかと思いますが、もともとうさぎは気温や環境の変化に敏感な生き物です」

「年中吹き曝しの小屋の中で、土日はほったらかし、水も何日かに一度しかかえてくれないような環境下で、果たして元気に健康に暮らすことができるでしょうか。体調不良が見過ごされ、病気や骨折が放置されて亡くなってしまうことも少なくありません」

「またこのような飼い方自体、『うさぎは放ったらかしていても簡単に飼える』という誤った理解や認識につながりかねません。私たちは捨てられて行き場を失ったうさぎの保護・譲渡の一方で、一人でも多くの方にうさぎの生態や適正な飼育を知ってもらうための啓発活動に力を入れています」

「知らなかった」「興味本位で…」深刻な多頭飼育崩壊

多頭飼育崩壊の現場。「2020年8月、ボランティアさんと共に、オスメスの仕分けと爪切り、簡単な健康チェックを行っている様子です。空調のない小屋で、熱中症に気をつけながら作業しました」

なかでも多頭飼育崩壊は、特に深刻な問題だと二人。

「うさぎは繁殖力が強い動物です。メスは生後3ヶ月くらいから妊娠が可能となり、種類にもよりますが1回に7〜8匹の子どもを産むこともあります。体の小さなうさぎでも1回に2〜3匹産みます。交尾はものの10数秒で、1回の交尾でほぼ確実に妊娠します」

「妊娠期間はたった1ヶ月、生理学的には出産したその日にまた妊娠できる状態になり、1年間に8回妊娠できるといわれています。オスとメスを同じ小屋に入れていて、半年や1年であっという間に数が増えて保護されるというケースが過去に何度もありました。最近は個人宅での多頭飼育崩壊の保護も増えていて、58匹を保護したこともありました。他では100匹以上を保護したという話も聞きます」

保護したうさぎが出産した赤ちゃんうさぎ。「母うさぎが仔うさぎのために授乳するのは1日1〜2回といわれています。その貴重な授乳機会に自らの力で有りつけなければ、育つことができません」

「繁殖能力を知らず、オスとメスのペアで購入して『いつの間にか増えた』とか、『赤ちゃんが見たかったから』と興味本位で繁殖してしまったという話も聞きます。そんな些細なところから、あっという間に一人では飼いきれないような数になってしまうんです」

「うさぎは行政側の施設にもなかなか受け入れてもらえません。犬や猫に関しては細かいルールがあっても、うさぎには残念ながら、そもそもまだ『捨てられる』という前提がありません。捨てうさぎや保護うさぎがいるという実態が、まず知られていないのです」

「『うちで収容しても何もできないし、そもそも収容できる場所もノウハウもありません』といわれることがほとんどです。都道府県によっては引き受けて里親募集をされているところもありますが、本当にごくわずかです」

わからない実態

動物愛護センターより保護した「ポポ」。「血液検査で腎臓の値が悪く、悪化防止のため獣医師に指導いただいて週に1度、施設で点滴を行っています」

犬猫に関しては、毎年飼育頭数などが発表されているものの、うさぎに関してはこういったデータもなく、「どのぐらいの数が販売されたのか、飼育されているのかといった実態は正直わかりません」と藤田さん。

「繁殖や販売を行う場合、『第一種動物取扱業』に基づいて犬や猫については個体ごとに帳簿への記載が求められますが、うさぎを含む小動物は個体ごとではなく、まとめて品種ごとの記載で良いことになっています。いずれにしても正確な数が上がってこないのが現状です」

「行政による保護の数や殺処分数については環境省が毎年数字を出していますが、犬猫とは比較にならないほど少ない数字です。ただ、ここに掲載されている数=捨てうさぎの数ではないと考えていて、たとえば野山や河川敷に捨てられて、そのまま他の動物に捕食されたり死んだりしてしまうケースも少なからずあります」

うさぎは自分の弱っているところを隠す生き物、体調変化には細心の注意が必要

WILL&LOUISの施設には、現在39匹の保護されたうさぎがいます(2021年12月時点)。壁には一匹ずつの写真と自己紹介が。定期的に譲渡会を開催し、新しい里親さんを探しています

うさぎのことを正しく知らないまま飼ってしまうことが、不幸なうさぎを生む大きな原因。「あまり知られていないが、うさぎは飼うのが難しい生き物です」と熊谷さんは話します。

「うさぎは捕食される生き物なので、相手に察知されないように自分の様子を隠します。自然界では自分の弱っているところを見せてしまうと食べられてしまうので、死ぬ寸前までそれを隠すのです。体調が悪くなっても隠すので、飼い主さんが『ご飯食べないなあ』と思っているうちに急に悪化して死んでしまうということも少なくありません」

「『エサを食べないけど、明日病院へ連れて行こう』という、いわゆる『様子見』ができないのです」と藤田さん。

「何か変だなと思った時には、取り越し苦労でも良いからすぐ動物病院にかけつけられる体制が必要です。うさぎをちゃんと診察してもらえる動物病院については、私たちも譲渡の際に里親さんにもしっかり確認させていただいている事項です」

2019年にLIBERTYの事務局で開催した、専門家を招いてのケア講習会。「皆さん熱心に、爪切りやブラッシングの方法を学んでいました」

では、うさぎはどういった理由で体調不良を起こすのでしょうか。

「持病などがなくても、たとえば毛玉を食べてしまった時に、猫のように吐き出すことができないので毛玉が腸に詰まり、他の臓器や血流に影響を与えたりということがあります」

「また、季節の変わり目は日中と夜との温度差が自律神経に大きく影響し、ストレスを感じやすい季節でもあります。温度差が5度以上になると寒暖差疲労が起きるとされていて、日中と夜間や日によって大きく気温が変化する時は、室内温度の調整に気をつけてあげなければいけません」

「最期まで飼うためには覚悟と、常に学び続ける姿勢が必要」と二人は話します。

うさぎは本当に幸せ?うさぎがツールやアクセサリーと化していないか

とある山で30匹ほど捨てられていたところを運よく保護されたうさぎ。「現在、はるくんという可愛い名前をつけていただき、関東方面の里親さんの元で元気に暮らしています」

うさぎの場合、主な販売元がペットショップではなく「うさぎ専門店」であるということも、犬や猫の業界とは大きく異なる点だと二人は話します。

「犬や猫はペットショップで購入される方が多いですが、うさぎについては専門店さんの影響力が非常に大きく、飼育方法などについてもそれぞれの専門店さんの発信が大きな力を持っています」

「うさぎを散歩させる『うさんぽ』という言葉が流行りました。うさんぽ自体は否定しませんが、どのうさぎもうさんぽが好きだったりできたりするわけではありません。それを知らずに、最近はSNSで何でも発信できるしキャッチできる時代ですから、うさんぽの投稿を見て『自分もうさんぽがしたい』とうさぎを飼ってしまうと、うさぎが散歩を嫌がった時に『思っていたのと違う』ということになり、それはそれで『もう飼わない』の要因になりかねないのです」

「うさぎが生き物やいのちとしてではなく、飼い主のアクセサリー感覚になっているようなところがあり、その点は非常に危惧しています。犬は散歩が必要ですが、猫は飼い主との散歩には向きませんよね。多くの方がそのように認識しているし、飼っていてあえてそれをする人もあまりいないと思います。ではなぜうさぎは、それができないのか。まだまだ発展途上にあるのだなと感じています」

新たな飼い主と出会い、幸せな第二の暮らしを

新たな里親が見つかる前に亡くなってしまう命もある。「高齢で亡くなる仔もいれば、病気や手術で亡くなる仔、生まれて間も無く亡くなる仔などいろいろです」。施設の一角には、亡くなった一匹一匹の遺骨が並んでいました

これまでに保護したうさぎの中で、印象に残っている仔をお二人に尋ねました。

「10歳というかなりの高齢で保護した『シェリ』でしょうか。真夏の炎天下に屋外でケージごと放置されているということで、基本的に飼えなくなったうさぎの引き取りはしないのですが、私の独断で保護した仔でした」と熊谷さん。

「保護した時、シェリはガリガリで毛玉だらけ、水すら最後に与えてもらったのはいつだろうかという状態でした。覇気がなく、それが栄養失調のせいなのか、10年もの間ケージから出されることもなく愛されなかった生活のせいなのかわかりませんでしたが、とにかく生きてもらいたいと少しずつごはんをあげ、ケージからも出して遊ばせようと思いました」

今は自由に暮らしているシェリ。「ちょっと遅い青春を楽しむ毎日のようです」

「何度も病院に通って治療を受けつつ、他のうさぎたちがすごく刺激になったようで、次第に回復して遊んだり野菜を食べたりできるようになりました。そのうちシェリは、人について回る、とても人懐こいうさぎさんになったんです。その後良い里親さんに巡り合い、12歳になった今も幸せに暮らしています」

「一匹挙げるとすると、動物愛護センターから保護をした『はる』でしょうか」と藤田さん。

「はるは長毛でまめなブラッシングが必要な上、噛み合わせが悪く、毎月病院へ行って歯をカットしなければなりませんでした。さらに開張肢といって足が外側に開く症状があり、手間がかかるうさぎさんでした。保護したもののお世話には手間もお金もかかり、新しい引き取り手を見つけることは難しいかもしれないと思っていました」

動物愛護センターより保護した当時のはる。「ノミだらけで、毛並みや皮膚の状態も悪く、軽い開帳肢と前歯が伸びてエサが食べられない状態でした」

「しかし、そんなはるを引き取りたいと言ってくださる方が現れて、毎月の歯のカットのためにうさぎを専門で診られる病院に行かなければならないことについても『歯のカットの度に、先生に健康チェックもしていただけるんですね』と前向きに言ってくださって。良い方に出会えたんだなととても嬉しかったです。今は先住のうさぎさんと一緒に、毛繕いしたり遊んだりしながら楽しく暮らしているようです」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「WELFARE OF RABBIT」と12/27(月)~1/9(日)の2週間にわたりキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、うさぎの適正飼育を広めるための学習会やセミナー開催のための資金として活用されます。

「JAMMIN×WELFARE OF RABBIT」12/27~1/9の2週間限定販売のコラボアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもパーカー、Tシャツ、エプロン、バッグなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、躍動感あるうさぎの姿を描きました。うさぎのいのちの尊さと、そのいのちを豊かに全うしてほしいという願いが込められています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

「飼いやすそう」…イメージとのギャップから捨てられるうさぎたち。捨てうさぎを保護・譲渡しながら、適正飼育に関する情報を発信〜WELFARE OF RABBITプロジェクト

山本めぐみ:JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は380を超え、チャリティー総額は6,500万円を突破しました。

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