それはこの熊送りの儀式イオマンテをやらなきゃダメだ、これがないとアイヌじゃない!と商工会でデボが議論することとも同様だ。その議論ではそんなことは動物愛護的に世間がもう許しちゃくれねぇよと町仲間は言う。
しかし、イオマンテは決行されるわけだが、この映画はフィクションであって、現実世界では30年以上もう行われていないという。
この映画は北海道出身の福永監督自身が自分のルーツをある種の再現により体験する旅と言えるだろう。
おそらく映画を作るまでにたくさんヒアリングして「アイヌの伝統は引き継ぎきれていない」ということがわかったのだろう。そうでないと当事者である演者たちがこの脚本を許すはずがない。
いつかアイヌ語を話したり、読んだりできる人がいなくなる。
いつかアイヌ固有の儀式の存在もやり方も知ってる人がいなくなる。
どんどん和人(アイヌ以外の日本人)との混血が進む中、アイヌのアイデンティティは消えてしまうのか?
アイヌというと「差別」の話が出てくる。
私の知識と経験と感覚からすると全然わからないが、根強くあるらしい。
ネットでそれについて読み漁ったがなかなか何故差別されているのか、と言う理由がいまいちわからなかったが、江戸時代あたりの一揆で和人との争いからお互いの嫌悪が始まったのか?とか思ったりもしたが、まだまだ理解に及ばず。
でも、この映画を通じて、アイヌ、先住民族、アイデンティティのルーツ、差別などの疑問や興味を持ち学べたことは感謝している。
フィクションからここまで現実世界の社会問題まで想いを馳せ、背景を調べ、自分の知識や好奇心を掻き立ててくれる映画はそうそう無い。
2020年は、「Black Lives Matter」というワードがSNSを飛び交った黒人差別の話題から、中国のウイグル人や香港に対する人権侵害についてなど、「人権」にまつわる話が多く出てきている年だと思うが、アイヌという先住民族と和人、についての話もここに入ってくるだろう。
こういう側面から人の尊厳や、自分のアイデンティティ、存在について、日本人について、公平や平等について、差別について、など考えを広げていくことは、今後の多様性が求められる世界をどう生きていくのか、という命題へ自分なりの答えを出していくヒントになると思う。
何よりこの映画は美しい。
美しい景色、静かな時間。
レビュー冒頭にカントの眼差しが印象的だと書いたが、この映画ではなんと、首を狩られ供えられた熊の視点からの描写があったりもする。
そしてその熊の瞳もまた美しい。その瞳、眼差しはカントのそれと重なって見えた。
熊の「チビ」とカントの眼差しは世界をどう見ていたのか。その純粋さがこの映画のカメラが捉えた美しさとリンクして感じたのは私だけだろうか。
石田吉信:
株式会社Lond代表取締役。美容師として都内3店舗を経て、28歳の時に異例の「専門学校のクラスメイト6人」で起業。現在銀座を中心に国内外、計22のサロンを運営中。1号店のLondがHotpepper beauty awardで4年連続売り上げ全国1位を獲得。「従業員第一主義」「従業員の物心両面の幸福の追求」を理念に、70%以上という言われる高離職率の美容室業界で低離職率(7年目で160人中5人離職)を実現。また美容業界では未だほぼ皆無であるCSR、サステナビリティに向き合い、実践の傍ら普及にも努めている。instgram