近年注目が集まるAYA世代(15歳〜39歳の若年成人)のがん。年間2万人余りが発症し、なかでも20歳以後のがん症例の約8割は女性で、年齢に従い増加する傾向にあります。思春期を経て恋愛や結婚、仕事や子育てをしながらの闘病には課題も多くあり、孤独や誰にも言えない悩みを抱える女性も少なくありません。闘病を終えた女性から受け取った医療用ウィッグを、今まさに闘病する女性へ、想いとともに届けるNPOがあります。(JAMMIN=山本 めぐみ)
治療を終えた女性から提供を受けたウィッグを
闘病中の女性にレンタル
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「ウィッグを通じてがんと闘う勇気をつなぎ、笑顔を届けています」と話すのは、代表理事の上田(うえだ)あい子さん(45)。全国各地からウィッグの寄付があり、福岡市内にあるレンタルサロンには3000を超える在庫があります。
「サロンにはベビーカーを押しながら乳児を連れてくるお母さんや、小学生ぐらいのお子さんと一緒にいらっしゃるお母さんもいます。しかし医療用のウィッグは高いものだと40〜50万円もする非常に高額なもの。若い世代のがんの発見率が高まり注目が集まっていますが、初めての闘病で先が見えない不安の中、高額な医療用ウィッグを購入することは容易ではありません」
「子育て中のお母さんだとなおさら、『治療にもお金がかかってしまうのだから、子どもの教育にお金を使いたい。私が我慢をすればいい』遠慮されることもこれまで多かったと思います。でも、がんになったからといって我慢してほしくない。我慢せずにおしゃれを楽しんでほしいし、その余裕を持ってほしい。医療用ウィッグのレンタルを始めたのには、そんな思いがありました」
ウィッグリング・ジャパンでは、年間1万円(入会金3,000円、カウンセリング料2,000円、レンタル料5,000円、いずれも税別)で医療用ウィッグを貸し出しています。福岡市内のサロンに足を運ぶか、遠方の場合は電話やオンラインでもカウンセリングを受け付けています。
「一言で短い、長いといってもいろいろで、色やスタイルもさまざま」と話すのは、事務局の村岡美佳子(むらおか・みかこ)さん(46)。
「細かくご希望をお伺いしながら私の方でいくつか厳選した上で郵送し、ご自宅で試着していただいて、良いと思ったものをレンタルして残りのものは返送していただくというかたちをとっています。サロンの近くにお住まいでなくても、郵送に必要な送料は最大2000円。全国どこからでも受け付けています」
「あなたは一人じゃない」。
ウィッグを通じて「希望の輪」を広げたい
団体が所有する医療用ウィッグは、闘病を終えた女性たちから提供されたもの。「そこが私たちの活動の最大の特徴」と上田さん。全国から届くウィッグには、手紙が同梱されていることも多いといいます。
「ご本人から『闘病は大変だったけど、このウィッグに助けられた。同じような思いをしている人に使ってほしい』といった声や、ご遺族の方から『このウィッグのおかげで彼女は輝いていた。同じように誰かが輝く役に立てるのなら、きっと彼女も喜ぶはず。彼女はそういう人だったから、寄付を決めた』と提供していただくこともあります」
「ウィッグは、同じような思いをしながら今まさに闘病している人たちに向けて、先輩たちからのエール。一つひとつのウィッグにはストーリーがあり、持ち主の方からすると、共に闘病生活を乗り越えた思い入れのあるもの。だからこそ、他の誰かの手元に届いた時に『一人じゃないよ』という思いも一緒に届けられるのではないかと思っています」
「人生には予期しないことが起こり得ます。自分が励ます側になることもあれば、励まされる側になることもある。ウィッグレンタルを通じて、社会の『希望の輪』を回していきたい」
ウィッグは「おまもり」
ウィッグは外見だけなく、心のケアにもつながると事務局の村岡さん。
「あるお客様が、『ウィッグはおまもりみたいだね』とおっしゃったことがありました。お客様がいつもウィッグを着用しているのかというとそういうわけでもなくて、意外と普段は帽子だけで過ごされていたりするようです。でも、自然に見える医療用ウィッグがあれば、何かあって外出するとなった時、周りの視線を気にせずに済みます」
「抗がん剤治療によって髪の毛が抜け落ちたとしても、『いつでも外出できる』と思えるだけで、勇気と力になります。だからウィッグは『おまもり』。ただ、期間限定で使用するおまもりにしては一般の医療用ウィッグの値段が高すぎるということが課題なのではないでしょうか」
最近は安く買えるファッションウィッグもたくさんありますが、医療用ウィッグと比較すると安価なものはずっしりと重たく、毛質も明らかに違っていて、不自然に見えてしまうといいます。「脱毛した方が着用すると頭皮に当たる部分が痛かったり、髪の毛も肌と同じように年をとっていきますが、顔の色や皮膚の質感からウィッグだけが浮いてしまい不自然な印象になったりといったことがある」と村岡さん。
「抗がん剤治療は肌の色を黒くする副作用もあり、できるだけ顔や肌馴染みの良いウィッグを選ぶとなった時、ファッションウィッグの中からナチュラルに見えるものを見つけるのは難しいのかもしれません。一方で医療用ウィッグは、毛質や毛流れ、色もとても自然です。黒やブラウン、白髪が混じったもの、色味がミックスされたものなどさまざまなタイプがあり、より自分に合った自然なものを選びやすく、肌触りも良い。TPOや季節、年齢や行動パターンによって、お好きなものを選んでいただけたら」
「一人でも多くの女性に活動を知って欲しい」
近年、がんに必要な治療費も徐々に高額になっており、高価な医療用ウィッグを買うことは容易ではありません。「家計のことを考えると『私が我慢すればいいだけ』と耐えてきた女性が多かった」と上田さんは指摘します。
「でも、髪を巻いたりヘアアレンジをして気持ちが上がったり、美容室で髪型を変えて気分が一新されたりという経験が、皆さんにもきっとあるのではないでしょうか。髪の毛は女性にとって、美を象徴するもの。がんであっても、高額なウィッグを購入しなくても、女性としておしゃれを楽しんでほしいし、自信を失わなくてもいいんだと思います」
しかし、全国各地からウィッグの寄付は多くある一方で、団体として知名度が低く、レンタルする女性はまだまだ少ないと二人は話します。
「ご寄付してくださる方が10だとしたら、レンタルしてくださる方はそのうちの1~2ほど。たまたまパンフレットやホームページを見つけたり、患者さんや現場の看護師さんの口コミなど知ってくださったりする方が多いです。福岡県内の病院などに細々とパンフレットを置かせていただいていますが、なかなか大手の医療用ウィッグの会社の広報力にはかなわず、まだまだ活動が知られていないと感じます」
「今後、より多くの方たちに知っていただけるようにアプローチしていきたいと思っています。とにかく受け皿を広げたいと思っていて、美容師さんなど専門職の方たちとの勉強会なども実施しています。近所の美容院でもいいし、薬局でもいいし、身近な場所で外見ケアの相談が気軽にできれば、患者さんの孤立を防ぐことができるのではないかと思っています」
闘病中の女性へ、ウィッグと共に勇気を届ける活動を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「ウィッグリング・ジャパン」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×ウィッグリング・ジャパン」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、全国に約1000ヵ所以上あるがん診療連携拠点病院やがん相談支援センターにパンフレットを届けるための資金(制作費・印刷費・送料)として使われます。
「闘病中で髪が抜けて悩んでいる方、ウィッグが欲しいけれど高くて購入を思いとどまっている方や闘病の悩みや孤独を抱えている方に活動を知ってもらい、ウィッグを届けたいと思っています。ぜひ応援いただけたら幸いです」(上田さん・村岡さん)
JAMMINがデザインしたコラボアイテムには、”Sharing is caring(シェアすることは、ケアすること)“というメッセージと共に、生き生きと咲き誇る様々な花が描きました。いつどんな時も、たとえしんどくつらい時であっても、つながり合うことで女性は大きく輝く可能性を秘めているし、すでに輝いているんだという思いを込めました。
チャリティーアイテムの販売期間は、7月13日~7月19日の1週間。JAMMINホームページ(https://jammin.co.jp)から購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・「あなたはひとりじゃない」。がん治療を終えた女性から、闘病する女性へ。「医療用ウィッグ」を通じて想いをつなぐ〜NPO法人ウィッグリング・ジャパン
山本 めぐみ(JAMMIN): JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2019年11月に創業7年目を迎え、コラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は4,500万円を突破しました!