昨年、組織として100周年を迎えた「ボーイスカウト日本連盟」。野生活動をベースした個性教育で、子どもたち一人ひとりが興味や自分の特性を見つけ、その後の人生をより豊かに歩むための経験を積み重ねることを大切にしているといいます。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「草の根で活動し、地球規模で考える」個性教育

2018年に石川県で開催された「第18回日本スカウトジャンボリー」の様子。全国のスカウトが集まる日本スカウトジャンボリー。全国から1万5千人ほどが集まり、一週間程度のキャンプ生活を過ごしながらさまざまなプログラムを体験した

「ボーイスカウト運動」はイギリスで1907年にスタートし、日本には翌年の1908年に伝わりました。その後、1922年に全国統一団体である「少年団日本連盟」が創立され、2022年に100周年を迎えました。

「ボーイスカウトというと、集合的な組織や訓練を思い浮かべる方もいるかもしれませんが、個性教育が主なんです」と話すのは、ボーイスカウト日本連盟理事で、ファンドレイジング担当の井上義雄(いのうえ・よしお)さん(61)。

「野外活動をベースにした教育を主に、一人ひとりが自分自身で人生を切り拓いていくための自発的な体験と、仲間との関係性を深めるプログラムを実施しています。活動のなかで、まずは本人が興味や自分の特性を見つけて、それを、その後の幸福な人生につなげる『強み』にまで伸ばしていく。そんな個性教育を大切にしています」

お話をお伺いした井上さん

世界共通のビジョン「Creating a Better World(より良い世界をつくる)」のもと、現在、世界173の国と地域で、5,700万人以上が活動しているボーイスカウト。「より良い社会人として、自分の得意としているものを誰かの役にたて、貢献すること。その積み重ねが、社会や世界がより良くなることにつながると考えています」と井上さんは話します。

「日々の活動では『班』や『組』という小さなグループの中で、まずは自分の置かれている状況や立場で、得意なことや興味のあることを活かして『自分の持っているものが、周りの人に役に立つ』という練習や体験を積み重ねていきます。そこで得た技術や自信が、やがて世界へとつながっていくのです」

「ボーイスカウトの創始者であるロバート・ベーデン-パウエル卿は、『この活動がつながっていけば、戦争はなくなるのではないか』と、このことをご自身の夢として掲げていました。100年以上たった現在でも、残念ながら未だ戦争は終わっていません。それは果たして創始者の見果てぬ夢でしょうか」

「スカウト活動を通じて、社会で起きていることを身近に自分ごととして捉える子どもたちが増えていく。それはやがて、世界平和につながっていくと信じています。まさに草の根で活動し、地球規模で考えることを実践しているのがボーイスカウトなのです」

1995年には、性別問わず入団可に

石川県で開催された国内キャンプ大会のワンシーン。「国際的なメンバーで違いを認め合い、その上で協力して生活しています」

日本国内では、各都道府県に都道府県連盟があり、それぞれの地域で「団」として活動しています。最盛期の1983年には33万人ほどのメンバーがいましたが、少子化などの影響もあり、現在は約8万人のメンバーが活動しているといいます。

日本のボーイスカウトでは1995年から、すべての部門で、性別を問わず入団が可能になっています。

「日本には、私たちと姉妹関係の組織である『公益社団法人ガールスカウト日本連盟』もありますが、地域によって、ボーイスカウトはあってもガールスカウトの団がなかったり、あるいはきょうだいで同じ団で活動したいという声があって、そういったニーズにもきちんと応えていくために、性別問わずというかたちをとるようになりました」

「個性の違いが、互いを刺激し合う」

ボーイスカウトの日々の活動の様子。自然を観察し、スケッチする子どもたち。「観察力や想像力を養っています」

「大切にしている本質的な部分は守りながら、時代に合わせて変化していく部分もあります」と井上さん。「とはいえ、どれだけ時代がかわろうと、子どもが本来持っている好奇心や興味、それに対して『やってみよう』という、キラキラしたあふれるエネルギーは変わらない」と話します。

ボーイスカウトは、子どもの自発性を重んじながら、仲間との関係性を深め、一人ひとりの個性を伸ばしていく環境を大切にしているといいます。

2023年夏に韓国で開かれた、世界中のスカウトが集まる「世界スカウトジャンボリー」の様子。写真は自国の衣装を身に着けた子どもたち

「揃ってユニフォームを着ているので、『皆に同じものを押し着せている』という印象を抱かれがちなのですが、これには意図があって、ボーイスカウトがスタートしたイギリスで、『裕福な家庭の子も貧しい家庭の子も、家庭環境や背景に関係なく、対等に班の一員となって、個々が持っている特徴を伸ばし合おう』という思いがあって導入されたものです」

「一人だと、自分の得意なことや良い部分ってなかなか見えないですよね。でも、周りに仲間がいて、一緒に活動していると『自分は周りの人よりこれが得意なのかも』『これが好きなのかも』と、自分のこともよく見えてくる。それぞれの個性の違いが、互いを刺激し合うんです」

「そなえよつねに」。
「攻めの備え」で社会に貢献する

長い棒と毛布を使い、簡易の担架を作り、けが人を搬送する練習。「実際の場面を想定して技能を磨くことで、突然の災害の時にも落ち着いて対処できるようになるのです」

では、ふだんの活動の内容はどのようなものなのでしょうか。

「全国各地のそれぞれの団が、意図を持って年間プログラムを組み、近所の公園や町の公民館などで活動しています。小学校高学年になってくると、プログラムの計画にも子どもたちが参画してきますし、中学生や高校生になってくると、ほとんど自分たちで決めて、大人はサポート役に徹するようなかたちです」

「自分たちで立てた計画をやりきるには、当然、事前の入念な準備が必要。そこで普段の活動では、さまざまな練習を積み重ねています」

スカウトと指導者のモットーとしてある「そなえよつねに(Be prepared)」という言葉。「絵私たちはこの言葉を、守りではなく『攻め』の備えの姿勢として捉えています」と井上さん。

「何事もやり通せるように、平時より心や技、体を磨いて、常に準備しておく。そうすることで、たとえばキャンプの時、厳しい自然環境の中でも楽しめる。それが『そなえよつねに』です」

「いろんなことにあらかじめアプローチして、『さあやるぞ』と準備をしておくこと。それはその人の人生を豊かにするだけでなく、社会に対し、『自分はいつでも、この分野で社会に貢献できますよ』という意思を常に表明し、役立てていくものにもつながります」

「英語の”Be Prepared”の頭文字”B.P”は、ボーイスカウト創始者のベーデン-パウエル卿の頭文字”B.P”と同じで、愛称でもありました。世界中のボーイスカウトで親しまれている言葉です」

子どもの興味とやる気を伸ばす「バッジ」

カメラ・写真に関する課目に挑戦するスカウトたち。「スマホで気軽に画像が撮れる今の時代に、あまり見慣れないフィルムカメラの仕組みに子どもたちも興味津々です」

ボーイスカウトには、それぞれの年代で、知ってもらいたい、身に着けてもらいたい共通的な事項について「級」というかたちで表した「進級課目」と、自らの興味に応じて取り組む「選択課目」が設けられています。知識を身につけると、隊長や「技能章考査員」と呼ばれるそれぞれの専門性を持った審査員から認定を受けることができ、その証としてバッジ(記章)が渡されます。

「子どもが興味を持つと、大人顔負けの知識を発揮することがあります。バッジは累計で130ぐらいあるのですが、子どもたちの興味のすべてを、組織の中だけでカバーしきれるとは思っていません。興味に応え、可能性をもっと広げていくために、地域の専門性を持った方にも協力をお願いしています」と井上さん。

「たとえば『自転車のことを詳しく学びたい』という子がいたら、地域の自転車屋さんに連絡を取って、ほんまもんの、生きた技術を見せてもらう。バッジ獲得のために努力するということも一つそうですが、地域の、専門性を持つ大人と現場を共にし、会話をし、認めてもらいながら成長していくというのは、子どもにとってすばらしい体験だと思います」

ボーイスカウトの「地域とのつながり」が、再注目されている

街頭で赤い羽根共同募金を呼びかけるスカウトの皆さん。「募金を呼びかける側だけでなく、募金をしてくださった方も笑顔であることが印象的です」

近年、ボーイスカウトの活動が「地域のつなぎなおし」の役割を担っていると、再び注目されているといいます。

「以前からそれぞれの団が、地域のさまざまな行事に積極的に参加してきました。地域の関係性が薄れ、核家族化が進む昨今において、ボーイスカウトの活動は、今後ますます必要になっていくのではないかと思います」

「昨今、子どもの貧困や体験格差が問題になっています。経済的に困窮している家庭のお子さんは学校以外の体験が少なく、またそれが世代を越えて連鎖していくということも指摘されていますが、ボーイスカウトの仲間になってもらえたら、地域とつながりができ、さまざまな野外活動を体験してもらうことができます」

「世界スカウトジャンボリー」にて、各国の国旗が立ち並ぶキャンプサイトの様子。「150か国以上の人が集まるこの大会は、まさに世界を体感することができます。言葉や文化は違っても、同じボーイスカウトというだけですぐに距離が縮まります」

「ほかの塾やスポーツの団体と異なり、指導する側の大人たちはボランティアで、活動費は毎月数千円程度と高くありません。ただ、夏のキャンプなどに向けての交通費や資材費などは毎月積み立てしていますし、ユニフォームや水筒などの用品を家庭で用意してもらう必要があります」

ボーイスカウト日本連盟では2015年から、経済的に困窮した家庭の子どもにも体験活動の機会を届けたいと、ボーイスカウト参加を助成する「ともに進もう(ひとり親家庭等応援)助成プログラム」という基金をスタートしました。

「実は私も、母子家庭で育ちました。父親がいない分、『我が子にアクティブな体験をさせたい』と母が入れてくれたのだと思います。家庭の貧困状態は厳しいものがありましたが、おかげできょうだいのような仲間がたくさんできて、かけがえのない経験をたくさんさせてもらいました。まさに、人生で大切なことは、すべてボーイスカウトで学びました」

「ボーイスカウトの体験は、子どもの体験格差を埋め、また自己肯定感を高めることにもつながります。これは私たちが、社会に最も貢献できることではないかと思います。活動に参加することで親御さん同士も顔見知りになって、地域の中にゆるいつながりが生まれていきます」

「社会貢献を表明し、より豊かに生きる人を増やしたい」

スカウトに向けて語る元宇宙飛行士の野口聡一さん。「野口さんは幼少期からボーイスカウト活動を続け、スカウトアンバサダーに就任いただいています。宇宙飛行士になれたひとつは、スカウト活動をずっと続けていたことが評価されて、とのこと」

「先輩から学んだこと、失敗も含めボーイスカウトで得た体験が、私自身の今の性格や生き方の質につながっています」と井上さん。


「仲間と一緒に何かを成し遂げる体験、一人ではなし得ないことを、仲間と汗を流して達成したこと、つらくしんどいプロセスを経て、成功して共に涙を流して喜んだこと…。すべて、私の生き方の源泉になっていると強く感じています」

「”Creating a Better World(より良い世界をつくる)”実現のために、受け継がれてきた松明(たいまつ)を、少しでも良くして次に手渡していこうということ。そしてまた、ここで得た経験や知識、技術を社会に役立てて社会に貢献することを表明し、子どもたちが自らの意思で人生やより良い社会を築ける社会を実現していきたいと思っています」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、9/18〜24の1週間限定でボーイスカウト日本連盟とコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円がチャリティーされ、困窮した家庭の子どもたちにボーイスカウト体験を届ける「ともに進もう基金」として活用されます。

1週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、星空の下、焚き火を囲う動物たちを描きました。大小さまざまな動物たちが、パチパチと弾ける火を囲んで同じ空間を共有する姿は、共に過ごす時間の中で、仲間の大切さに気づき、また自分の得意なことや個性を見つけ、主体性と喜びを持ってコミュニティと関わっていく様子を表しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

・子どもの自主性や協調性、社会性を養い、「より良い世界」を目指す〜公益財団法人ボーイスカウト日本連盟

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は8,000万円を突破しました。

ホームページはこちら
facebookはこちら
twitterはこちら
Instagramはこちら