突然ですが、皆さんは「思いやり」という言葉に、どんなイメージを思い浮かべますか。「『思いやり』を『重い槍』と表現した仲間がいる。相手を思っての言動が、知らずに相手を傷つけてしまうこともある」。福岡・北九州市で「ありのまま」を認め合う社会の実現のために活動する団体に話を聞きました。(JAMMIN=田中 美奈)
「ありのまま」を受け入れ合う社会を目指して
福岡・北九州市に拠点を置く一般社団法人「生き方のデザイン研究所」。障がいのある人とない人が、共に新たな社会の仕組みや役割を創造することを目的に活動しています。
活動の柱は、企業や学校を対象に行っている研修やワークショップ。障がいのある人が「生き方デザイナー」として赴き、共に過ごす中で、互いの溝を埋めていきます。
「障がいのあるメンバーが一人で話すというよりは、普段から関わっている、いわゆる健常者であるメンバーも一緒に出向き、障がいの有無にとらわれない、ただただ互いをありのまま受け入れ合って接している者同士の関係性や、そこにある空気感も感じてもらうようにしています」と話すのは、団体代表の遠山昌子(とおやま・しょうこ)さん(54)。
「障がいの有無にかかわらず、皆それぞれ長所や短所がありますよね。きれいに見せたりかしこまったりするのではなく、いびつだったりごちゃごちゃしていることも含め、ありのままを知り、何か感じとってもらえたらと思っています」
障がいのある人とない人が触れ合う場を
研修やワークショップでは、障がいのある人が「生き方デザイナー」という講師の役割をもち、表に立って活躍しています。
「さまざまなところから依頼をいただくので、内容はそれぞれご希望や参加される方に合わせてオーダーメイドでつくることが多いです」と遠山さん。
「たとえば、もう20年ほど、九州の鉄道会社さんの社員研修を担当させてもらっているのですが、そこでは『ホスピタリティ』をテーマに、講師がお客さま役として実技の講習に参加したり、『こうしてもらえて嬉しかった』『こんなシーンで困った』など、講師のこれまでの経験や思いも共有しながら、社員の皆さんの思いも受け止め、一緒により良い方法を考えます」
「視覚障がいのある講師が社員さんのガイドで階段を降りたり、車いすユーザーの講師が体をはって緊急時の階段昇降の練習のお客さま役になったりと、障がいのある人とそうでない人が触れ合うことがすごく貴重で大切だと思っています。マニュアルとしてではなく、実際に障がいのある人を相手に、経験して学ぶ環境をコーディネートしています」
「たとえば『目が見えないなら、手を引く』というのはありきたりのマニュアルです。そうではなく、実際に手をとって相手の体温を感じ、対話をしながら、たとえば階段を降りようとした時に、『こんな部分に困るんだな』とか『目が見えないだけで、あとは自分と何も変わらない、一人の人なんだ』などと、ありのままの相手を知って受け入れる体験をしてもらうことが、社会を変えていくと思っています」
「講師も『障害のある人はこう思っています』という言い方はしません。『あくまでも私の場合は』ということを大切にしていて、同じ障害がある人でも感じ方や考え方はそれぞれで、全く異なる個人であることを伝えています」
「『この障がいにはこう接する』というマニュアルではなく、どうするかは、互いの関係性の中でつくっていくもの。『どうしたら良いかわからない時は、遠慮せずに勇気を持って聞いてください』とお伝えしています」
「思いやりとは何か」
「思いやりとは何かを、教育の場で学ぶ機会がないことに課題を感じています」と遠山さん。
「皆さんもきっと小学校の頃に、思いやりを大切にしようと教わったと思いますし、その言葉自体は、よく耳や目にしたと思うんです。しかし、本質の『思いやりとは何であるのか』ということについては、教えられたり考えたりすることがないままに大人になったという方が少なくないのではないでしょうか」
「何であるのかが明確でないと、実際にそれを行動に移すことは難しいと思うんです。その結果、誰かを傷つけようとしているわけではないのに、傷つきを生んでしまっていることが、現実としてあるんです」
「共に活動している仲間の一人は『思いやりは、重い槍』と言いました。彼女は50代なのですが、子どもの頃に重い病気を患い、身長は4歳児と同じほどです。ある日、彼女がバスに乗って出かけると、同じバスに乗車していた一人の方から『お嬢ちゃん、今日は良い天気だね。どこに行くの』と声をかけられ、頭を撫でられたことがあったそうです」
「声をかけた方はきっと、『こんなに小さな子どもが一人でバスに乗っている。さぞかし心細いだろう』と、思いやりのつもりでかけた一言だったと思うんです。でも彼女はその言葉で、もうグサグサと傷ついているんですよね。それを『重い槍』と表現したんです」
「思いやりのつもりでしたことが、意図せずに相手を傷つけてしまうことがある。避けられないこともあるかもしれないけれど、たとえば『病気で身長が伸びず、低身長の人がいる』という情報が頭の片隅にあったら、言動は違ったかもしれません。まずは情報を知り相手を知る、学びの場が必要だと思っています」
「いろんな知識と選択肢を持つことが、みんなが暮らしやすい社会につながる」
「私たちがデザインしたいのは、目に見えるかたちのあるものというよりも、人の考え方、つまり人の生き方そのもの」と遠山さん。
「『社会を変えていくためには、一人ひとりの考え方をデザインしていかなければいけない』ということに行き着きました。社会の選択肢を増やすために、一人ひとりの頭の中のデザインの幅を増やしていくようなイメージで活動しています」
「何をする時も、人の頭の中にある考え方が変わらないと、アウトプットのかたちは変わりませんよね。誰にとっても住みやすい社会のためには、まずは社会を構成する私たち一人ひとりの考え方を、そのようにデザインしていく必要があります」
「だからこそ、いろんな人と出会い、同じ場所でさまざまな人が暮らしていることを知る場が必要だと思っています。まちを歩く人の中には、目の見えない人もいれば耳の聞こえない人もいます。足が不自由な人もいます。見た目にはわからないけれど、病気や困りごとを抱えている人もいます」
「こういった情報を知っているか知らないかによって、まちは大きく変わってきます。誰にとっても暮らしやすい社会を考えた時に、マニュアルではなく、その場その場で顔をつき合わせてお互いを知り理解していく、その姿勢とプロセスこそ重要なのだと思います」
「正解はないかもしれないし、全員が100パーセント満足、ということは難しいかもしれません。それでも相手を知り、思いやり、共により良い方法を考えていくプロセスをひとつずつ踏んでいくことの先に、誰もが暮らしやすい社会がつくられていくのではないでしょうか」
最後に、遠山さんにとって「思いやりとは何か」を尋ねました。
「『相手を思って興味を持ちながら、ありのままを正しく知ること』です。目の前の人に対し、興味を持って知ろうとする姿勢が大事だと思っています。いろんなタイプの人と出会い、ありのままの自分とありのままの他人、そのままを認めて受け入れ合う先に、豊かで楽しい暮らしがあるのではないでしょうか」
団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「生き方のデザイン研究所」と6/13〜6/19の1週間限定でコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。
JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、団体の活動のための資金として活用されます。
JAMMINがデザインしたコラボデザインには、いろんな生き物やものをごちゃごちゃと縦横無尽に、楽しく描きました。
それぞれの思いや生き様が混在し絡み合うことで、より良い世界がデザインされていく様子を表現しています。
JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!
・「一人ひとりの生き方が変われば、社会が変わる」。ごちゃごちゃのカオスな日常から「平和」をデザインする〜一般社団法人生き方のデザイン研究所
「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,000万円を突破しました。