食卓を通じて訪日旅行者と日本に住む人々をつなぐ独自の仕組み「ホームビジット」を提供するNPOがあります。代表は、「いうなればホームステイをぎゅっと凝縮したようなもの」と紹介します。(JAMMIN=山本 めぐみ)

2019年の年間訪日外国人数(推計値)は、3,188万人超。現在は新型コロナウイルスの影響によって日本を訪れる人の数は大きく減っていますが、事態が収束した後、日本を訪れる海外の旅行者や日本で暮らす外国人の数は今以上に増えていくことでしょう。

世界中の旅行者と食卓を囲む
「ホームビジット」を提案

世界の旅人を我が家の食卓に招待。「ホームビジット」の一コマ

日本を訪れる世界中の旅行者を自宅に招き、共に食卓を囲む「ホームビジット」を提案するNPO法人「NAGOMI VISIT(以下「なごみビジット」)」。代表の楠(くすのき)めぐみさん(37)に、ホームビジットについて尋ねてみました。

お話をお伺いした楠めぐみさん

「日本に限らずいえることだと思いますが、旅行でどこかの国を訪れても、現地の方と仲良くなったり、その地域の一般家庭を訪問したりする機会は滅多にありません。しかしホームビジットがあれば、一緒に食卓を囲むことで、訪れた土地の方たちが何を食べ、どんな生活を送り、どんなことを考えているのかに実際に触れることができます」と話します。

「私たちが『ゲスト』と呼んでいる海外からの旅行者の方が、たとえば日本に1週間滞在するとして、そのうちのある一食を日本の家庭で共に食事するだけで、日本に対する印象はまた変わってくるのではないか」と楠さん。ゲストを受け入れる「ホスト」にとっても、「自宅にいながら気軽に世界各地の方たちと文化交流ができ、楽しいひとときを過ごすことができる」というメリットがあるといいます。

「なごみビジット」は、この「ゲスト」と「ホスト」をつなぐサイト「nagomivisit.com」を運営しており、現在のホスト登録数は、北は北海道から南は沖縄まで1200世帯に及びます。

「若い世代の方からご年配の方まで、登録してくださっている方の世代はさまざま。『若い時に世界各地を訪れたから』『小さい子どもがいて今旅をするのは難しいから、代わりにホームビジットを通じて世界の人とつながりたい』『子どもが昔留学をしていて、その時にその国の方にお世話になったから恩返しをしたい』という方もいらっしゃいます」(楠さん)

交流を純粋に楽しむための仕組みを提供

ある家庭でのホームビジットの様子。イスラエルからのゲストに手巻き寿司を紹介中。「寿司レストランは世界中にありますが、手巻き寿司は日本の家庭ならではです」(楠さん)

では、ホストとゲストはどのようにしてつながり、ホームビジットが成立するのでしょうか。

まずホストを希望する人は、サイト登録にあたり一通りのプロフィールを入力します。ゲストについても、ホームビジットをリクエストするにあたり「ハネムーンで来た」「幼い子どもと一緒に」「サッカーが好き」等、日本への旅の目的、誰と来るのかや趣味など「人となり」がわかるようプロフィールを入力します。

「このプロフィールを誰でも閲覧できるわけではないというところがポイント」と楠さん。

「ホームビジットを希望するゲストから、たとえば『○月×日に、東京駅から1時間以内の場所でホームビジットに参加したい』というリクエストがされた時、その条件にヒットするホストの元に一斉にその情報が送られる仕組みになっています。この時にゲストのプロフィールも一緒に送られて、初めてホスト側でゲストのプロフィールが閲覧できます」

一般的にホームステイのゲストは若者単独であることが多い中で、さまざまな世代の人と交流を深めることができるのもホームビジットの醍醐味

「次のステップとして、そのゲストを受け入れたいホストがサイト上で挙手すると、今度はゲスト側で挙手したホストのプロフィールが閲覧できるようになります。そこから、ゲストが細かい場所や時間、趣味などの条件を見て、どのホストの元へ訪問するかを選ぶことができる仕組みです」

「ホームビジットが成立すると、ゲストは私たちに予め参加費を支払い、そこから食費として一部がホストに支払われます。参加費や食費は一律で定められており、ホストによって異なるということはありません。プロフィールを一般公開しないことや価格を一律同じにすることで、純粋に人との交流を楽しめる仕組みを提供したいと考えています」

活動のきっかけは
デンマークで一般家庭を訪れた時の感動

ホストとゲスト、一緒に料理。「食卓を囲むことは必須ですが、その他にもホストとゲストの意向次第では、一緒にお料理をしたり近所のスーパーを案内したりと交流のスタイルは百人百様です」(楠さん)

日本にいながらにして世界中の旅行者と交流できる、そしてまた旅行者からすると、観光だけでは触れられない日本の一般家庭の食や文化に触れられるホームビジット。楠さんはなぜ、このサービスを開始したのでしょうか。

「料理や食べることが好きだったからというのが一つあります」と楠さん。デンマーク人の夫を持つ楠さんは、初めてデンマークを訪れた際、夫の実家を訪れた際に大きな感動を覚えたといいます。

「観光地を訪れ、レストランで食事をするのとはまた異なる、新鮮な驚きがあった」と楠さん。

楠さんが初めてデンマークを訪れた際の一枚。「夫の実家に訪れた時の写真です。『この土地に住む人はどんな暮らしをして何を食べているんだろう』という興味関心は、旅行者なら誰でも感じることだと思います。日本でそれを可能にしたいと思ったことがホームビジットの着想につながりました」(楠さん)

「彼の家を訪れた時、デンマークでよく食べられる伝統料理の一つである『スモーブロー』と呼ばれるライ麦パンのオープンサンドイッチが食卓に出ました。このスモーブローは、日本でいう手巻き寿司のように自分で好きな具材を選びライ麦パンに乗せて食べるスタイル。『どの具材を組み合わせたらおいしい』『こういう組み合わせはしない』など暗黙のルールのようなものがあって、それもすごく手巻き寿司によく似ていると感じました。日本とデンマーク、遠く離れた文化も異なる国ですが、意外なところに共通点を見つけてすごく嬉しかったんです」

「もう一つ、一般の家庭を訪れたことで『生活』という切り口からの発見があったことも新鮮でした。たとえば家具ひとつのチョイスもそうだし、デンマークではカーテンをつけないんですが、そういうことだったり、細かいことですが『ここは違うんだ』『ここは同じだ』という発見が、有名な観光地を訪れる感動とはまた異なる新鮮で楽しいものでした」

初めて訪れる地域や知らない場所は非日常感が色濃くなりがちですが、一般家庭を訪れること、食卓を共に囲むことで、自分の日常生活の延長線上に、文化を異にする人たちの生活が見えてきたと楠さん。一般の家庭を訪問すること、食卓を共に囲むことが「こんな文化もあるんだ」「いろんな人がいる」ということを知る、最初の第一歩になると感じたといいます。

今後、ますます外国人が増えていく日本。
「グローバル市民」を増やしていきたい

「最初は『外国人が自宅に来るなんて困る』と困惑していたホストのご家族が、何度か受け入れを重ねるうちに『日本に来たことをいい思い出にしてもらいたい』と考え方が変化し、積極的にゲストと交流を深めるようになったそうです」(楠さん)

ホームビジットを通じて「グローバル市民」を増やしたいと楠さん。そこには、生まれ育った日本に対する楠さんの思いがありました。

「夫と旅館に泊まった時の事でした。夫は日本滞在歴が長く日本語も流暢です。夫の名前で部屋を予約し、旅館に着いて、カウンターで夫がカタカナで名前を記帳したのですが、カウンターにいたスタッフの方は私だけを見て話し始めました。夫はもう慣れっこで傷ついたりしたわけではないのですが、ただ見た目が外国人であるという理由でその人に目を向けないというのは正直、非常に残念な気持ちになりました」

「私も日本で生まれ育ったので、あからさまな差別の意識があるわけではないというのはよくわかります。だからこそ、その部分をどうにかできないか、そんな思いがありました。一緒に食卓を囲むことで、言葉や文化の壁を超えて、国や見た目に惑わされず『その人』自身を知る、そんなグローバル市民が増えてほしいと願っています」

新型コロナウイルスの影響で、現在はホームビジットを一時停止中。「この状況で私たちにできることは何か、ホストの方々と議論を重ねて【#世界とつながり私は変わる】という動画配信プロジェクトが生まれました。過去にNAGOMI VISITで出会ったホストとゲストがオンラインで再会する動画もあります」(楠さん)

「もしかしたら最初はうまくいかない部分もあるかもしれません。国や文化、世代の異なる人とまずは同じ空間を共に過ごす中で、当然『もっとこうすればよかった』とか『ああ言えばよかった』ということもあるでしょう。しかしそれも含め、成長や変化の大きな過程だと思います。何もやらないよりも、まずはそこに飛び込んでみることで、何かつかめるのではないでしょうか」

今後、旅行者だけでなく「日本で暮らす外国人」にもホームビジットを展開していきたいと楠さんは話します。

「ある調査によると、全国の8割以上の自治体で海外にルーツを持つ人々の人口は増えているといわれています。実は身の回りにたくさんいるかもしれないのに、きっかけがなければ知り合う機会もありません。日本で暮らす外国人の方は、生活の中で何かしら不便に感じていることがあります。そういった部分のサポートにつなげていくことができたらと考えています」

「共感の意識を持って接することができる感覚を」

埼玉県松伏町という小さな町の出身である楠さん。子どもの頃の経験が、現在の活動の源にあるといいます。

「小学生の頃、バスに乗り遅れた英語学習塾の先生『ウェンディ』を母が車に乗せたことがきっかけで、彼女を自宅に招待するようになりました。母は、英語は話せませんでしたが、オーストラリア人のウェンディ夫婦を招いては料理を振る舞って楽しそうだったし、母以上に英語が話せなかった父は、旦那さんの『クリス』とお互いに『太郎』『フランク』というあだ名をつけ合って(笑)、一緒にお酒を飲み交わしていました」

幼い頃の楠さん。ウェンディさんと。「両親が見た目も言葉も違う人達と普通に会話を楽しみ友人関係を築いている姿を見せてくれたことが、私自身のその後の人生に大きく影響しています」(楠さん)

「当時私はまだ幼く、『今日もウェンディが来てくれるんだ!嬉しい』という感覚だけでしたが、今振り返ってみると、この体験が大きな糧になっていると思います。数年後、ウェンディ夫婦がオーストラリアに帰ってからも交流は続き、家族で遊びに行ったりもしました」

「この先、日本を訪れる外国人、日本で暮らす外国にルーツを持つ方も、もっともっと増えていくでしょう。その時に備えて、すべてをわかり合うことはできなくても、共感の意識を持って接することができる感覚を身につけていってほしいと思います。すぐに変わるのは難しかったとしても、異文化交流する大人を見て育った次の世代の子どもたちは、それが当たり前になっていくのではないでしょうか」

ホームビジット普及のための活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「なごみビジット」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×なごみビジット」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、ホームビジットでゲストを受け入れたホストの声を動画作成でシェアし、より多くの人に届けるための資金となります。

「実際に経験者の声を聞くことで不安が払拭され、新たな一歩を踏み出す後押しになるのではないかと思っています」(楠さん)

「JAMMIN×なごみビジット」5/18~5/24の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はベーシックTシャツ(カラー:ブラック、価格は700円のチャリティー・税込で3500円))。アイテムは他にパーカー、トートバッグやキッズTシャツなども販売中

JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、日本地図とその上に咲く大輪の花や植物。ホームビジットを通じ、世界中の旅行者と日本各地の食卓がつながり、交流を通じて大輪の花のように友情が広がっていく様子を表現しました。

チャリティーアイテムの販売期間は、5月18日~5月24日の1週間。JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

食卓に、世界中から旅人を招待。日本にいながら世界を知れる「ホームビジット」でグローバルな人を増やしたい〜NPO法人 NAGOMI VISIT

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2019年11月に創業7年目を迎え、コラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は4,500万円を突破しました!

【JAMMIN】

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