今、サステナビリティの世界で「リジェネレーション」という概念が注目されています。「再生」に重きを置いたビジネスやライフスタイルを指す言葉です。この言葉が生まれた背景には、地球規模の課題には「持続し続ける」という意味のサステナビリティでは対応できなくなったことがあると言われています。「リジェネレーション」を体現する若者たちを紹介します。(オルタナS編集長=池田 真隆)
「ぼくはサステナビリティという言葉を極力使わないようにしている」――。ある若者からこの言葉を聞いたのは、今から5年ほど前になります。大学生などの若者に社会問題を伝える取り組みをしていた彼は、情報を発信する際に「サステナビリティ」は使わないと言い切りました。
理由を尋ねるとこう返ってきました。「大量生産・消費を謳歌した世代には、資源の無駄遣いをやめようという意味で、『サステナビリティが重要だ』と呼びかけることは刺さるかもしれない。けれど、ぼくらは生まれてから不況の中を生きてきた。資源の無駄遣いもしていない。無意識に地球環境のことを考えて行動してきたので、『ナチュラル』という言葉を使った方が響くと思う」。
筆者も若者向けに情報発信をしてきたのですが、「サステナビリティ」を伝えるために「サステナビリティ」を使うと効果が低いと考える感覚にハッとさせられたことを、今でも覚えています。
今はSDGsが学校の教科書に載っている時代です。社会と自分の関係性を意識しながら育つ傾向にある若者たちにとっては、サステナビリティよりもリジェネレーションの方が身近に感じるのではないかと思います。
「地球の再生」に挑む28歳
清水イアンさん(28)もリジェネレーションの体現者の一人です。1992年生まれの彼の肩書は「環境アクティビスト」。日本だけに留まらず、「沈みゆく島国」で知られるツバル、北極から世界で2番目に近いとされる米国アラスカ州バローなど15カ国で環境保全活動をしてきました。
環境活動をする母親に連れられて幼少期から世界中の自然環境に触れながら育ったイアンさんは自身の原体験について、「中学生の頃に見た海」と言います。中学生になると、母親から「毎年夏は宮古島にあるダイビングショップでホームステイをしなさい」と命じられたそうです。縁もゆかりもなかった宮古島では、「八重干瀬(ヤエビシ)」という美しい海が迎えてくれました。運が良ければ、50メートル下の海底がはっきりと見えることもあるくらい、透き通った海だそうです。
こうして自然環境を好きになった少年は、大学卒業後は、国際環境NGOの日本支部設立に携わったり、環境問題を伝えるための映像を制作したり、「J-wave」のラジオMCとして環境について話したりなど多彩な活動を展開してきました。
そんなイアンさんが今、力を入れていることが、「地球の再生」。まさに、リジェネレーションそのものです。
スマフォの中の森林保全
森林保護を手軽にできる専用アプリ「weMORI(ウィモリ)」の開発を進めています。そのアプリでは、世界中にある森林保護プロジェクトから厳選したプロジェクトを掲載し、ユーザーはワンタップで寄付ができる仕組みです。ユーザーの支援によって、co2の削減量や何本植林したのかなどインパクトを可視化し、モチベーションを高めます。
25年間、森林保護活動をしてきた実績を持つ、ワールド・ランド・トラストなどとパートナーを組みます。特徴としては、「手軽さ」とイアンさんは取材中に何度も繰り返しました。
気候変動などを訴えるマーチなどを主催してきたイアンさんですが、「燃え尽き症候群(バーンアウト)」になったことがあると明かします。「環境を守ろうといくら訴えても、マーチに参加しない人は参加しないし、参加しない人の方が多いのが事実。ならば、意識はあるけど行動に移せていない人から巻き込もうと考え、このアプリを開発した」と述べます。
潜在層にアプローチするために、「参加のハードル」を徹底的に下げることにこだわり、その結果生まれたのが「ワンタッチで森林の保護・再生ができる」という特徴。「本来は環境がないと経済・社会活動ができないのに、今は環境よりも経済を優先して考えている。このアプリで意識を変え、行動変容を促したい」と強調します。
アプリの開発資金はクラウドファンディングサイト「キックスターター」で募集し、8月8日までに400万円集めることを目指しています。順調に資金が集まると、まずは英語版のアプリを開発して、来年の春ごろに日本語版をリリースする予定です。
もともと世界中で環境活動をしてきたイアンさんだけに、今回のチームメンバーもノルウェーや英国、ニュージーランド、シンガポール、コロンビアなど様々な国から参加しています。
いずれも20~30代前半の若者たちで、イアンさんの呼びかけに応えた環境を愛する仲間たちがボランティアで協力しています。「活動を続ける上で、分からないことがあったら、彼らにメッセージするといつでも教えてくれる。活動するたびにその輪が広がっていくことを実感している」とイアンさん。
「共感がやりがい」
環境アクティビストという肩書は日本では珍しい。大学卒業後、多くは企業に就職する道を選ぶので、確実に少数派で、オルタナティブな若者と言えます。
けれど、イアンさんからはブレることのない印象を受けます。「企画したキャンペーンなどに人が参加してくれると、本当にやってよかったと思う。共感してくれる人がいることで、続けていける」。詩人の谷川俊太郎も共感者の一人です。クラウドファンディングのリターンに、特別に書き下ろした作品を出品しています。
彼が尊敬する人物に、環境ジャーナリストで国際環境NGO 350.org創設者のビル・マッキベンがいます。イアンさんは「どんなに忙しくても、連絡するとすぐに返してくれる優しくて偉大な人」とビルを慕います。
そんなビルに言われたことで、胸に残っている言葉があると言います。それは、「地球温暖化に取り組むことは、世界中で兄弟ができるということ」。まさにこの言葉の通り、環境アクティビストとして独立した青年の周囲には、今、多くの仲間で溢れています。