ソーシャルマーケティングとコンドームの使用量の相関関係の研究成果が発表された。結果、ソーシャルマーケティングでコンドームの使用量は2倍になることが明らかになった。この詳細を、開発メディアganasの記者長光大慈氏に寄稿してもらった。





コンドームの使用量は、ソーシャルマーケティングを実施すれば、2倍に増える――。アフリカをはじめとする途上国を悩ますHIV感染の予防にも効果的だ。

HIV感染者への差別や偏見を無くす活動のシンボルとなっているレッドリボン。


これは世界保健機関(WHO)が、サウスカロライナ医科大学(MUSC)、米系NGOファミリー・ヘルス・インターナショナル(FHI)、ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生学部(JHSPH)と共同で実施した研究で明らかになったもの。インドとサバサハラ(サハラ砂漠以南の)アフリカに住む合計2万3000人をサンプルとする過去のデータをもとに割り出した。

ソーシャルマーケティングとコンドーム使用量の相関関係を数値化した研究結果は世界でも今回が初めて。WHOブレティン8月号に掲載した。

HIV感染と望まない妊娠を防ぐ手段として、途上国ではかねて、コンドームの使用が推奨されてきた。HIVの母子感染予防(PMTCT)の取り組みが進んでいることもあり、1年当たりのHIV新規感染者は世界で250万人(2011年)と、過去10年で2割近く減った。ただ依然として3420万人がHIV陽性者で、とりわけサブサハラアフリカでは深刻な問題という位置づけは変わらない。

性的感染の予防に有効なコンドームをなんとか途上国に普及できないかとの目的で始まったのが、コンドームのソーシャルマーケティングだ。家族計画やHIV・エイズ対策と連携してすでに広まってきている。

ソーシャルマーケティングは、従来のマーケティング(マネジリアルマーケティング)とは目指す方向が異なる。マネジリアルマーケティングが経営者の視点に立ち、顧客のニーズを満たすことで企業の利益を追求するのに対し、ソーシャルマーケティングは、ターゲットとなる消費者(コンドームを例にとると性交渉をする人)や社会全体の利益を重視する。

国際協力・開発の絡みでいえば、公衆衛生や安全、環境などがソーシャルマーケティングの対象になりうる。現代マーケティングの権威、フィリップ・コトラー氏が1971年に提唱した手法だ。

コンドームを商材にしたソーシャルマーケティングを展開する場合、重要なのは「コンドームのブランディング」「物流システムの開発」「キャンペーンの継続的実施」の3つの要素だ。

わかりやすくいえば、コンドームを使う意義をターゲットとなる消費者に伝えながら、安価または無料で質の高いコンドームを消費者が入手できるようなシステムを整えなければならない。

ブランディングはコンドームに訴求力をもたせ、またその地域の文化価値を反映させる必要がある。物流システムでは、消費者がコンドームを無理なく購入できる価格を設定し、安定供給するのが不可欠。最貧層には無料配布となるが、使ってもらえなければ意味がない。

マーケティングキャンペーンは、ターゲットとする消費者がコンドームを使いたい、欲しいといかに思わせられるかがカギ。需要を喚起するため、市場調査に基づき実施し、また常にアップデートしていくのが重要だ。

MUSCの研究者であるマイケル・スウェット氏は「ソーシャルマーケティングで消費者に訴えかけることで、(コンドームを使おうという)消費者の行動に変化をもたらすことができる」と話す。

ミレニアム開発目標(MDGs)は、目標6で「HIV・エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延の防止」をゴールに掲げ、HIV・エイズの蔓延を2015年までに食い止め、その後減少させると明記している。性交渉の際のコンドーム使用率はMDGs指標のひとつになっている。


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