社会起業家や作家、科学者など異分野から有識者が集まり、新たな社会価値イノベーションを生み出していこうと、「NRI未来創発フォーラム」が29日、東京国際フォーラム(東京・千代田)で行われた。10年目を迎える今回のテーマは、「新しい可能性への挑戦。」だ。学生からビジネスマン、アクティブなシニア世代まで約2500人が参加した。

■ ブルーカラー+ホワイトカラーが「クリエイティブクラス」に

同フォーラムは、工業デザイナーとして世界で活躍する奥山清行氏と野村総合研究所の未来創発センターの村田佳生副センター長による基調講演とパネルディスカッションの2部構成で行われた。

基調講演を行う奥山氏

奥山氏は、生産拠点を移動させていく「焼き畑工業」の限界を説く。日本の職人文化が時速330キロメートルを出す世界に誇る新幹線の技術を支えていることを例に挙げ、「ブルーカラーとホワイトカラーが融合した『クリエイティブクラス』、『現場を信じる日本式マネジメント』が見直されている」とした。

モノの価値も変化していくと言う。市場価格より高い日本メーカーのノートが東南アジアでも売れているように、これからは、「仕方ないから買う」ではなく、「高くても欲しい」と思わせる「プレミアムコモディティ商品」をつくることが日本企業の強みになるとする。

「社会は、好む好まざるにかかわらず変化し続ける。良い変化にするか悪い変化にするかは、私たち自身にかかっている」と力を込めた。

村田氏は、社会に新しい価値を生み出す「デザイン型人材」についての分析を報告した。

「亀田総合病院」、「Wii」、「旭山動物園」などを手がけた社会価値創造者15人と上場企業勤務の一般社会人300人とを比較したところ、前者は「価値発見力」がずば抜けて高いことが分かった。価値発見力とは、「挑戦力」「観察力」「人とのつながり」などだ。「説得力」「マネジメント力」「計画力」などの「価値実現力」は極めて平均的であったという。

デザイン型人材を育成するためには、価値発見の実践体験を重ねる場の提供や、無限の創造性があると実感させる「探求型学習」が大切だとした。

■個人の倫理観が変われば未来も変わる

パネルディスカッションでは、モデレーターに産業戦略研究所の村上輝康代表を迎えた。パネリストには、『パラサイト・イブ』で知られる作家で薬学博士の瀬名秀明氏、マザーハウスの山口絵理子代表、工学博士の石田秀輝氏、NRI主任コンサルタントの松下東子氏が登壇し、「未来をつくり伝えていくために」というテーマで議論した。

「未来をつくり伝えていくために」というテーマのもと議論するパネリストたち


パネルディスカッションは、「社会貢献とビジネス」、「自然と倫理」がキーワードになった。松下氏は、NRIが実施した最新の生活者1万人アンケートの結果から、「社会に貢献したいと思う人が10代を中心に増加している」と報告した。

「自然に学ぶモノづくり(ネイチャー・テクノロジー)」を提唱する石田氏は、「本来、社会貢献とビジネスを分けて考えることが間違っている。距離ができてしまったのは、ビジネスをお金というモノサシでしかとらえていないからではないか」と指摘した。

「なぜ50キログラムのモノや人を動かすのに、1トンの車が必要なのか。つくられたモノサシでモノを見てばかりいては、逆に閉塞感を感じてしまう。もっと違った見方ができるはず。その原点に『自然観』があるのでは」と続けた。

バングラデシュ、ネパールでバッグの製造を行うマザーハウスの山口代表は、花や葉脈など自然をモチーフにしたモノづくりを手掛ける。

「大量生産される金具の付いた革のバッグは誰でも作れる。でも、現地の素材を使って、生産者が本当に作りたいと思う商品を作っていきたい。『風が気持ち良い』という感情は、日本もバングラデシュも同じ。自然は世界の共通言語」と話す。

瀬名氏も、「個人の倫理観が変わっていけば、未来も変わっていく」とし、自然に立ち返り、人間の根本にある倫理感を問い直す時期ではないかと投げかける。

参加した大学生から「若いうちにしておくべきことは」という問いに対して、バングラデシュの大学院に2年間通った山口代表は、「バングラデシュに行ったことだけではなく、現地で、同世代の友達も少なく、電話やメールなども自由に使えないなか、2年間かけて、自分は何かしたいのか、自問自答できたことが今の自分を創っている。『行動しなければいけないのでは』と焦らないで、じっくりと自分と向き合ってほしい」と伝えた。(オルタナS副編集長=池田真隆)