東京湾沿いに石炭火力発電所建設計画が進んでいることをご存知だろうか。

その一つは、千葉県内房の中央に位置している袖ヶ浦市中袖で進んでいる「(仮称)千葉袖ヶ浦火力発電所1・2号機建設計画」だ。これは、出光興産(株)九州電力(株)東京ガス(株)の3社が共同出資をして設立した(株)千葉袖ヶ浦エナジーが、設備容量100万kwの石炭火力発電所2基、計200万kWの発電所を建設するというものだ。1号機は2025年、2号機は2026年に運転開始を予定している。(松尾 沙織)

緑が生い茂っている場所が予定地

現在計画されている国内の火力発電所の中では、最も大きい火力発電所である。すでに建設予定地の近くに2カ所の火力発電所があるが、これらは液化天然ガス(LNG)を燃料としており、石炭を燃料にするのはこの地域にとって初めてのことだ。

二つ目は、千葉県千葉市で進んでいる2024年に運転予定の「(仮称)蘇我火力発電所建設計画」だ。こちらは、中国電力(株)JFEスチール(株)の共同出資によって設立された千葉パワー(株)が、設備容量107万kWhの発電所計画を進めている。

そして三つ目は、神奈川県横須賀市で進んでいる「(仮称)横須賀火力発電所1・2号機建設計画」だ。東京電力カフュエル&パワー(株)中部電力(株)が共同出資して設立された(株)JERAが、設備容量65万kwの石炭火力発電所2基、計130万kWの発電所を建設する計画だ。1号機は2023年、2号機は2024年に運転開始を予定している。

これらの発電所計画が東京湾岸に集中する理由として、電力自由化競争で弱体化する東京電力管内の販路拡大や、JFEなどの製鉄所や出光興産などの石油コンビナート、古い跡地利用等の動機が言われている。

今回筆者が見学した袖ヶ浦石炭火力発電所の予定地半径5km圏内には、幼稚園、保育園、小中学校、病院などがあり、建設後の高齢者や子どもたちの健康影響への懸念の声も上がっている。

石炭の燃焼には、常に大量の大気汚染物質(CO2、SO2、NOxなど)が生成される。新規に建設される石炭火力発電所では、効率化を重視した最新の発電技術とも言える「超々臨界圧(USC)」が採用される他、バイオマス混焼も検討されるが、それでも100%汚染物質を除去するのは不可能だ。

現存する火力発電所でもすでに被害が出ており、粉塵被害を訴える千葉市民も多くいる。粉塵によって、洗濯物やベランダ等周辺物への付着や、大気汚染からの吸引より喘息患者も増えるだろう。3km圏内にある盤州干潟では、これまでに建設された発電所の開発や工場立地によって、アサリの数が激減し、潮干狩りの時期には別の場所から輸送してくるそうだ。それに加え、周辺農業や海苔産業などの漁業への悪影響も増すことは明らかである。

2016年にGREEN PEACEが行った調査では、新設の発電所が稼働した場合、東京・千葉エリアでの早期死亡者数が年間260人と推定されている。発電所の寿命はおよそ40年と言われているが、一旦建設され稼働すれば、この40年間における健康被害は、同エリアでおよそ1万人と予測されている。また、PM2.5への暴露予測は年間183人、低出生体重児に関しては、年間30人の出生の可能性があるとされている。

「環境アセス」に基づく説明会は開催されているが、十分に周知されていない。例えば街頭でのチラシ配布や回覧版といったものなどを用いて告知することはできたのではないのだろうか。こういった不十分な周知を補うべく、いち早く気づいた住民によって、2016年に立ち上げられた「袖ヶ浦市民が望む政策研究会」が、周辺住民を対象に勉強会の開催や、環境省や千葉県知事への申入れ、設立企業に向けての抗議運動を行っている。

さらに、袖ヶ浦の「袖ヶ浦市民が望む政策研究会」、市原(現在は計画中止)で立ち上がった「石炭火力を考える市原の会」、千葉市の「蘇我石炭火力発電所計画を考える会」、横須賀市の「横須賀石炭火力発電所建設を考える会」の連携により、「石炭火力を考える東京湾の会」が発足し、さらなる活動の強化を目指す。

袖ヶ浦市民が望む政策研究会代表の関氏は「周辺住民への認知を広げるためにも、もっと若い世代を巻き込んでいきたい」と話す。

現状、国の環境影響評価法に基づいた公害や自然被害等を審査する「環境アセスメント」が行われており、2017年10月には市民の声が届けられる最後の機会である「アセス4段階目」の準備書が、環境影響評価情報支援ネットワークHPから出される予定だ。

あまり知られていないが、石炭火力発電は石油を燃料としている発電所よりも環境負荷が高い。(参考:資源エネルギー庁)石炭発電の使用電力量あたりのCO2排出量は、最新型でも平均で約800g-CO2/kWhだ。(参考:No coal tokyobay

これは天然ガスの350g-CO2/kWhに比べても倍以上の数字だ。今回の袖ヶ浦火力発電所でも、約800g-CO2/kWhが予測されている。年間だとおよそ1,200万トンに及び、千葉に新設される火力発電所を合わせると3,222万トンに及ぶ。これは日本の一般家庭の約644万世帯の排出量に相当する。

温室効果ガスであるCO2排出量が多い今回のような火力発電所建設は、温暖化を加速させる一因にもなりかねない。国際環境NGO Oil Change International が発表した「 Sky’s the limit」のレポートにも、「新たな火力発電所建設は許されない、古いものは段階的に廃止していくほか選択肢はない」と書かれており、2015年パリ協定で採択された1.5度目標達成に向けて世界が脱化石燃料へと舵を切っている中、日本が逆行しているのは明らかだ。(詳細:350.org HP)今回の発電所建設予定地は、液状化や津波の危険性も危惧されており、排出される大量の石炭灰の処理先も決まっていない状況だ。

さらに、ここで発電される電力の7割以上は、千葉県ではなく東京首都圏で使われることとなる。新しく建設しなくてはならないほど、電力が不足しているわけではない。東京都は、2000年から2020年にかけて、電力消費量を30%削減する目標も掲げている。

関西電力が気候変動対策等を理由に、兵庫県赤穂市の火力発電所の燃料を石炭に変換する計画を断念したことを受け、環境大臣もその決定を歓迎し、「石炭火力は将来性に乏しい」として他事業者にも石炭火力発電所建設の再考を促しているところでもある。

本当にこれらの火力発電所は必要なのだろうか?

この状況で推し進めてしまって本当に大丈夫なのだろうか?

これらの企業は大手銀行から融資を受けており、こういった銀行に貯金を預ける利用者も無関係ではない。(環境負荷のある事業に融資している銀行一覧

また、千葉だけでなく電力を使うことになるであろう東京や埼玉などの周辺市民も、この建設に対してきちんと考えなければならないのではないか。

>今後の活動の詳細

2017年9月16日(土)横須賀火力発電所見学と説明会 詳細
2017年10月14日(土)蘇我火力発電所見学と説明会

>意見書
袖ヶ浦石炭火力発電所計画 意見書
蘇我石炭火力発電所計画 意見書 
横須賀石炭火力発電所 意見書(気候ネットワークHPより)

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