持続可能なエシカルビジネスを行うには、企業はどのような戦略を取るべきだろうか。立教大学経営学部教授で、エシカル購入研究会会長も務める高岡美佳氏に伺った。(聞き手・オルタナS副編集長=池田真隆)
——「ソーシャルリンケージ」や「エシカル消費」という言葉が今年のトレンドの一つとして上がっています。このような状況で、企業がエシカルビジネスを拡大させていく戦略をどうお考えでしょうか。
高岡:人間の消費行動を分析するときに、意識と行動の2軸で考えることができます。この2軸で座標を作ると、4つの象限ができます。この4つのうちの、「意識が高い」が「行動をしていない」象限に私は鍵があると思っています。
なぜなら、その層に当たる人は潜在的にエシカル志向を持っているので、上手く心を掴めば、トレンドや一時のキャンペーンで終わることなく続くからです。
——「意識があっても、行動できていない」層を動かすには、どのようなコミュニケーション方法が良いと思いますか。
高岡:購入現場で消費者が持っているエシカル意識を呼び起こさせる仕掛けが必要だと思います。以前、日立製作所とスーパーマーケットのOdakyu OXと共同でエコな消費者意識を購入現場で喚起させる実証実験を行いました。
その実験では、事前に消費者の趣味趣向データを入れたICチップ入りのお買い物カードを商品のそばに配置したICチップリーダーにかざすと、消費者の趣向と合っているおすすめ商品が画面上に出てくるようにシステムを組みました。
すると、実験結果では、多くの人がもともとの趣向と合った商品、例えば、フェアトレードや環境に配慮した商品を購入したいという意識を持った人であれば、そのような商品を購入しました。購入現場でこのような仕掛けができれば、エシカルビジネスを拡大していけるのではないでしょうか。
——それは面白いデータですね。しかし、店舗内すべての商品のデータと、消費者の趣味趣向を合わせるアルゴリズムを組むには、かなりの時間とコストが掛かるかと思いますが。
高岡:その通りです。実験でも、お豆腐、卵、もやし、ハムの4つの商品しか対象にできませんでした。
——オフラインの購入現場では難しいかもしれませんが、オンラインショップでその仕組みを導入すればどうでしょうか。例えば、オンラインショップ側で「エシカルレベル1」「エシカルレベル2」などのように独自の定義を決めて、その定義で検索に掛けられる仕組みを持たせれば、すでにエシカル志向を持っている消費者には響きやすいのではないでしょうか。
高岡:それは面白そうですね。購入していくにつれて、「エシカルレベル」があがっていく仕組みにしてもいいですね。個人の買い物履歴をもとに、エシカルタイプ(エシカルの中でさらに何に関心があるのか、例えば、児童労働問題に関心があるのか、紛争鉱物問題に関心があるのかなど)を判断して、商品をおすすめする仕組みもいいかもしれません。
しかし、問題になってくるのは、誰が、またはどの団体が、個々の商品のエシカル度合を評価する基準や定義を作るのかということです。何かの定義を決める団体には、社会からの信頼性が不可欠ですから。
——おっしゃるとおりですね。ちなみに、この層は、どのくらいの母体数があると見込んでいられますか。
高岡:日本の教育水準から考えて、エシカルやエコな意識を持つ人はかなりの数がいると感じています。エシカルの波は、トレンドキーワードが表すようにこれからも加速していくのではないでしょうか。
——エシカルな波を動かしている原動力はどの層だと考えられておりますか。
高岡:20歳前後から30代前半かと思っています。彼らは、他の年齢層に比べて直感的にソーシャルやエシカルの感覚を分かっているのではないでしょうか。
私は大学教授として10年以上働いているのですが、近年の学生たちがもつ感覚には興味を持っております。
——どのような感覚ですか。
高岡:人とつながるリンケージ意識のようなものです。今の学生たちは何か課題を出したときに、こちらから働きかけなくても自然と数人のグループで連携を取りながら動いています。
グループを構成する目的は、お互いを助け合うためだけではなく、モチベーションをあげるためです。情報やスキルを一人占めするのではなく、シェアしながらコミュニケーションを取ることが自分の成長につながると直感的に分かっているのではないでしょうか。
——社会貢献をした若者からよく聞くのですが、「支援したから、自分の存在価値に気付けた」という感想があります。人のために生きることで、生かされるのでしょうか。
高岡:社会貢献活動は子育てと似ていると思います。親は子どものために、手間も時間も惜しまないでかけます。学費を稼ぐために夜遅くまで働き、お弁当を作るために朝早くに起きます。子育ては大変だけれど、親にとっては、子どもの成長を見守り続けることが、何よりの幸せな時間だと思います。
子どもにはなかなか親の想いが伝わらないですが(笑)。それでも、子どもが一人前になったときに、「お母さん、ここまで育ててくれてありがとう」という一言をいわれたら、「こちらこそ、育てさせてくれてありがとう」という、何とも言えない幸福感を感じるのでしょう。
子育てに限らず、そのような感覚を生きているうちに誰と持てるのかで、人生はより豊かになっていくのではないでしょうか。
高岡美佳:
1999年東京大学大学院経済学研究科修了。博士(経済学)。同年、大阪市立大学経済研究所専任講師、2001年同助教授を経て、2002年立教大学経済学部助教授、06年同経営学部助教授、07年准教授、09年教授。現在に至る。専門は、フランチャイズ組織と小売経営、消費者行動と企業のCSRコミュニケーション戦略など。