誰もが日々膨大な情報に触れる中で、誰かの意見を鵜呑みにしたり、メディアの毀誉褒貶に流されることなく、自分らしい意思決定にたどり着くには何が必要なのだろうか。今年8月にリリースされたウェブ上のコミュニケーションツール「Groots(グルーツ)ベータ版」は、そのような問いかけから生まれたものだ。(オルタナS関西支局特派員=松本 幸)

自分の主張を明言し、相手と議論を交わす。ディスカッションのスキル向上は、これからの日本において重要視されるものの一つだが、そもそもディスカッションに参加するためには「自分の主張」がなくては始まらない。

Grootsの新しさは、ウェブ上にすでにある掲示板や投票・アンケートなどの機能を集約した上で、さらにリアルな会議のように「議論が議論を呼ぶ」さまが可視化できる点。

議論に参加する方法は2つあり、1つめは、テーマに対してイエス・ノーで投票を行ったりコメントをすること。2つめはそのテーマに対する自らの主張を提示し、参加者に是非を問う「アサーション」を行うことだ。

「シェイプ機能」と呼ばれる独自の図式化フォーマットによって、メインのテーマのまわりを、派生したアサーションが惑星のように取り囲んでいくため、誰がいつ参加しても、議論の流れ・広がり・趨勢を把握しやすくなっている。

Groots議論中の画面では、テーマに対する肯定・否定の割合のほか、「アサーション(主張)」の広がりが視覚的に分かる

開発元は、ウェブのシステム開発や企業の経営企画支援を行う株式会社グルーツ(東京都港区)。「議論が視える。主張が生まれる」をコンセプトとするGrootsを、「自分自身がほしかったサービス」と語るのは、代表の武内開作氏だ。

「今はネットで検索すれば、情報は山のように手に入る時代です。しかし、『右に進むか、左に進むか』という意思決定の連続である人生をよりよく生きるには、ただ情報を知っているだけでは不十分。多様な意見に耳を傾け理解した上で、自分の主張を持つ必要があります。しかしあまり議論をしない日本社会においては、自分の主張や判断基準を持つ力が弱いのではないかという思いがあり、3年ほど前からこのサービスのアイデアを温めていました」。

システム開発者と手を組んで次世代ウェブ標準技術であるHTML5を駆使し、約3か月の開発期間を経て、こだわりと苦労のつまったシェイプ機能を実現。パソコンはもちろんスマートフォンにも対応しており、近い将来には英語版のリリースも予定しているという。

自分の進む道を見つけるために 自分の主張をもってほしいと語る武内社長

「最近興味深かったのは解雇特区のトピック。肯定派3割、否定派7割という数字が出ましたが、投稿を読むと数字だけでは伝えきれない『部分的肯定』『部分的否定』があることが分かります。私も毎日どこかのディスカッションに参加していますが、そのたびに新しい発見があります」。

まずは意思決定のレッスンだと思って、気軽に参加し、イエス・ノーを表明することから始めてみてほしいと武内氏。その先に待つのは、自分の主張を発信して他者からのフィードバックを受けるというステップだ。「さまざまな考え方を理解し、考え抜いた上で、自分らしい価値判断でものごとを選択する。それは後悔のないハッピーな生き方につながるのではないでしょうか」。武内氏はそう締めくくった。

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