IT分野での目覚ましい発展に注目が集まるインド。しかし一方では、世界最大の最貧困者を抱える国としても知られ、依然として大きな社会問題となっている。中でもビハール州はインドで最も貧しい州であると言われ、多くの子どもたちが学校に通えないでいる。貧困地域における教育の実態を、ニランジャナスクール(NGO)を運営するディベンドラ・パタックさんに聞いた。(オルタナS特派員=清谷啓仁)
■ニランジャナスクールとは
ビハール州、ブッダガヤのスジャータ村にあるニランジャナスクールは、貧しくて学校に通えない子どもたちのために建てられた学校だ。ブッダガヤ周辺の17の村々から最貧困層の子どもたちを集め、小学校から高校まで9年間の教育を無料で提供している。
インドには、公立・私立・NGOスクールという3種類の学校が存在するが、そもそもなぜNGOスクールが必要とされるのだろうか。12億という人口、そして日本の9倍もの国土面積を要するインドでは、貧しい地域にまで政府の資金が十分に行き渡らず、学校や教師の数が不足しているというのが現状だ。ビハール州の農村地帯では、2人に1人以上が未だに学校に通うことができないでいると言われている。
創設者のシッダルタ・クマルさんは、家庭が貧しく学校に通うことができなかったという。幼い頃から児童労働を強いられた彼は、こうした辛い経験を村の子どもたちにこれ以上させたくないという想いでニランジャナスクールを設立した。
■教育こそが貧困を救う
ニランジャナスクールは、学校教育を通じて子どもたちが人間としての道徳心や倫理観を学ぶこと、そして貧しさやカースト差別に負けず、自分たちの力で問題を解決していくことの大切さを学ぶことを目的に設立された。年を経るごとに生徒の数は増えていき、現在では分校も合わせて約800人もの生徒を抱える人気校となっている。
同校では9年間の学校教育を無料で提供することに加え、身寄りのない子どもたちを保護する孤児院、健康促進に向けた無料診断所、女性の自立支援を目的とした裁縫教室、など様々な施設を運営している。
「私たちの活動は教育の最も基本となる学校を設立することから始まりましたが、学校を運営し、子どもたちの現状を知っていくにつれ、子どもだけではなく村人たちが抱える多くの問題が浮き彫りになってきました。村人の大半は農業で生計を立てていますが、中には日雇いで働いている人たちもいます。そのような状況下では、子どもたちは苦しい家計を支えるために労働力として幼い頃から働かざるを得ません。家族収入を支えれるように母親に対して裁縫教室でトレーニングを行ったり、無料の病院施設を運営したりしているのは、そうした理由からです。私たちの活動はすべて『教育』に繋がっています。インドで起こっているほとんどの問題は、教育を通じてこそ解決することができると信じているからです」とディベンドラさんは語る。
■心で繋がるインドと日本
2003年に本格始動したニランジャナスクールは、これまで300人以上の卒業生を輩出してきた。多くの生徒は地元の大学へと進学し、それぞれの道を切り開いていっている。貧困というスパイラルから抜けだせず、教育の機会さえも与えられなかった小さな村の子どもたちに、ようやく微かな光が灯り始めた。
現在、同校の運営費の多くは日本によって賄われているが、将来的には自立的な運営を目指している。大学卒業後は、積極的に社会に出て学校を支援する側にまわり、中には教師としてニランジャナスクールに戻ってくる生徒もいるという。
「ニランジャナスクールにとって日本からの支援は大きな意味を持っています。金銭的なフォローはもちろんですが、日本人のやる気に感化されてモチベーションが維持できているということもあります。日本には国を越えた『心の繋がり』を強く感じており、本当に感謝しています。教育を通じて、インドの子どもたちの未来を切り開いていきたいという想いは、学校設立当初から変わりません。まずは10年、20年…と学校を継続させ、これまで学校に通えなかったような子どもたちに質の高い教育を提供できるように成長していきたい」(ディベンドラさん)
昨今では、「日本が大変なときに、なぜ途上国の支援を?」といった疑問の声もあがっている。しかし、これまで物乞いをして生きてきたような子どもたちが学校に通えるようになり、自分たちの力で立ち上がろうとしている。彼らがようやく掴みかけたチャンスを、私たちは否定することができるだろうか。インドの子どもたちの笑顔が、すべてを物語っている。
・ニランジャナスクール
http://npws.org/jtop.html