深刻な高齢化が進む、日本の農業。農水省の統計では、平成25年の農業就業人口は239万人。そのうち約6割は65歳以上であり、平均年齢は66.2歳となっている。高齢化は上昇の一途をたどっており、歯止めがかからない現状だ。そんな中、若者と農業を結び付ける取り組みが行われている。リクルートジョブズが主催する「新・農業人フェア」だ。(オルタナS副編集長=池田真隆)
■長年培って来た採用ノウハウを活かした農業界への貢献
新・農業人フェアを企画・統括するのは、リクルートジョブズの深瀬貴範氏。同社にとっても前例がない農業分野の就職、「就農」に深瀬氏が取り組んだのには、こんな理由があった。
「平均年齢の高い農業界、今の状態で何十年も経てば更に農業従事者は減り、日本の農業生産量は減少します。また、農業は地域によっては重要な雇用創出産業です。農業が衰退すれば地域の雇用バランスを崩すことにもなりかねない。私たちは長年多種多様な雇用領域における人材採用を支援してきた経験から、就農に関して採用の面から支援ができないか、と思い取り組みました」
同時に、世の中の人の「就農(農業を仕事にすること)」に対する興味が予想以上に高いことも、取り組みのきっかけだった。たとえば2013年に同社が行った調査(※)によると、今まで転職を検討する際に就職先として第一次産業を検討したことのある人は23.5%。
およそ4人に1人は第一次産業を候補として考えており、そのうちの8割近くが、第一次産業の具体的な業種を「農業」と答えた。これほど「就農」への関心があることは大きな発見だった。そういう就農検討者にきちんと情報を届けることで農業を仕事にしたい人の思いを実現できると思った。
※
◆調査対象: 全国の20歳(学生除く)~49歳の男女
過去1年以内に正社員の仕事を探した方
◆調査方法: マクロミルモニター/
マクロミルモニターを利用したインターネット調査(パソコン)
◆有効回収: 3,096サンプル
そのような状況や経験から、新・農業人フェアはスタート。昨年7月の東京を皮切りに、大阪や名古屋など、月1回のペースで開催された。今年2月に行われた東京会場では、およそ1700人を動員。来場者が農業に興味を持ち、農業を身近に感じることでより深く考える機会を提供した。
フェアのメインとなるのは、会場に作られた100以上の相談ブース。就農を考える人のための全国各地の農業法人や、自分で農業を始めたい人のための各自治体の新規就農相談センターが出展し、相談を行う。2月の東京会場では、161のブースが用意された。
■漠然としがちな「農業」のイメージを明確化
新・農業人フェアではブースでの個別相談とともに、来場者向けセミナーも実施。実際に他業種から就農した人や、独立して農業を始めた女性農業家など、モデルケースを紹介することで、就農について、なるべく具体的なイメージを持ってもらえるような仕立てにしている。
「特に都市部では、たとえ農業に興味があっても、具体的な仕事の内容や雇用形態などは分からない人が多いですよね。もちろん、具体化することで農業の大変さを改めて感じるケースもあります。それでも、漠然と『大変そう』などのイメージを持って一歩を踏み出せずにいるよりも、実際に話を聞くなどしながら明確化することで、より具体的な行動に結びつくと思います」(深瀬氏)
就農の理解をより具体的にする取り組みは、フェア以外でも行われた。たとえば同社の求人情報サイト「はたらいく」に、農業法人の特集ページを掲載しそれで実際に採用に結び付いた人の事例を「農業法人就職success事例」として、就農経験者に、農業を選んだ理由や経緯、実際に働いてみての感想などを載せている。
なお、その事例の中には、就農した人の情報だけでなく「雇用した側」である農業法人へインタビューも掲載。募集の背景や採用における課題、応募者にアピールしたポイントなど、採用する側のプロセスが紹介されている。
「他の業界と違い、農業は家族単位、家族経営の色合いが強い。そのため、採用に対するノウハウが確立・蓄積されていない場合も少なくありません。就農者を増やすためには、雇う側の採用力向上に関する取り組みも必要。そのようなことから、採用する側への取り組みも行っています」(同)
新・農業人フェアでは、初めての来場者の胸元に大きく目立つフェアのロゴシールを貼ってもらい、「農業初心者」ということが一目でわかるようにしている。採用する側の出展者はその来場者が相談に来たら、より噛み砕いて丁寧に対応頂くようお願いしているという。
そのほかにも出展者のブースでは、さまざまな属性の来場者に合わせた目線で話せるように、対応者に年齢や性別などの偏りがなるべく出ないよう、働きかけている。
「昨今、若い世代の就農者も増えています。」(同)
平成23年度における39歳以下の就農者は、5年前より2200人増加している。その中でいかに採用力を上げられるか。これも大切なポイントだといえる。
■社会全体の雇用バランスを見据えて
新・農業人フェアを中心に行われる、就農希望者へのアプローチと雇用側への取り組み。そしてもうひとつ、深瀬氏が重要視している項目がある。
2年前に就農フェアに行った際、農業高校の女子高生3人が保護者の方と一緒に来場されました。話を聞くと、『農業に興味があるが、就職の方法がわからないと先生に相談したところ、あまり詳しくないのでひとまずセミナーに行くよう言われた』とのことでした。そこで高校の進路指導の先生の中にも就農についてはあまり詳しく知らない先生もいるのではないかという仮説を立て、ある県立の農業高校にヒアリングを行いました。すると、『農業の進路についてよく分からない』という答えも多く出ました。それを知って、進路指導を行う先生にも就農の理解を深めてもらう必要があると感じました」(同)
このようなことから、高校の進路担当の先生を集めて農業法人を回るバスツアーなどを過去に企画。今後は、新・農業人フェアを中心に、さらに学校関係者や進路指導の先生方へのアプローチも強めていきたいと考えている。
農業という仕事に対する情報が多く発信されることで漠然とした不安をなくし、農業が就職先・転職先として確立されていけば、日本社会全体の雇用バランス安定にもつながっていくはずだ。
農業という仕事は、ITから経済、営業まで「あらゆるジャンルでの職務経験が生かせる仕事になりうる」と深瀬氏は言う。その意味でも就職先・転職先としての農業の魅力を伝える意味があるのではないだろうか。雇用に関する経験を生かしたリクルートジョブズの新たな挑戦。就農への取り組みは、まだまだ続く。
■深瀬貴範:
85年株式会社リクルートフロムエーに新卒として入社・営業~人事で新卒採用・労務管理を経験その後リクルートエージェントでITのキャリアアドバイザーを経験し再び新卒採用・総務を担当。3年前から官公庁担当として新規就農に取り組む