第三回:誰も無関係とは言い切れない―人身売買受け入れ大国、日本

「幸せなセックスって何だろう」

そんなことを考えるようになった。なんとなく楽しく過ぎていく日々。昼間は大学に行き、夜は恋人や友人と笑って過ごす。小洒落たレストランが並ぶ街並みも街角の小さなライブハウスも、田舎から出てきた私には全てが目新しく映ったし、夜の繁華街を歩いても、そこに佇んでいる女性のことなんて気にも留めなかった。下品な色のネオンも、強面の男性も、安っぽい服に身を包んだ女性も、全てが汚れた街並みの一部に過ぎず、違和感などこれっぽっちも感じたことはなかった。「それがこの街」それだけのことだった。「日本は人身売買受け入れ大国である」という事実を知るまでは。(オルタナS特派員=坂口舞)

麻薬・銃器の密売に次ぐ世界第2位の犯罪産業となった「人」の取引、人身売買。それは、人を騙し、どこかに閉じ込めたり連れていったりして自由を奪い、暴力や脅しを使って強制的に働かせ、その利益を搾取することであり、現代の奴隷制度とも呼ばれる。

その種類には、「性的搾取(ポルノ目的、売春・性労働目的)」、「労働目的」、「臓器目的」の3つがあり、世界中でこうした「人」の取引が行われている。

なかでも日本は、その需要を生んでいる受入れ国として国際的に知られており、被害者数は5万人以上に上ると推測されている。昨夜あなたがお店で快楽を貪った相手は、暴力を振るわれながら1日に10回もセックスを強要されているかもしれないし、あなたが普段何気なく食べている安価な海老は、遠い国の養殖場で働く青年が、指を切り落とされた手で捕ったものかもしれない。

日本には、そういう「商品」が溢れている。私たちは知らず知らずのうちに、毎日のようにそれらを「消費」している。

日本での人身売買の代表的なパターンは以下の2つだ。

①国際的に連携したブローカーによって外国人女性が「短期滞在」の在留資格で日本に送り込まれ、数百万円という巨額の「借金」の返済を突きつけられ、売春を強制される。
②歌手やダンサーとして「興行」という合法的な在留資格を取得して来日するものの、派遣先のナイトクラブから資格外活動にあたるホステスの仕事を強要される。契約書を大きく下回る低賃金での長時間労働といった劣悪な条件下で就労させられ、外出も制限される。

こうした事態が20年以上にわたり繰り返されてきたにもかかわらず、日本は対策を怠ってきた。1990年代は、奴隷的な搾取に耐えかねたタイ人の被害者女性が、強制売春を強要していた管理者を殺すという事件が何件も起きた。

2002年には、約400人ものコロンビア人女性を日本に送り売春を強制していた日本人ブローカーの男が逮捕された。しかしその結果は、たった1年10カ月の刑期だった。

15歳にも満たない女の子たちが言葉もわからぬ国に連れて来られて毎日セックスを強要され、知らない男性の子を孕まなければならないという事実に、ただおぞましさをおぼえる。

だって、私は知っている。好きな人のことを考えながらお化粧したり可愛い下着を選んだりするときめきを。優しく触れてもらう心地良さを。心の充足を。何か特別な努力をしてきたわけではないのに、知っている。

どうしてあの子たちはこんな目に遭わなければならないの。あの子たちだって、恋をしていたかもしれないのに。もう二度と、幸せなセックスをすることはできないの。あの、息が詰まるほどの愛おしさや心地良い脱力感を、二度と味わうことはできないの。

そんなのって、やりきれない。

被害に遭っている女性たちに外見でそれとわかるような人はいない。外出が制限されているため外部の人との接点はほとんど無く、客には笑顔を振りまくよう徹底して教育(脅迫)されているため客も気づかない。そして誰にも気づいてもらえず、繁華街の片隅で、今夜も客の下で善がってみせる。殺されないために。

女の子の幸せな瞬間って、何だろう。それは、家族と笑いながら食卓を囲んでいる時かもしれないし、春色の服に心をときめかせて時かもしれない。楽しい音楽に体を揺らしている時かもしれないし、爽やかな初夏の風に髪をなびかせている時かもしれない。

好きな人と心地良いセックスをしている時も、そうかもしれない。

日本でも、遠い国でも。女の子たちの心が、幸福に心地良く泡立つ瞬間をつくれないのかな。そのためにできることは、きっとある。

次回は、そんな幸な瞬間をつくっている、とっても可愛くてエシカルなコスメブランドをご紹介します。