「社会変革の担い手を輩出する」ことをミッションに、女子大学生にフォーカスをした就職支援サイト「ハナジョブ」や女子大学生が社会的課題の解決に取り組むプロジェクトを提供する「ハナラボ」を展開している、角めぐみさんに話を聞いた。(文=白石 ひろこ)

*この記事は、「パラレルキャリア支援サイト もんじゅ」からの転載です。

取材を受ける角さん

取材を受ける角さん

「世界を変えるのは、女性と『女性のように考える』男性である」

これは、「女神的リーダーシップ」という本のタイトルのサブフレーズだ。
利他的、共感力、柔軟性、忍耐強さ、表現力。

女性的資質とみなされるこれらの要素は、これからの社会に必要な、理想的なリーダーシップの資質であることが明らかにされている。しかし、これらのリーダーシップは一体どこで培われ、発揮されていくのだろうか。

「女性の力を、どのように育てたらいいのだろう」
もし、あなたがそんなことを考えたことがあるなら、ぜひ「ハナラボ」という団体を知ってほしい。

■問題意識の芽

角は小さな頃から疑問に思った事を放っておけない性格だったと言う。
「高校生の頃、『ジャージの裾を折ってはいけない』というような小さな規則にも疑問を抱いて、先生に抗議をしていました。些細なことでも、自分の中の違和感をやり過ごすことができない子でしたね」

「皆が一緒である方がいい」、と同質的なものを要求する学校教育。釈然としない想いと、「それぞれの良さを伸ばしていく教育は出来ないのだろうか」という疑念が心の中に生まれていった。

転機は両親の離婚。「将来、自分にも何があるか分からない」と自立して生きていく必要性を実感した。社会で活躍している女性を多数輩出している大学であり、「女子大学の方が、女性が自立しキャリアを積んでいけるような教育を受けられるのでは」と感じたことから東京女子大学に進学。しかし、実際入学して感じた学生の志向は、角が想像していたものとは違った。

「女子大は想像していたよりずっと保守的でした。そして、卒業後、金融機関の一般職に就職し、出産を機に仕事は辞めてしまう人が多かったのです。『能力は高いのにもったいないな』と思いつつ、『自立して働きたい』という想いが強い自分との差を感じていました。ただ、女性学の授業があるなど、女性の働き方に対して考える機会はたくさんありましたね」

卒業後、角はIT企業に就職。テクニカルライターとして勤務していたが、業務内でWeb制作の仕事を手がけるうちに、デザインの専門性を高めたくなっていった。6年勤務した後退社し、マルチメディアスクールや、武蔵野美術大学の通信教育課程でも学んだ。

「美大は、『デザインの力で社会に何が出来るか』ということを学ぶ学科であったため、NPOに取材に行ったり、自分の問題意識を作品に投影したりという活動をしていました。そうやって考え続けるうちに、自分が扱いたい課題は『女性の生き方、働き方』であるということに気づいていったのです。ただ当時には、どのように作品に落とし込むかまでは、アイデアが湧きませんでした」

その後「女性の生き方、働き方」というテーマで、社会にデザインの力で何が出来るのか、どんな作品なら自分の問題意識が社会に伝わるのか、角はずっと考え続けるようになっていったという。

■女性の可能性を広げていくのは自分の使命

そんなある日、母校で開催された在校生と卒業生が語り合う場に招かれた角は、自分が在籍していた時代の学生の意識と今の学生がほとんど変わっていない事に気づく。女性の働き方は、選択肢も可能性も増えているのに未だ「就職は総合職か、一般職か」ということに学生は悩んでいる。

「社会に力が発揮出来ないことは本人と社会、両方にとってもったいないし、『この現状を何とかしたい』と思いましたね。社会に出る前の女子学生に視点を変えられる機会を提供できれば、もっと社会で力を活かせる存在に変わっていけると思ったのです」

徐々に強くなる問題意識。女性の働き方という社会課題にアプローチしたいという想いが積み重なったある日、ハナジョブの構想は角のもとに「降りてきた」という。

今までのWeb制作の経験、美大でのデザインの学び、持ち続けた問題意識、すべてが掛け合わさってハナジョブは生まれた。

「ハナジョブの最初の構想は、女子大生向けのリクナビみたいなイメージで、女性の役員登用比率や平均勤続年数などを偏差値化して掲載しようとしていました。ただ、例えば伸びている会社は雇用に積極的なので、どんなにいい企業でも勤続年数は短めの数値になってしまうなど、数値と実態は乖離があるということに気づきました。なので、そこで働く人のリアルな声を伝えられるようにしようと、女性のワークスタイルインタビューを多数掲載するサイトにすることにしたのです」

仕事は、楽しそうに働く人も、つまらなそうに働く人もいる。
ただ、一見、つまらなそうに見える仕事でも、自分なりのやりがいを見つけることが出来れば、仕事は楽しくなる。角がサイトのインタビュー記事を通して、女子学生に伝えたいのはこんな「発想の転換」、「考え方」だと言う。

最初は自分の考えを周りに話し、協力者がいないか助けを求めることで、取材者を紹介してもらったり、作業を多少手伝ってもらったりしていた。ところが、徐々に1人で運営することに限界を感じ、学生記者を募集し、学生と共に活動を広げていくことになった。

「活動当初、学生はこちらが伝えたいことを受信し、社会へ発信してもらう立場だと思っていました。しかし、記者活動やイベントの運営などの活動を共に進めていくうちに、自分が期待するよりもずっと女子学生の能力が高いことに気づいたのです。もっと彼女たちの力を伸ばし、活かしていける場所があれば、受信するだけの存在に留まらないだろうと考え、ハナジョブ以外でも、そんな場所をつくろうと思いはじめました」

こうしてハナジョブとは別に、インターン生が現場に入って社会課題解決に取り組む、ハナラボという活動も始めていくことになった。

■動かないとはじまらない

special_img22_02ハナラボは、企業や自治体の抱える課題に対し、女子大生インターンチームが発想力や共感力、柔軟性を活かして解決のためのアイデア出し、実践までを行うプログラムを開催している。女子学生と活動する時に、角は気をつけていることがあるという。それは、「なるべく手を差し伸べない」ということ。

「成績のいい学生ほど、与えられたことをこなすことがうまいのです。人の気持ちを読み取ることには長けているけど、自分のことになると答えにつまる学生が多い。また、『どこかに正解がある』と自分の外に正解を求め、誰かに教えてもらおうとする傾向にあります。それは大人たちが先回りをして、答えや先に進むべき道を与えられ続けてきた結果、自分で考える機会を奪われてきたからではないかなと思います」

活動で前提になるのは「答えのない課題に立ち向かい、自ら考え行動すること」
ハナラボのインターン生は、自分で考えて、自ら動かないとなにもはじまらないことを学んでいく。

そして自ら考え、アイデアを出すだけではまだ、少し足りない。付随して必要なのはリーダーシップであるという。

「アイデアを出せただけでは実現しないですよね。『効率よく、ロジカルな』社会では、その枠から外れたようなアイデアは潰されてしまうかもしれない。けれども、一歩踏み出せるリーダーシップがあれば、新しいアイデアが社会の中で形になっていくかもしれない。だからこそ、創造力とリーダーシップ、両方を育成していきたいのです」

それぞれが自分のリーダーシップのスタイルを見つけてほしい、と角は語る。
リーダーシップとは常に先頭で引っ張ることの出来る能力を指すのではなく、自分の意思で行動をし、他者と協力しながら目標を達成するということ。他者と関係性を育み、目標に向かっていくためには、周りをフォローするなど、様々なリーダーシップが必要になることも在る。だからこそ、自分らしいスタイルを見つけて行動してもらいたいのだ。

■一歩を踏み出す勇気

とにかく、若いうちに行動して、失敗の数を重ねることが大切だと角はいう。

「私は、高校も大学も落ちこぼれで、決してリーダータイプではありませんでした。イベントや飲み会の主宰も参加も苦手。『人前に出たり、団体を立ちあげたりするタイプではない』とずっと思い込んできました。それでも使命を持って小さな行動を積み重ねていけば、『自分でも社会へ出来ることがある』と気づいたのです」

一歩踏み出すことは勇気と使命が見つかれば誰にでもできる。日常で感じた違和感を、問題意識として大切に持ち続け、経験を重ねることで角はそれが使命になった。

けれども、もっと若い時期に女性が、リーダーシップを発揮するチャレンジや、失敗出来る場所があれば、一歩踏み出すのも早くなるかもしれない。ハナラボは、そんな場所を提供し、社会変革の担い手を輩出していきたいのだ。

「失敗も成功も、行動しなければ何も得られない。失敗を避けて行動しないということが、最も成長がないと思っています。失敗すると、そこから学んで次の一歩が見えてくるけれど、行動しなければ先の一歩は見えてきません」

ハナジョブ、そしてハナラボの活動を作り上げていくことも失敗の積み重ねだった。
それでも、そんな日々を楽しそうに角は話す。

「数多く失敗してきたので、もう慣れてしまいました。その時はもちろん落ち込んだけれど、長い目で見たらすべて活動にプラスになっている。あとは、忘れっぽいので、失敗も忘れちゃうのです」

■続けてきたから見えてきたこと

そうして活動を続けてきたハナラボ。現在では、プログラムを通じ、共感力、柔軟性など「女性的資質」を活かした成果を社会に示せるよう、実績を積み重ねている最中だという。

「ハナジョブの活動当初は、企業に考え方を変えてもらい、女性の力がより企業、社会へ活かせるようになってもらいたいと考えていました。しかし今は、企業という一つの車輪だけではなく、女性、パートナーでもある男性、企業、社会、このどれもが動いて、やっと全体の変化につながると考えています。だからこそ、女性が、とか企業が、と部分を指摘するのではなく、まずは『自分自身が変わらないと』と思える人を増やしたいと思っています」

1人1人が社会を作る一員だという当事者意識を持ってほしい。
出産をした女性が、子育て支援の活動へ意識が芽生えることがあるように、誰もが社会のどこかにひっかかりを持つ瞬間があるはず。

「自分は女性で、自立して働きたいという想いから、女性の働き方への問題意識につながりました。ただ、ハナラボのような形になっていくとは夢にも思いませんでしたね。それでも今、ハナラボに参加してくれた学生たちがハナラボを『自分たちの活動』だと、当事者になってくれていることが嬉しく、続けることが出来ているのです」

未だ性別役割意識が根強い日本社会。
角は、女性の権利を勝ち取りたいのではなく、女性も男性も本来持っている力を活かして変革者になっていってもらいたいのだ。

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