社会問題や世界の旅情報を配信するウェブメディア「TABI LABO(タビラボ)」は、20代の若者から支持を集め、立ち上げ半年で3000万PVを達成した。運営しているのは、25歳、30歳、52歳と世代が離れた3人。3人は口を揃えて、「匂いのあるものをつくり、カルチャーを形成したい」と話す。(聞き手・オルタナS副編集長=池田 真隆)

タビラボを運営する、成瀬勇輝さん(左)、佐々木俊尚さん(真ん中)、久志尚太郎さん

タビラボを運営する、成瀬勇輝さん(左)、佐々木俊尚さん(真ん中)、久志尚太郎さん

――今年2月22日、成瀬勇輝さん(25)と久志尚太郎さん(30)はタビラボを立ち上げました。そして、8月8日、共同編集長として佐々木俊尚さん(52)の就任を発表しました。世代が異なる3人はどのようにして出会ったのでしょうか。

成瀬:私と久志との出会いは、2012年8月です。東京で開かれたイベントで、一緒に登壇したのがきっかけです。私は、海外の起業家を訪ねる旅からちょうど日本に帰国しており、久志は宮崎で地域活性に取り組んでいました。

お互いのバックグラウンドや考えを話していると、すぐに意気投合しました。私から宮崎に久志を訪ねに行ったり、久志も東京に会いに来てくれました。

二人でビジネスをしようと決め、2014年1月末に、ナンバーナインを創業しました。そして、二人とも海外を見て回った経験から、旅が好きでした。旅する文化をつくることをめざして、2月22日に「タビラボ」をオープンしました。

――2月22日にオープンしたときから、佐々木俊尚さんもメンバーとしてかかわっていたのでしょうか。

佐々木:はい。かかわっていました。彼らとの出会いは、2013年の夏ごろでした。共通の友人の紹介で、うちで食事をしました。

年齢は30歳ほど離れていますが、ITリテラシーや文化観・価値観が似ていると感じました。具体的には、紙よりもモバイル、保守よりもリベラル、多様性重視などです。

そして、なにより彼らは「良い人」たちでした。良い人とは、ただのイエスマンということではありません。言いたいことはしっかりと議論し合いますし、ネットで人を無意味に冷笑したりしません。だから、年齢の差は気にならなかったですね。

――タビラボの運営会社は、5月15日付けで、ナンバーナインから、株式会社TABI LABOに変わりました。この会社の設立にあたり、成瀬さん、久志さんに加えて、佐々木さんも資本をだしております。佐々木さんは2003年にフリージャーナリストになりました。これまでにも、いくつかお誘いの話はあったかと思うのですが、タビラボの運営会社に資本まで出して、深くコミットした理由はどこにあるのでしょうか。

佐々木:フリーになってからこれほどまでに一つの会社にコミットしたのは初めてです。約30年間、メディア業界にいて、古い知識が役に立たなくなってきたと実感しています。そして、テレビ離れや雑誌・新聞の発行部数の減少などメディアの衰退が目立っています。

このような状況こそ、イノベーションが起きる確立が高いと見ています。そんななか、一読者として見ているのではなく、プレーヤーとして入ってみたいと思ったのです。

――第一印象で相性の良さを感じても、付き合っていくうちに違和感を覚えることもあります。3人が価値観を共有し続けるために工夫していることはありますか。

久志:一緒にご飯を食べることですね。毎週、宮崎から野菜が届くので、当番で誰かが料理します。朝昼晩と同じ釜の飯を食うことで、家族のような一体感を覚えます。

成瀬:社員10人ほどで、一緒にキャンプやフェスに行くこともあります。だから、休みと仕事の区切りがありません。休日に遊んでいても、自然とタビラボの話になっています。もちろん、まったく苦ではありません。

久志:会社のメンバーとは、人間的に深くつながりたいですし、雇用関係も意識していませんね。

――3人それぞれの役割を教えてください。

久志:ジャーナリズム、文化、メディアなどビジョンを担っているのが、佐々木さん。そして、コンテンツ関係は成瀬。そして、私が営業や経営全般を担当しています。

成瀬:編集会議は、週に数回あります。直接会って、毎回2~3時間ほど。特集企画内容や今後の方向性について話し合います。

佐々木:ものすごい量の時間を付きあわされているよ(笑)。私は毎朝、キュレーションとして、英語の記事の見出しを1000本ほど見ています。そのなかから、一日5~6本ほどを、タビラボ用に送ります。

――どういった記事の見出しを選んでいるのでしょうか。

佐々木:社会的価値の高いものです。そして、世の中で起きている複雑なことを簡単にしているものや、単なる感動ではなく、思想や哲学があるものです。

――記事の見出しを決めているのは誰でしょうか。

成瀬:私です。見出しに関しては、コンテンツの特質上、SNSで広がっているので、一番重視しています。見出しを40本ほど出して、メンバーと相談して決めています。

――タビラボでは、文化をつくることをめざしています。その展望を教えてください。

久志:最も重要視しているのが、カルチャーを形成すること、匂いのあるものをつくることです。これまでネットは老若男女が入り混じった雑多な世界でしたが、アイデンティティを明確にして、タビラボの価値観を共有できる読者をコミュニティ化していきたいです。

佐々木:バイラルは、コンテンツを拡散させるための手段です。だから、ただPVを稼ぐために、面白い動画をいくら紹介したところで、目的がないと意味がありません。

みんな、今のインターネットに不満を持っているはず。2チャンネルやウェブニュース記事に対するコメントを見て、唖然としたことはないでしょうか。

1970年にマガジンハウスから発行された雑誌「ポパイ」のように、ウェブメディアでかっこいい文化をつくっていきたいと考えています。

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