私たちにとって、当たり前の存在である「皮膚」。しかし生まれつきの遺伝子の変異により、ちょっとぶつかったり、こすったりしただけで全身の皮膚が剥がれたり、水疱ができたりしてしまう難病があります。「表皮水疱症(ひょうひすいほうしょう)」。この難病と闘いながら、全国に1000人ほどいるとされる表皮水疱症患者を支援する団体を立ち上げた女性に話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

日常の何気ない刺激で、皮膚がただれる難病

ちょっとした摩擦や刺激で皮膚がただれる表皮水疱症の子どもにとっては、チャイルドシートのベルトさえ凶器になり得る

「NPO法人表皮水疱症友の会 DebRA Japan(デブラジャパン)」(北海道)の代表を務める宮本恵子(みやもと・けいこ)さん(63)は、生まれてからずっと、表皮水疱症と共に生きてきました。

表皮水疱症とは、どのような病気なのでしょうか。

皮膚組織は、表皮・真皮・皮下組織の3層から成っており、それぞれの層を接着させているのが「タンパク遺伝子」と呼ばれる組織ですが、表皮水疱症はそれぞれの皮膚を構成するタンパク遺伝子に変異(欠損)があり、通常では考えられないようなちょっとした刺激や摩擦で、簡単に皮膚が剥がれたり、水疱ができたりする遺伝疾患です。現在のところ、治療法は見つかっていません。

お話をお伺いした宮本恵子さん。京都市内のカフェで

「本当にちょっとしたこと、たとえばモノや人などに軽く皮膚を擦った、鞄を腕にかけていた、普段身に付ける衣服のタグや縫い目がこすれた、椅子に座ったときの椅子との摩擦、寝るときの布団との摩擦…、日常の本当に些細なことで、皮膚が剥がれてしまいます。日々その痛みやヒリヒリ感に耐えながら、一生付き合っていかなければいけません。全身火傷を負っているような状態です。欧米では、皮膚のもろさを蝶の羽にたとえて『バタフライ・チルドレン、触ると壊れる子どもたち』と言われています」と宮本さん。

主な症状として、水ぶくれやただれのほか、爪の変形や毛髪の欠損がみられます。一年中いつも体に傷がある状態なので、傷口が化膿して感染症や潰瘍、皮膚がん、内臓障がいなどの合併症とも隣合わせの状態だといいます。

皮膚だけでなく、粘膜にも同じ症状が現れる

生まれてからずっと表皮水疱症と闘ってきた宮本さん。指間癒着は、表皮水疱症の症状のひとつ

こういった症状は表皮水疱症患者の皮膚だけでなく、口の中やまぶた、眼球、耳の中や食道など体の内部の粘膜にも現れます。

「固いものを食べたりすると口の中や食道の粘膜が傷ついてしまい、同じようにただれや水疱ができてしまいます。そのため、患者さんはあまりたくさん食べることができず、慢性的な栄養不良や低成長をもたらすのも症状の一つです」

表皮水疱症患者にとっては、ふわふわのぬいぐるみもまるでトゲのあるサボテンのよう。表皮水疱症患者の日常を表した1枚

「食べることが難しい代わりに、液体タイプの栄養剤やドリンク等をお医者さんから処方されるのですが、これが正直あまりおいしくなくて、こちらもあまり利用したがらないという人が多いのが現実です」

皆さんは想像できるでしょうか。少しぶつけたりかすったりしただけで皮膚が剥がれ、着たい洋服も着られず、硬いものを食べただけ口の中がただれる毎日を…。

日常的なケアを怠ると、最悪は死に至る場合も

毎年参画している啓蒙活動の一つ、日本皮膚科学会総会での患者会展示ブース。活動の写真掲示や会報・冊子等の配布を提供している。2018年は広島で開催された。右端が宮本さん、左端は夫でDebRA JAPAN副代表の満さん

「お医者さんは、傷は診てくれるけれど、傷以外は診てくれません。しかしこの病気の大変な部分は、日々のケアです」と宮本さんは指摘します。

「傷口から化膿したり、炎症が起こったりすることを防ぐために、患者さんは1日3時間も4時間もかけてケアしています。傷口に貼っているものを一度全部剥がして、かさぶたなどはきれいにとって傷口をよく洗浄してから、新しく創傷被覆材という傷にくっつかないシリコン製のドレッシング材(創傷被覆材)を貼る。この作業を、朝も夜も繰り返します。傷口は痛いですし、新たな摩擦で傷を作ってしまうこともあるので、時間も労力も非常にかかるんです」

「ドレッシング材」と呼ばれるシリコン製の創傷被覆材。貼付する箇所に合わせ、傷に出来るだけ密着密封させることが傷をきれいに早く治癒させる湿潤療法となる

「水疱も大敵です。通常であれば水疱ができると、そのままの大きさで徐々に治っていきますよね。しかしこの病気は、皮膚組織の接着機能が失われているため、一度水疱ができれば、放置するとそれがどんどん大きくなっていくんです。水疱が広がっていくと、皮膚がびらん状になって、化膿するという悪化を招きます」

「皮膚の病気だと軽く見られがちですが、毎年のように子どもたちが合併症である皮膚ガンで亡くなっています。適切なケアを施さないと、最悪死に至る、油断はできない病気なのだということもしっかり伝えていかなければならないと思っています」

生きるためのケアを

水疱を潰したあと、または皮膚が剥けた傷口にそのままドレッシング材を貼付する。「周辺の皮膚も弱いので、少し大きめに貼ることが必要。皮膚に直接テープを貼れないので、テープ代わりに大きく貼付し、その上からソックスやタイツで固定させています」(宮本さん)

「体中にでき続ける水疱は、気づかないで放置するとどんどん大きくなる。毎日必ず水疱があるかどうか確かめ、注射針で潰し、ガーゼや包帯をあてて…、ケアに膨大な労力と時間が必要なため、患者やその家族はいつのまにか『ケアのため』に生きがち。そうではなく、やりたいことをやるために、『生きるため』にケアしよう、そう伝えていきたい」と宮本さん。

彼女がこう思い団体立ち上げに至ったきっかけの一つが、2008年、ニュージーランドから交換留学生として来日した同じく表皮水疱症患者であるハンフリー君との出会いでした。

2017年、ニュージーランドで再会したハンフリーさんと宮本さん。「お互い皮膚ガンを繰り返していることから、必ず検査はしないといけない、まだまだ元気に人生を楽しみたいからね、と言葉を掛け合いました」(宮本さん)

「この病気の方たちは粘膜にも症状が出るため、食べることが難しく、食が細くて小柄な人が多いのが特徴なのですが、ハンフリー君は体つきが大きくて、交流会の席では本当に何でも口にしていました。みんなの前で、おいしそうに唐揚げさえ食べていたんです。私たちが食べられないと思っていたものを、ハンフリー君は食べられる。どうしてだろう?と目からうろこでした」

ハンフリー君を注意深く見ていると、日本の患者たちが「おいしくないから」とあまり口にしなかった栄養ドリンク剤を、彼はなんと1日に8本も飲んでいたといいます。

「『まずくないの?』と尋ねると、彼はこう答えたんです。『薬と思って飲まなきゃだめだ』と。『僕が人生でやりたいことをしたり、楽しんだりするためには、この栄養剤が必要なんだ。生きるために、ケアをしているんだ』と。その言葉に、ハッとさせられたんです。私たちはケアをすることに必死になりすぎて、ケアをしてからのことを考えていなかったのではないか、人生を楽しむことを忘れていたのではないかと」

患者会発足時は小学生だった萌さんと。「現在は高校生となり、毎年地元で支援してくださる団体が主催するチャリティー講演で、2年前から一緒に登壇しています」(宮本さん)

「そうじゃなくて、自分の人生を生きるために、病気と付き合っていくことが大切だと気づかされました。そのためには、幼い頃からこの病気を理解することと、自分でケアできるということを知る必要があると強く感じました。ケアさえできれば、あとは自由なんだということを伝えていく必要があると思ったんです」

全国に1,000人の患者に寄り添う

2017年、全国交流会の名古屋大会で子どもたちと。「北海道から静岡から大阪から栃木から、オーストラリア在住のご家族も、この日のために集まり、表皮水疱症の子どもたちの応援ヒーローたちと、満面の笑顔でファイティングポーズを撮りました」(宮本さん)

日本国内には、表皮水疱症と診断を受けた人が1,000人ほどいるとされ、まだ診断されていない人も含めると2,000人以上が、この難病と闘っているといいます。

2009年、宮本さんたちは表皮水疱症のガーゼや包帯等医療材料の負担軽減と外国製ドレッシング剤の国内認可を求めて署名活動を行い、47万余りの署名を集めました。

2010年には「在宅難治性皮膚疾患指導処置管理料」の制度が施行され、ガーゼや包帯等衛生材料と創傷被覆材の支給に保険点数がつき、翌年には念願だったシリコンドレッシング材の国内許可も下りました。「これが患者会の原点でもある」と宮本さんは笑顔を見せます。

署名活動の際には、全国各地にいる会員が新聞に掲載されたことも大きな反響を呼んだという

2008年に活動を開始してから現在に至るまで、夫の満(みつる)さんと協力しながら、患者同士をつなぎ、情報交換を行う交流事業の他、表皮水疱症のガイドブックの作成や相談窓口の運営、セミナーやシンポジウムの開催を行ってきた宮本さん。

「表皮水疱症だからと自分の価値を下げないでほしい。ドレッシング材の登場で、生活の質はぐんと上がりました。日常の動作が軽くなり、良い状態を保つことができるようになったので、それを生かして、友達を作り、好きなことをして、表皮水疱症だからという制限をかけずに自分の人生を謳歌してほしい。堂々と自信を持って、たくましく生きてほしいと願っています」と笑顔で語ってくれました。

表皮水疱症の子どもを支援できるチャリティーキャンペーン

表皮水疱症で生まれた赤ちゃんの誕生を一緒に喜び、これから一緒に闘うための希望を届けるハッピーボックス(写真は以前の発送内容)

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、DebRA Japanと1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

「JAMMIN×DebRA Japan」コラボアイテムを1アイテム買うごとに700円がチャリティーされ、表皮水疱症を持って生まれた赤ちゃんとその家族に、誕生を共に喜び、そして毎日皮膚の痛みと闘うことになる赤ちゃんが心身共に安らげるアイテムを詰め込んだ「ハッピーボックス」を届けるための費用になります。

「JAMMIN×DebRA JAPAN」1週間限定のチャリティーアイテム。ベーシックTシャツのカラーは全8色、価格は3,400円(チャリティー・税込)。写真はコラボデザインのパーカー(7,720円(チャリティー・税込))。他に七分袖Tシャツやキッズ用Tシャツ、バッグなども販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、ナイフの柄の上に咲いた一輪のエーデルワイスの花。花言葉は「勇気」で、痛みを堪えながら生きる表皮水疱症患者への社会の理解が、患者さん一人ひとりの勇気を奮いたたせ、人生を花開くことにつながるというメッセージを込めました。表皮水疱症の象徴である蝶々を花の周りに描き、明るく輝く未来をイメージしたデザインです。

チャリティーアイテムの販売期間は、12月3日〜12月9日までの1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページでは、表皮水疱症について、宮本さんへのより詳しいインタビューを掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

全身の皮膚が剥がれ続ける10万人に一人の難病「表皮水疱症」。「ケアのために生きる」のではなく「生きるためのケア」を〜NPO法人DebRA JAPAN

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。2018年9月で、チャリティー累計額が2,500万円を突破しました!

【JAMMIN】
ホームページはこちら
facebookはこちら
twitterはこちら
Instagramはこちら


【編集部おすすめの最新ニュースやイベント情報などをLINEでお届け!】
友だち追加