複数の企業がノウハウやアイデアを供出しあい、新たな価値を創造する「オープン・イノベーション」。これにNGO/NPOや自治体、大学、市民などが加わって、地域の社会課題を解決するという新たな動きが加速してきた。これをOSI(オープン・ソーシャル・イノベーション)と名付けたい。(オルタナ編集長=森 摂、オルタナS副編集長=池田 真隆)

「LOCALGOOD YOKOHAMA」を手がけたアクセンチュアの坂本啓介シニアマネージャー(右)、横浜コミュニティデザイン・ラボの杉浦裕樹代表理事、アクセンチュアの内田篤宏氏

「LOCALGOOD YOKOHAMA」を手がけたアクセンチュアの坂本啓介シニアマネージャー(右)、横浜コミュニティデザイン・ラボの杉浦裕樹代表理事、アクセンチュアの内田篤宏氏

OSI(オープン・ソーシャル・イノベーション)は21世紀の日本や世界を大きく変える可能性すら秘めており、企業のCSR(社会的責任)活動やCSV(共通価値の創造)の新しい形としても注目されそうだ。

特定非営利活動法人横浜コミュニティデザイン・ラボ、(横浜市中区)、アクセンチュア(東京・港)、横浜市大、横浜国大、首都大学東京など7者は10月3日、共同で横浜市の地域課題を解決する「LOCALGOOD YOKOHAMA(ローカルグッドヨコハマ」の立ち上げを正式発表した。

横浜市内の地域課題の解決に向けて、ITやビッグデータを駆使して市民とともに取り組むためのプラットフォームだ。6月から実験的な稼動を続けてきたが、10月から運用を本格化する。

同プラットフォームでは、同市の地域課題を分かりやすく可視化するために3Dマップ(グーグルアース)上に表示し、NPO団体などの活動を紹介。10月3日からは機能を拡充し、市民がスマートフォンやツイッターを通して地域課題を投稿できるようになった。投稿された市民の声は、3Dマップ上に表示され、各地域の課題を解析できる。

市民の声を、3Dマップ上に可視化し、地域課題を分析する

市民の声を、3Dマップ上に可視化し、地域課題を分析する

さらに、今回の機能拡充で、クラウドファンディングとスキルマッチングができるようになった。これにより、市民の声で可視化された地域課題を解決するために、資金調達や市民の連携が可能になった。

アクセンチュア ITアウトソーシング坂本啓介シニアマネージャーは、「地域課題の解決を行政だけに頼るのではなく、市民たちでもできるプラットフォームを目指したい」と話す。

ワークショップでは、大阪を変えるためのアイデアが続々と出される

「大阪を変える100人会議」の ワークショップでは、大阪を変えるためのアイデアが続々と出される

こうした動きは、実は日本の各地で始まっている。大阪ガス、地域の中堅企業、自治体の首長、NPO、市民らが集まって2012年に始動した「大阪を変える100人会議」は定期的にソーシャル・ダイアログを開催、地域の社会課題の解決を目指している。

具体的には3カ月に1度、大阪府下のNPO・社会起業・行政・企業・教育機関(教授・学生)・地域活動・中間支援組織などのリーダーたちが集まり、社会テーマ・セクター・組織の壁を越えて蜘蛛の巣状にソーシャルネットワーキングを広げる。そこから複数の「100人会議分科会」や、1団体ではできなかった社会課題の解決プロジェクトも多数生み出されてきた。

鎌倉では、IT企業を中心とした協同プロジェクトが起きている。「カマコンバレー」だ。法人会員18社、個人会員57人とまだ小規模だが、月に1回開催する定例会には、70人以上が参加し、盛り上がりを見せている。

発起人のカヤック柳澤大輔社長は、「鎌倉をより良くしたいという思いで立ち上げた。『競合他社』という枠を超えて、みんなでアイデアを出し合い、協力することで地域を活性化していきたい」と話す。

神戸市では、公益財団法人神戸国際医療交流財団などの研究機関や企業が地域の医療施設のハブとなり、医療技術の発展や若手人材育成を目指す取り組みが始まった。10月2日、開所式を開いた伊藤忠メディカルプラザ(神戸市・中央)がそれで、建設費5億円は、伊藤忠商事が寄付した。

若手医療従事者の育成をめざす伊藤忠メディカルプラザ

若手医療従事者の育成をめざす伊藤忠メディカルプラザ

もともとオープン・イノベーションは、カリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネスのヘンリー・チェスブロウ客員教授が提唱した考え方で、日本企業の間では10年ほど前から注目されてきた。

日産自動車が積極的に行なってきたほか、富士通も今年3月から立教大学と共同プロジェクトを進めている。学生が普段不便だと思っていることや問題点を、富士通の技術を使って解決する新商品・サービスのアイデアを集める。

こうした試みは「アイデアソン」(Ideathon)と呼ばれ、テーマを定めた上でチームごとにアイデアを出し合い、それをまとめていく形だ。これをオンライン上で行なう「ハッカソン」(Hackathon)、特定の社会課題について少人数のグループに分かれて話し合う「ワールドカフェ」や「フューチャーセンター」も、オープン・イノベーションの一種とされている。

企業が社会基盤の上に成り立っている以上、その社会が抱える課題解決に企業が協力するのは自然な流れであり、企業側にも自社製品やサービスの利用につなげたいという戦略がある。

企業のCSR活動は、一社だけではノウハウや人的リソース、資金などの限界があるため、業種や規模を問わない複数の企業が協働することや、そこにNGO/NPOや自治体が関与することで、活動の実効性をさらに高められるメリットがある。こうした観点から、オープン・ソーシャル・イノベーションは今後も日本の各地で生まれ続け、地域を大きく変えていく可能性が高い。

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