NPO法人Homedoor(ホームドア、大阪府大阪市)は、大阪市内のホームレス問題と放置自転車の両問題を解決する。路上生活者や生活保護受給者をに就労の機会を提供し、自転車対策の一環で、シェアサイクルを運営する。2010年に任意団体を設立し、今年で6年目となるが、行政や企業と連携し、社会復帰へのドアを広げている。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
そのシェアサイクル事業とは、HUBchari(ハブチャリ)。仕組みとしては、就労困難者に自転車の清掃・修理を依頼し、その自転車を一般利用者に貸し出している。就労困難者へは、自転車を修理してもらうだけでなく、利用者への接客対応も任せる。就労困難者は時給制(838円から)で収入を得て、定期的に就労相談員とも面談をする。働きながら、就労への意欲を高めていくのだ。
現在、月に500―1000人がハブチャリを利用している。利用会員は、3種類ある。1回利用は100円から、1日利用は700円から、月利用は980円からだ。
自転車の貸出・返却ができる場所を、「ポート」と呼び、大阪市内に18カ所ある。「ノキサキ貢献」として、大阪ガス、スカイビルなどが土地の一角を提供している。活動に共感した企業・個人が、自転車を寄付することもある。
同団体が就労困難者に雇用を生み出しているのは、ハブチャリだけではない。同じ仕組みで展開する、「HUBgasa(ハブガサ)」もそうだ。状態が良いまま使用されなくなった傘を寄付してもらい、就労困難者に掃除・ステッカー貼りをしてもらい、ハブガサとして再利用する。
リメイクされたハブガサは、同市内の美容院やポートなどで、1本100円で販売している。
行政から委託された事業でも、就労困難者の雇用を生み出している。放置自転車対策として駅前での啓発活動を行う。こちらの仕事も時給制で応募している。
これらの仕事で、最大で1日に60-70人まで雇用することができる。現在、同団体に登録している就労困難者は60人弱。
同団体の特徴としては、収入を与えるだけでなく、就労に関するカウンセリングも提供している点だ。路上生活から抜け出すため、ビジネスマナーから、履歴書の書き方、面接トレーニングを行う。
これまでに同団体で働いた人は130人おり、その内の55%が次の仕事や家を見つけるなど、次のステップに及ぶ。
孤独も防ぐ交流施設
今後の計画として、ホームレス状態になる前の「予防」に特化した活動を行うという。それが、「&ハウス(アンドハウス)」という施設の運営だ。同団体のオフィスの一角を、改装して、昼間に一休みすることや洗濯、自分で料理ができるキッチンを併設した空間にした。
路上生活者にとって、24時間営業の飲食店などがセーフティネットとして活用されている。しかし、その店舗に泊まるだけでも、その日稼いだ額を使ってしまうため、路上生活から抜け出せない負のスパイラルに陥ってしまう。
そこで、無料で一休みできる施設をと、&ハウスを立ち上げた。今は、平日10:00-18:30、土曜日12:00-18:30が営業時間だが、いずれは宿泊機能をつけて24時間体制で運営する施設も運用していく考えだ。
アンドハウスでは、休むこともできるし、就労に関する相談も行っているので、日に10-30人が訪れる。路上生活者は、収入もないが、同じくらい「人とのつながり」が希薄だ。そのため、&ハウスではもちろんのこと、同団体が提供する仕事では、人との交流を意図的に与えている。
同団体は、ホームレス状態生み出さないために、さまざまな事業を行っているが、どれもアイデアは路上生活者との会話から生まれた。同団体の理事長・川口加奈さん(24)は、「おっちゃんたちの、あったらいいなを実現している」と話す。
路上生活者への偏見をなくすための啓発活動「釜Meets(カマミーツ)」もそうだ。当初は、川口さんらが釜ヶ崎でモーニング喫茶を運営しており、同地で暮らす人にヒアリング調査をしていたら、「おれがこの街を案内しているから、同級生を連れてきたら?」と。この一言で、カマミーツは始まった。
川口さんは、「もしかたら自分もホームレスになっていたかもしれない。他人事ではない」と言う。多くの路上生活者と出会ってきて、ホームレスになった経緯を聞くと、「誰にでも起こり得ること」と思うようになった。
川口さんは14歳のとき、炊き出し現場で初めてホームレスの人と話した。それまでは、ホームレスになるのは、自業自得だと思っていた。しかし、派遣切りにあった契約社員や親から虐待を受けて、絶縁された者など、とても「自業自得」という言葉では片付けられない理由ばかりだった。
「誰もが、何度でもやり直せる社会へ」――ホームドアは、おっちゃんたちの活動に合わせて変化する。
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