みなさんは国産のアパレルブランドと言ったら、何を思い浮かべますか。今回ご紹介するのは、日本が誇るものづくりの技術力を活かし、世界的ブランドをつくろうとする挑戦者のお話です。(早稲田大学高野ゼミ支局=松岡 沙生・早稲田大学法学部2年)
■激減するアパレル国産比率
まず日本国内のファッション業界が今どうなっているか知っていますか?現在、日本で流通しているアパレル商品の「国産比率」はとても低い状況です。1990年のアパレル国内生産比率は約50%でしたが、1991年をピークに2014年時点で約3%まで下がっています。(日本繊維輸入組合「日本のアパレル市場と輸入品概況」)
アパレル業界では産業構造の問題として、工場で商品が作られてから着る人に届くまでに商社や卸などの仲介業者が入り、メーカーが消費者のニーズに合わせて低価格な商品を好めば好むほど、そのしわ寄せが工場にきてしまうという状況があります。
そのため、過剰に素材を安くしたり、人員削減を余儀なくされ、労働賃金を抑えるために海外に工場を移したり、そもそものビジネスが破綻したりしています。日本の工場も大幅に減少しました。
しかしながら、世界的にも名が知られているアパレルブランドは 「メイドインジャパン」 への信頼が厚く、製造を日本の工場に委託しているケースも多くあります。今も、全国各地に点在する工場に技術は息づいているのです。
そんな世界的ブランドから依頼を受けているアパレル工場に目を向けて、日本から世界に挑戦しようとしているブランドが「ファクトリエ」です。
ファクトリエは、日本初のファクトリーブランド専門に扱うファッションブランド。ファクトリーブランドとは、商品を製造する「工場」自身のオリジナルブランドのことです。
ファクトリエを立ち上げた山田敏夫さんは、「メイドインジャパンを守り、工場のつくり手と消費者である使い手を適正な価格でつなぎたい」という思いを持ちます。
■メイドインジャパンへのこだわり
山田さんがメイドインジャパンへの思いを強くもったきっかけは、フランス留学中に「日本には本物のブランドがない」と言われたことにあります。
その留学中、GUCCI(グッチ)で見習いとして働くなかで、同僚から「日本には本物のブランドがない」と言われたのです。山田さんは、「あんなブランドやこんなブランドもある!」と反論するも、それらは本当のブランドではないと言い返されました。
その人が「日本には本物のブランドがない」と言い切る真意。それは、「ブランドはマーケティングからは生まれない」という意味でした。
GUCCIもLOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)も工房から生まれています。つまり、ものづくりの現場=工場から始まっています。
その人は、日本は宣伝広告には力を入れていると評価していましたが、ブランドの根本には、デザインやマーケティング、プロモーションではなく、「ものづくり」があると指摘したのです。
マーケティング視点でものづくりをするとどうなるか。例えば商品価格。消費者が求める価格、売れる価格をまず決定し、そこから逆算して原価、製造場所が決められるという現状があります。例えば、あるT-シャツを作ることになった時、店頭小売価格で3000円が妥当となれば、通常約600円で作らないといけない。そのためには、シャツ製造を依頼する工場は、中国からベトナムかな。という流れで工場が決められます。つまりは、ものづくりの現場=工場はどこでもよいということです。
「同僚から「本物のブランドがない!」と言われて売り言葉に買い言葉で「日本から本物のブランドを作る!」と宣言したものの、日本の現状を見たら、国産比率も3%だし、工場もどんどん減っている状況だった。だからこそ日本の技術力を生かした、「ものづくりがベースのブランド」を生み出すにはもう今しかない」そうと思った。」と山田さん。
■工場が表舞台へ
ものづくりのベースが「工場」にあるため、ファクトリエで販売している商品の値段は、工場側に決めてもらっています。このフローは、上述のマーケティング視点での価格決定とは真逆です。工場自らが価格を決めることで、工場は適切な利益を得ることができます。さらに、ファクトリエには高品質な商品を生み出し、職人の想いを込められるしかけもあります。通常のファッションブランドの場合、ほとんどが工場に委託して製造してもらっているため、服のタグには、そのブランド名だけが記載されて工場名は出ません。しかしファクトリエの場合、「Factelier by ○○(工場名)」と、工場名が前面に出ます。こうしたことで、“自分たちの名前が出る以上、全力を注いで良いものを作ろう”と、工場の人たちが持っている技術を惜しみなく出し切り、想いを込めたものづくりをしてもらえるようにしています。
これまで使った宣伝広告費は0。マーケティングに頼らずに、お客様は神様ではなく、理解者であり同志と考えています。大量生産はしないのでセールや在庫処分はしません。「来年の6月まで待ってください」、「次は商品が出たら、すぐに買ってくださいね」と、このようなやり取りをすごく大切にしています。だからこそ、欲しい服を得たときの喜びもひとしおです。
半年・1年待ってやっと手に入った品質の高い商品だからこそ、これから何年、何十年と大切に愛用していただけます。
昨年から海外から商品を買えるようになり、すでに世界30か国以上から購入いただいています。まだまだですが、徐々に世界ブランドへの道を歩んでいきたいと思います。
■最後に:私達学生へのメッセージ
山田さんに気になる質問をしてみました。山田さんにとって、豊かな人生とは何か。
「自分の人生を生きることができること。そして、いま僕は夢への過程を楽しんで生きている」と返してくれました。
「やりたいと思っていることは、できることだよ。夢から逃げるのはいつも自分」と、私たち学生の背中を押してくれました。山田さんは、ファクトリエを立ち上げてから3年間で、いい工場と出会って契約するために、500以上の工場を訪れました。会いたい人に会えるまで手紙を書き続け、会ってきているからこそ、「会いたい人には会える」と断言します。
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